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講演要旨
1.「信頼と安心の年金制度」(一橋大学教授・高山憲之)
年金に対する不安と不信はどうしたら取りのぞくことができるのだろうか。人びとの年金制度へのかかわりは通常、60〜70年と長い。先がよく見えない将来においても持続し、安心して信頼することのできる年金制度―そのような年金制度についての研究はこの10年間、内外で精力的に進められてきた。その主要な研究成果を紹介したい。キーワードは「自動安定装置」「説明責任」「モチベーション(加入意欲)」の3つである。
2. 「1細胞からの生命科学:生命の安全・安心を細胞から理解する」(東京医科歯科大学教授・安田賢二) 生命システムは環境の変化によってさまざまな情報を獲得して順応する機構を持った柔軟なシステムである。時として、われわれは望まない情報を獲得することで生命の安全を脅かされることもあるが、一度、記憶された情報をどのように消去すればよいのか、その方法は未だに良くわかっていない。今回の講演では、後天的情報のすりこみ、消去のメカニズムなどの「生命システムの後天的獲得情報」のしくみについて、生命システムの最小構成単位である「細胞」から理解されてきたことをお話しする。
3.「人間の安全をめぐる多重性と超域性」(東京外国語大学助教授・真島一郎)
国家の安全保障から人間の安全保障へと、安全をめぐる議論に大きな変化が生じつつある。そのさいの安全とはだれの安心を支えるための言葉なのかという問いからは、「人間」という言葉にひそむ多重性が浮きぼりとなる。また具体的になにをめぐる安全や安心なのかという問いからは、地域と学問分野の両面における超域的な問題の広がりが予想される。安全や安心をめぐるこの2つの側面を、文化人類学の視点から考察する。
4.「鉄筋コンクリート造建物の耐震安全性の歩み:鉄筋コンクリート造建築物の耐震設計の100年を振りかえって」(東京工業大学教授・林 静雄)
日本の耐震安全性に関する研究は、1891年濃尾地震が7000人余の死者をもたらしたことに始まり、死者14万人に達した1923年関東大震災以後、本格的に行われるようになった。東京工業大学応用セラミックス研究所の前身(建築材料研究所)も震災から市民の安全を守ることを目的として1934年に設立されている。その後、大震災に打ちのめされながらも耐震技術は大きく進歩してきた。この100年の歩みを振りかえり、より安全で安心できる建物造りについて考える。