自然会話における「誘いの展開パターン」について ―日韓対照研究―

〔2006(平成18)年度日本語教育学会春季大会〕

Presenter: 鄭 榮美(韓国語) (2006.5.21)

本研究は、ディスコース・ポライトネス理論に基づいて、日韓の対面自然会話における「誘い」の展開パターンとその特徴を明らかにすることを目的とするものである。本研究における「誘い」とは、「話し手が、自分と聞き手にとって利益になると考えることを、聞き手に共に遂行するように働きかける発話、または、その過程を含んだ行為」である。ある行為を行う行為者が聞き手のみである「勧め」とは区別されるものである。

会話データは、条件統制をした上で収集した日韓女子大生の友人同士の会話である(日:9会話、韓:9会話)。誘い内容は、誘い手が「気軽に誘えること」であり、会話ごとにその内容は異なっている。会話データの総時間は約5時間10分(日:約3時間31分、韓:約1時間38分)であり、会話開始から会話終了まですべてを文字化した。

分析は、まず、会話を話題ごとに分け、その中で誘い内容と関連のある部分のみを抽出し「誘い談話」とした(日:9誘い談話、韓:11誘い談話)。さらに、誘い談話を「話段」の持つ機能により、「誘い話段」、「応答話段」、「前置き話段」、「交渉話段」、「再誘い話段」、「確認話段」に分類した。

分析結果は、各誘い談話を構成する話段の種類や数、そして展開の順序が異なっていた。両言語の誘い談話の特徴を探るために、各話段が1回以上現れる誘い談話の数を比較した結果、日本語では「前置き話段、誘い話段、応答話段、交渉話段、確認話段」が、韓国語では「誘い話段、応答話段、交渉話段、再誘い話段」がそれぞれ過半数以上の誘い談話で表れた。このように過半数を超えて現れる話段を誘い談話の基本状態を構成する一つの要素として捉え、その展開を考察した。

その結果、日本語では基本状態を構成する各話段が最初現れるときに「前置き話段⇒誘い話段⇒応答話段⇒交渉話段⇔確認話段」の展開をみせている。これらは日本語の誘い展開において無標行動として捉えることができる。「確認話段」は「交渉話段」と「交渉話段」の間に存在する場合もあり、談話の最後のところに存在する場合もあった。確認話段は誘い手と被誘い手が相互の意向確認をしていることを意味している。このことから、日本語の誘いは、誘い手と被誘い手が相互の意向確認をしながら慎重に進めていく傾向が強いと結論付けた。

一方、韓国語では「誘い話段⇒応答話段⇔交渉話段⇔ 再誘い話段」の展開を見せており、これらは韓国語の誘い談話展開において無標行動となる。誘いに対する応答が来る前に、交渉が行われたり、再誘いが行われたりしている。このように再誘いが多く見られることや応答・交渉の前に来る場合があることは、誘い手の強い働きかけを表していると考えられる。このことから、韓国語の誘いは、誘い手の積極的な働きかけによって進められる傾向が強いと結論付けた。