活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

東京外国語大学 国際日本研究センター 比較日本文化部門主催 大学院国際日本学研究院(CAASユニット)共催 「1611 年‐1616 年 ロンドンから日本に送られてきた望遠鏡と、絵画と版画の船荷――その目的と意味について考える(2017年6月27日)

主催:東京外国語⼤学国際日本研究センター・比較日本文化部門 共催:大学院国際日本学研究院

講演会 「1611年‐1616年 ロンドンから 日本に送られてきた望遠鏡と、絵画と版画の船荷――その目的と意味について考える」

2017年6⽉27⽇(⽕) 18:00~20:00 東京外国語⼤学 研究講義棟226室   

講演:タイモン・スクリーチ氏(ロンドン⼤学SOAS・美術史)
コメンテータ―:久⽶順⼦氏(本学総合国際学研究院)

 タイモン・スクリーチ氏は政治経済的コンテクストから芸術を読み解くという方法論を実践してきた。日本内外を問わず近世日本美術史研究をけん引してきた一人である。この講演会でもその方法論がいかんなく発揮された。東インド会社は最初の日本に向けた船を1611年に送った。それはイギリスでは「Emperor」と呼ばれる支配者――ここでは徳川家康を意味した――にあてたプレゼントを携えていた。豪奢に飾られた望遠鏡である。これはヨーロッパを離れた最初の望遠鏡であり、またはじめて国王級の貴賓への贈答品として作成されたものであった。家康は1613年にこの望遠鏡を駿府城で受け取った。史料は失われているが、なぜこのような贈答品が送られ、こうした計画が発案されたのか。カトリック・イエズス会の東アジア覇権に対抗するプロテスタント教会の野望がここには伏在している。そしてまた同時に、イギリス東アジア会社が計画していた「三角貿易」――ロンドンとバンテン(ジャワ)のあいだでの香辛料をもとめた銀の交易。しかしイギリスにとっての唯一で実際的な輸出物としての綿織物であり、イギリスは寒冷地の国を探していた。しかもそれは銀の供給者である必要があった。そしてこの要望に完全に合致していたのが日本であった。こうした宗教的政治的、そして経済的な要請のなかで、徳川家康に望遠鏡と版画作品が贈呈されたのである。

 講演に対する久米順子氏のコメントは、スペイン絵画研究の現在の動向を紹介することで、「プロテスタントの覇権にもとづく世界美術史の書き換え」というスクリーチ氏の展望を、これまた手堅い美術史研究に引き戻すものであった。この芸術史研究のバトルは、今後ほかの場所に転戦しておこなわれていくだろう。折り目正しい講演と議論のやりとりであったが、そこにあったのは熱い応酬であった。50名の参加者のなかには、久能山東照宮の宮司の落合偉洲氏の姿もあり(フロアーからの補足説明もなされた)、スクリーチ氏の研究と人脈の広がりの一端がうかがえるものであった。


タイモン・スクリーチ氏


久⽶順⼦氏


会場の様子


ポスター (PDFファイル)