会話教材を作成する場合、何をどう教えるか、つまり、①会話の指導の際に取り上げるべき項目にはどのようなものがあり、②それらをどう提示し、どのように指導するのが効果的か、という点について考察する必要がある。
①については自然会話分析からの知見が参考になる。例えば既に、中井・大場・土井(2004)が会話ストラテジーと談話・会話分析の先行研究を整理して「談話レベルでの会話教育のための談話技能の指導項目案」というものを提案している。これは非常に参考になるものであるが、しかしまだ談話技能のすべてが見出されているわけではなく、また、いわゆる「母語話者の内省」や「シナリオ会話」の分析に基づくものもあるため、実際の自然会話ではどうなのか、今後の更なる調査・分析が必要である。
②については、近年注目されているフォーカスオンフォーム(以下FonF)の考え方が参考になる。FonFとは「意味あるコンテクストの中で学習者の注意を言語形式にも向け、言語形式と意味/機能のマッピング(結び付け)ができるような指導」(小柳2002)のことである。語・文レベルのそれに比べ、談話技能、談話レベルの言語行動は学習者自身が意識することの難しいものである。しかし自然会話分析の成果から「フォーカスポイント」というべきものを見出し、設定することで、学習者の注意をそこに持っていくことは可能である。
本発表では、インドネシア人日本語観光ガイドと日本人観光客の会話をデータとして行われた談話レベルでのポライトネス・ストラテジーに関する研究結果に基づき、会話教育において有効な指導項目とその提示の仕方について考察する。