新しい戦争? 認識論的転回の意味するもの

土佐 弘之(神戸大学)

冷戦後の一連の武力紛争の検討の結果、「新しい戦争」という概念が一部研究者たちによって使われるようになり、人口に膾炙するに至っている。「新しい戦争」の特徴として、まず国家間の戦争と異なり、非国家主体が非正規の戦闘を展開するところに特徴があるとされる。そのため、一般市民の無差別殺害など、戦時国際法が蹂躙される傾向(無法性)が顕著で、また、その戦闘目的も、イデオロギーとか地政学とかいった国家理性的なものからはほど遠い、単なる憎悪や強欲など、非理性的で排他的アイデンティティ・ポリティクスに基づいたものが多いと指摘される。さらに、それらはグローバルな戦争経済と深く結びついており、掠奪・誘拐・密輸入などの犯罪的行為を通じて戦争遂行の資金繰りがされているところにも、新しい特徴がみられるとされる。しかし、こうした「新しい戦争」論に対しては、さまざまな観点から疑問が投げかけられている。ここでは、「新しい戦争」論の持つさまざまな問題点を整理することを通じて、武力紛争についての最近の認識論的転回が持つ意味をあらためて考え直してみたい。