活動報告

Activity Reports

センターの活動報告です

「外国語と日本語との対照言語学的研究」第17回研究会を開催しました(2015年12月5日)

 対照日本語部門主催の『外国語と日本語との対照言語学的研究』第17回研究会が、2015年12月5日(土)の14時から17時40に、本学語学研究所(研究講義棟419室)で開催された。当日は参加者が36名にのぼる盛会となり、充実した議論が行われた。

 第一発表として、本学の大谷直輝氏(認知言語学・英語学)による発表「空間表現に現れる話者:英語不変化詞の直示的機能(deictic function)を中心に」が行われた。
 英語の不変化詞の直示的機能について考察した本発表で、大谷直輝氏はまず先行研究で一部の用例を除いてほとんど触れられていない不変化詞の直示的用法がどの程度広範に見られるかを辞書を用いて調査し、不変化詞の直示的機能の分類・記述・分析を行った。また、直示的機能の分析を通じて、言語化されない発話者から見た相対的な位置関係がどのように言語に反映されているかについても考察した。英語の豊富な実例の分析の結果、不変化詞には広範に直示的機能は定着しており、分布と意味拡張を見ると空間的な直示機能がその他の直示的機能の基盤となっていることが主張された。

 第二発表は、本学の菅原睦氏(言語学・中期チュルク語)による発表「チャガタイ語'olča'について―-- 15世紀中央アジアにおけるペルシア語・チュルク語関係の一例として―--」であった。
 菅原睦氏は本発表において、 15世紀チャガタイ語文献において従来olčaと読まれてきた形式をとりあげ、ペルシア語からの翻訳文献『友愛のそよ風』の分析を通じて、これが実際にはペルシア語ānči (< ān「それ」+či「何」) の前半部分を対応するチュルク語olに置き換えたものであり、従ってolčiと読むべきであることを示した。発表ではまた、このような形式が用いられる背景にあった、当時のチュルク語-ペルシア語二言語使用についても考察が加えられた。

 第三番目に、東京大学の西村義樹氏(認知言語学)による講演「語彙,文法,好まれる言い回し(fashions of speaking)―--認知文法の視点」が行われた。
 著名な認知言語学の研究者である西村義樹氏は、まず認知文法の基本的コンセプトである、記号体系(の一環)としての文法、捉え方の重要性、意味構造の個別言語固有性、語彙(辞書)と文法の連続性、使用(用法)の重視といったトピックについて、代表的な先行研究での言及例の紹介を通じて確認を行った。その上で、本講演でキーワードとなる「好まれる言い回し」あるいは同義的な用語としての「慣習的な表現様式」、「ニッチ」の重要性について、やはり代表的な先行研究でどのように扱われてきたかを紹介された。その後、事例研究として日英語の使役構文と受動構文の分析が紹介された。そこでは、ボイスという観点から先行研究の知見も多い使役構文と受動構文を題材として、豊富な具体例を挙げ、各構文のプロトタイプからの拡張と好まれる言い回し、すなわち「日本語らしさ」と「英語らしさ」とされる現象の分析が紹介された。

 各発表と講演の後には、発表者・講演者と会の参加者との間で活発な質疑応答や意見交換が行われ、充実した研究会となった。
(三宅登之)

写真 (PDFファイル)

ポスター (PDFファイル)

 English page