初級日本語教科書に現れた応答詞とその問題点

〔2006(平成18)年度日本語教育学会春季大会〕

Presenter: 小早川 麻衣子

応答詞研究においては「日本語教科書の応答詞と実際に用いられる応答詞は、その種類、機能ともに異なっている」という指摘がたびたびなされているが、実際に日本語教科書の応答詞を広く調査、分析した研究はほとんど見当たらない。本発表では、初級日本語教科書の応答詞の提示の特徴、問題点を明らかにし、今後の日本語教育における応答詞の扱いについて示唆を導くことを目的とした。

調査は、学習者への影響という観点から、国内外で広く使われている初級総合日本語教科書12点を対象とし、これらの教科書の本文会話に現れた応答詞の出現数、機能を分析した。この結果と、自然会話における応答詞の出現数、機能を分析した奥津(1988)、中島(2001)とを比較したところ、教科書に出現する応答詞には以下のような特徴が観察された。

  1) 「いいえ系応答詞(イエ、イヤ、イイエなど)」の出現割合が高い。
  2) 特に、自然会話においてはほとんど観察されていないイイエによる「否定応答」が頻出している。
  3) 「はい系応答詞(ハイ、エエ、ウンなど)」、「いいえ系応答詞」ともに、疑問文、問いに対する出現が
     中心で、自然会話で多く出現する「はい系応答詞」の相槌機能、「いいえ系応答詞」の儀礼用法の
     提示が少ない。
  4) 全応答詞の出現数における「いいえ」系の割合が自然会話と較べ非常に高い

こうした教科書の提示は学習者に、「いいえ」系応答詞は問いに対する否定として頻繁に用いられる、応答詞は(はい系、いいえ系ともに)問いに対する肯定、否定を示すものであるといった誤解を与える可能性がある。

日本語教育においてはこのような教科書の特徴を踏まえたうえで学習者に応答詞の適切な用法を示すことが必要となってくる。例えば、教室活動において、応答詞を肯定、否定応答を引き出すためのキューとして安易に用いない、イイエを代表的な否定応答として用いないといった試みが、学習者に対し応答詞の本来の姿を提示する一歩となるだろう。