人間の相互作用研究の基盤となる文字化システム ―会話教材作成への示唆―

The transcription system as a basis of research of human interaction:
Implications for the development of conversation teaching materials


Presenter: 木山 幸子・宇佐美 まゆみ

話し言葉の文字化資料は、利用目的に応じた体系的な文字化システムに基づいて作成される必要がある。本発表では、まず、既存の文字化システムを概観しながら、文字化システム開発にあたって考慮されている点をまとめる。その上で、「人間同士の相互作用」としての自然会話分析に最も向くように開発された「基本的な文字化の原則 (Basic Transcription System for Japanese: BTSJ、以下BTSJ)」を取り上げ、このような文字化システムが、会話教材化に際してはどのような点において有効であるかを具体的に例証する。

「人間同士の相互作用」としての自然会話を会話教材として用いることは、重要であると考える。なぜなら、実際のやりとりにおいて自分の意図を伝え相手の発話を理解するという双方向の複雑なプロセスを示すことができるし、例えば、相手の反応を窺いながら質問の仕方を修正していくなどといった、会話参加者たち自身が自覚していないような談話レベルのストラテジーの機能に気づかせ、効率的な修得を促すことが可能だからである。

「人間同士の相互作用」として自然会話を捉え、その特徴の実証的研究が可能となる文字化システムであるBTSJは、会話参加者の知覚をなるべくそのまま再現できるような工夫が施されている。例えば、発話と発話の間に生じる間 (ま) が長いか短いかといったことは、絶対的な数値では測れない。このような理由から、絶対的な基準ではなく、相対的な基準を採用している。また、BTSJは、必要最低限のルールを提示しているので、教材開発者が、個々の目的に応じてルールを追加するなどして柔軟な対応ができる。