東京外国語大学日本課程推薦図書リスト・ 日本文学

  1. 日本文学全般・文学通史
  2. 古典文学
  3. 近代文学各論(主に小説)
  4. 近代文学各論(詩・劇その他)
  5. 記号論・テキスト論
  6. 文化・芸能
 付) 近代文学のおすすめ作品

1. 日本文学全般・文学通史

基本レベル

・ドナルド キーン『日本文学を読む』(新潮選書 1977 \800)
 日本の近代文学の流れを作家単位で述べている。紹介的な側面はあまり強くなく、あくまでも自身の視点から作品の個性と作品の読み所を的確に指摘している。既成の価値観に捕われない評価が興味深い。

・小西 甚一『日本文学史』(講談社学術文庫 1994 \800)
 繊細な雅と活力のある俗の混交として日本文学が成り立ち、その比重を異にしつつ時代を経てきたという著者独自の観点から通史的に論じている。さらに比較文学的な視点を取り込み、日本文学を世界文学のなかに位置づける。

・奥野 健男『日本文学史』(中公新書 1970 \720)
 近現代の日本文学の流れを論述している。作家単位でその個性を述べていく方法はオーソドックスだが、近代文学の輪郭を知るためには簡便な入門書となっている。

・三好 行雄『日本の近代文学』(塙新書 1972 \800)
 明治から戦後にかけての文学の流れを概論的に述べる。視点としては決して新しくないが、雑誌の消長や詩歌に比重を置いた記述は丁寧で、近代文学のあらましをよく伝えている。

・麻生 磯次・松田 武夫・市古 貞次『日本文学概論』(秀英出版 1968 \1800)
 日本文学の理念・風土から各時代・各ジャンルの文学の特徴、文学研究の方法のあり方など、古代から近代に至る日本文学の流れと特性を総括的に叙述している。分量的にはそれぞれの項目が綿密に書かれているとはいえないが、概論としては簡便。  

本格レベル

・小西 甚一『日本文芸史』(I〜Z 筑摩書房 1985〜92 \3900〜8800)
 外来の雅と土着の俗の図式によって古代から近・現代日本文学の全貌を捉えようとする壮大な文学史。大部だが一読の価値がある。

・吉本 隆明『言語にとって美とは何か』(勁草書房吉本隆明著作集 6 1972 \2300)
 文学作品をあくまでも言語による自己と現実の表現として捉え、詩、小説、劇のジャンルの歴史的な変遷を叙述する。話体と文学体という近代小説の分類は明快。

・伊藤 整『日本文壇史』1〜8(講談社文芸文庫 1995〜96 各\980)
 作家同士の交流に重点をおいて近代日本文学の流れを詳細に叙述する。作家の個性とともにその生き?時代を浮かび上がらせている。

・桶谷 秀昭『昭和精神史』(文春文庫 1996 \1200)
 昭和期に焦点を当て、時代の思潮と作品の生成の関係を明らかにする。

・柄谷 行人『日本近代文学の起源』(講談社 1980 \1200)
 明治以降の文学を単純に「近代」の文学であると考えずに、「風景」や「内面」を鍵として表現意識の変容のなかに成立していった「近代」を考察する。

・篠田 浩一郎『幻想の類型学』(筑摩書房 1984 \1900)
 古代から近代に至る他界観に支えられた幻想の文学作品における形象化を考える。

・山形 和美『日本文学の形相』(彩流社 1994 \3000)
 作品とモチーフの二つの次元から多角的に日本近代文学の特性を掴み取っていく。

・『柳田国男全集』8・9(内容は物語論 ちくま文庫 1990 \1130,\1030)
 原形的な話が人々に語られ、享受されることによって形成され、変容していった日本の物語の諸相を語る。

・モーリス パンゲ『自死の日本史』(ちくま学芸文庫 1992 \1800)
 古事記から三島由紀夫に至る、日本の社会と文学にあらわれた自殺の歴史を辿りつつ、日本文化の特性を探っていく。   

辞典・叢書

・『新潮日本文学小辞典』(新潮社 1988)

・国文学研究資料館編『国文学年鑑』(至文堂 毎年刊行)
 古典から近代に至る研究論文のタイトルがジャンル・題目別に並べられている。研究状況を知るには必読。

・古橋・藤井・林・山田 編『日本文芸史』全7巻(河出書房新社 1986〜)

・中西 進 他 編『日本文学新史』全6巻(至文堂 1985)

・『日本文学研究資料叢書』全100巻(有精堂 1970〜86)
 古典・近代の主要作品・作家に関する主要な論文を収録している。先行研究の基本資料として貴重。

・高木 市之助 他 編『日本文学の歴史』(角川書店 1967〜68)

・『日本文学研究資料新集』全30巻(有精堂 1986〜)
『日本文学研究資料叢書』の新版。新しい研究の傾向が分かる。

名著の窓

・加藤 周一『日本文学史序説』上・下(ちくま学芸文庫)
 古代から現代までの日本文学の様相を幅広く論じている。土着思想と外来思想を日本文化を形成する二つのベクトルと見、両者の融合する地点に日本文学の特質が形成されてきたという明快な観点が貫かれている。著書は本来日本文化全般を「雑種文化」として捉える視点を持っており、それが文学に対して実践されている。とりわけ読みごたえがあるのは、古典文学を論じた上巻。近代においては土着的なものが文化の表層から退いているために、この合成ベクトルの論理は必ずしも成り立っていないように見える。しかし個々の作家に対する把握は鋭く興味深い。

・西郷 信綱『古代人と夢』(平凡社ライブラリー)
 古典を渉猟しながら、古代人の夢に対する捉え方や考え方を探る。古い文献から我々の常識や感性を越えた世界を探り出すことの醍醐味を味わうことができるだろう。そして、そこに提示される古代人の心性の世界は魅力的である。

2.古典文学

基本レベル

・鈴木 日出男『はじめての源氏物語』(講談社現代新書)
 源氏物語の入門書には名著が少なくないが、これもその一冊。この膨大な物語を通読するコツの伝授から始まり、作品世界の多様な魅力を説く。単なる概説書にとどまらず、現在における源氏物語研究の動向もよく見据えられていて、研究入門ともなりうる。

・久保田 淳『古典を読む 山家集』(岩波書店1983 \1800)
 西行の作品世界の持つ多彩な魅力を語る。先入観を排し、着実な事実の検証に基づきながら、作品を丁寧に読み解いていくことを通して、西行という歌人の本質的な部分に迫ろうとする。文学研究の最も基本的な態度を平易な記述で示している。

・高田 衛『八犬伝の世界』(中公新書1980 \520)
 有名だがその長さゆえに取っつきにくい江戸時代の読本、南総里見八犬伝の世界を語る。切り口は斬新であり、勧善懲悪の世界を越えて、西洋の異端幻想文学にも通じる不思議な魅力を明らかにする。何よりこの作品を読んでみたいという気にさせてくれる。

・諏訪 春雄『近世の文学と信仰』(毎日選書 1981 \1100)
 宗教・民俗的な要素との関連から歌舞伎、浄瑠璃を中心とした江戸時代の文学の様相を述べている。宗教性が薄いとされがちな近世文学に、古代・中世からの信仰心が食い込んでいることが分かる。多角的、総合的な視点は著者ならではのもの。  

本格レベル

・橋本 不美男『原典をめざして−−古典文学のための書誌』(笠間書院 1974 \1890)
 本格的な文学研究に必須な書誌学の入門書。読み物としても面白い内容になっている。

・小島 憲之『古近集以前』(塙書房 1976 \3200)
 平安時代初期を彩る漢文学の世界の重厚な入門書。難解だが王朝文学理解には不可欠の書。

・秋山 虔『王朝の文学空間』(東京大学出版会 1984 \1600)
 王朝文学研究の入門書。現在における研究の出発点的な課題がよく示されている。

・ハルオ・シラネ『夢の浮橋−−『源氏物語』の詩学』(中央公論社 1992 \3800)
 米国の研究者による源氏物語論。日本における先端的な研究が見事に踏まえられている。

・風巻 景次郎『中世文学の伝統』(岩波文庫 1985 \400)
 中世和歌研究の古典。昭和十年代の執筆だが、今でも学ぶところが大きな一書である。

・唐木 順三『中世の文学』(筑摩書房、絶版古書、『唐木順三全集』でも読める)
 多くの人を中世文学の世界に誘い込んだ名著。古書店を足で探す価値有り。

・久保田 淳『藤原定家とその時代』(岩波書店 1994 \6200)
 現在における最も着実な文学研究の方法を学ぶためにも勧められる一書である。

・諏訪 春雄『近松世話浄瑠璃の研究』(笠間書院 1974 \12360)
 近松門左衛門の世話物の浄瑠璃を作品鑑賞と現実の出来事の取り込み方といった手法面の両面から総合的に考察する。

・高橋 英夫『芭蕉−−ミクロコスモスに向って』(講談社 1989 \2500)
 俳句というミクロコスモスによって自然と伝統という空間的、時間的なマクロコスモスを映し出す世界として芭蕉を捉える。文章が読みやすい。

・金井 寅之助『西鶴考』(八木書店 1991 \8034)
 文体論、書誌的研究を交え、西鶴の世界を多角的に浮かび上がらせていく。とくに各作品の版下を検討していく手続きは丹念で研究者の情熱を感じさせる。

辞典・叢書

・『日本古典文学大辞典』全6巻(岩波書店 1984)

・『日本古典文学大辞典』簡約版 全1巻(岩波書店 1986)

・市古 貞次 編『国文学研究書目解題』(東京大学出版会 1982)
 1980年までに刊行された日本文学の主な研究書の解題。

・市古 貞次・大曽根 章介 編『複製翻刻書総覧』(東京大学出版会 1982)
 1980年までに複製・翻刻された古典作品の目録。

・『図書総目録』全9巻(岩波書店 1977)
 現在知られる江戸時代以前の図書の目録。写本・板本の所在などが分かる。

・『鑑賞日本文学』全35巻(角川書店 1975完結)
 主要な作品の本文の抄録と詳しい注・解説・エッセイから成る。

・『シリーズ古典を読む』(岩波書店 刊行中)
 学者・作家が一つの作品を取り上げ、本文に即しながら、読みを示す。

・『増補国語国文研究史大成』全15巻(三省堂)
 主要な古典作品の研究史をまとめたもの。研究文献目録が便利。

名著の窓

・風巻景次郎『新古今時代』(風巻景次郎全集6巻、桜楓社 1970)
 『新古今和歌集』の先駆的な研究書の一つである。その歌集の特質を歴史的に定位しようとする「新古今篇」、慈円・定家・為家の伝を扱う「作家篇」、関連した文献をめぐっての諸考察を収めた「文献篇」からなり、論文集の形態を取る。すでに初版から60年以上を経ていて、それ以後、この歌集をめぐる資料の発掘蓄積は膨大であり、論の集積も然りである。しかしこの書は、研究上の困難に逢着したとき、つい手にしてしまう書物であり、古びることなく示唆を与え続けてくれる。現在の研究の出発点として位置づけられる一書である。初版は1936年。

3.近代文学各論(主に小説)

基本レベル

・山崎 正和『鴎外闘う家長』(新潮文庫 1980 \360)
 鴎外論の白眉というべき長編評論。近代国家の建設期にあって、国と家の両方の求めを引き受ける家長として生き抜きつつ、近代人としての自我の空白を意識せざるをえなかった文学者として鴎外を捉える。作品と人生をともに作家の表現として位置づける著者の立場が明確に打ち出されている。

・磯田 光一『永井荷風』(講談社文芸文庫 1989 \1200)
 ムラ的な風土を残存させた近代の日本社会において、西洋と江戸を自己の拠点として徹底した個人主義の人生を貫いた永井荷風の軌跡を辿る。時代の文脈のなかで作家の表現と人生を考察する論の代表的な一つ。

・平川 祐弘『夏目漱石』(講談社学術文庫 1991 \1100)
 漱石の留学体験に主眼を置き、西洋を学ぼうとしつつ、決定的な違和感から孤独や憂鬱に陥っていく漱石の苦悩を浮かび上がらせている。世界史的な視点から近代日本の精神のあり方を探ろうとした著作。

・小森 陽一『漱石を読みなおす』(ちくま新書 1995 \680)
 「捨て子」の意識をもって近代の産業化の時代を生き抜いた作家としての漱石の意識と表現を検証する。作品の解釈よりも作家の存在に比重を置き、著者の数多い漱石論のなかでは比較的平易に書かれたもの。

・川村 湊『戦後文学を問う』(岩波新書 1995 \620)
 終戦時から1990年代に至る戦後文学の流れを押さえながら、そこにはらまれてきた「安保」「性」「在日」といった問題を考察していく。戦後における社会と文学の関係を知るには好適の書。  

本格レベル

・江藤 淳『漱石とその時代』(第一部〜第四部  新潮選書 1970〜96 各\1500〜1800)
 明治社会を生きることによってどのように漱石の世界はもたらされたのか。豊富な資料を用いた考察には読みごたえがある。

・柄谷 行人『漱石論集成』(第三文明社 1992 \2000)
 著者の出発点を成す漱石に対する考察。単なる文学研究の域を越えた、思想的な蓄えを感じさせる叙述が独特。

・山崎 正和『不機嫌の時代』(新潮社 1976 \900)
 日露戦争後の日本に浸透していた「不機嫌」な空気を志賀直哉、永井荷風らの作品を通して検証する。文学と歴史の接点を探る著作。

・菅野 昭正『横光利一』(福武書店 1991 \2500)
 希代のモダニストである横光利一の軌跡を緻密な作品読解を軸に辿っていく。

・野口 武彦『谷崎潤一郎論』(中央公論社 1973 \1500)
 鋭利な批評眼と豊富な思想的文脈の活用で谷崎の世界を解明する。

・前田 愛『近代読者の成立』(岩波同時代ライブラリー 1993 \1200)
 作品を享受する読者の存在に光を当て、作品研究に片寄りがちな文学研究のあり方に新しい視座を拓く。

・村松 剛『三島由紀夫の世界』(新潮社 1990 \2200)
 私生活上の人間関係に重点を置いて、三島由紀夫の辿った足跡と作品における主題との関係を洗い出す試み。

・饗庭 孝男『小林秀雄とその時代』(文芸春秋 1986 \1700)
 小林秀雄と彼が関わった大正から昭和にかけての文学、思想の流れを浮き彫りにする。 幅広い視点からの考察は示唆深い。

・中島 国彦『近代文学にみる感受性』(筑摩書房 1994 \9800)
 美術・音楽をも含めて文学作品に表出された日本人の感受性のあり方を総合的に捉えていこうとする。大部だが読みごたえがある。

辞典・叢書

・近代文学館 編『日本近代文学大辞典』(講談社 1984)
 近代文学の辞典としてはもっとも詳しく、引き甲斐がある。

・吉田 精一 編『日本文学鑑賞辞典』(東京堂 1960)

・三好・浅井 編『近代日本文学小辞典』(有斐閣 1981)

・長谷川 泉『新編 近代名作鑑賞』(至文堂 1967)

・浅井・吉田 他 編『研究資料 現代日本文学』(明治書院 1980〜81)

・紅野・三好 他 編『明治の文学』(有斐閣新書 1972)

・紅野・三好 他 編『大正の文学』(有斐閣新書 1972)

・紅野・三好 他 編『昭和の文学』(有斐閣新書 1972)

・松原・磯田・秋山 編『増補改訂 戦後日本文学史・年表』(講談社 1979)


名著の窓

・江藤 淳『夏目漱石』(新潮文庫 1979 \520)
 漱石研究に新しい地平を開いた評論。即天去私によって括られがちであった漱石の神話を覆し、生と死の葛藤をはらみながら不器用に自己と格闘した文学という新しい把握を差し出した。主な論考は昭和31年(1956)に最初に出版されているが、当時まだ著者は二十代の前半で、その評論活動の出発点となった記念碑的な著作である。若さを反映して叙述はしばしば断定的に過ぎるが、作家と作品に立ち向かう清新な意気込みが印象的。

4.近代文学各論(詩・劇その他)

基本レベル

・桑原 武夫『第二芸術』(講談社学術文庫 1996 \240)
 戦後間もない頃に、俳句の価値を相対化する主張をおこなった論。俳句においては主体の表出が明確ではなく、その点で「第二芸術」の位置にあるとした。日本の伝統的な文化の価値に異議を唱えて議論を引き起こした。

・吉本 隆明『宮沢賢治』(ちくま学芸文庫 1996 \1200)
 作品と書簡の両面からの読み込みによって、大人から子供までを魅了する宮沢賢治の世界に切り込もうとする。とくに賢治の生涯を決定づけることになった法華経信仰の理念がその人間観、自然観に強く反映されていることを検証する。

・俵 万智『短歌をよむ』(岩波新書新赤版 1993 \700)
 『サラダ記念日』で一世を風靡した著者が、短歌の読み方、作り方を平易に説いている。主観的な思いがいかにして短歌のスタイルのなかで客観化されるかという点に主眼を置き、多くの作品を通して具体的に述べられている。

・大岡 信『詩・ことば・人間』(講談社学術文庫 1985 \680)
 言葉が人間に対してどのような意味を持ち、どのようにして詩となるのかという基本的な問題について、イメージを中心として平易に語っている。話題は詩に限定されず、書や辞典などにも広がっているが、詩的な表現の本質について知るには好適の書。

・平田 オリザ『演劇入門』(講談社現代新書 1998 \640)
 劇作家であり演出家である著者が、現実的なリアルさと演劇的なリアルさの違いを軸として、戯曲、演出、演技のあり方などを語っていく。今現在の演劇の姿に興味を持っている人にはおすすめ。  

本格レベル

・吉本 隆明『戦後詩史論』(大和書房 1978 \1200)
 難解といわれがちな戦後詩の様相を、時代状況の変遷との関わりのなかで解明していく。

・磯田 光一『萩原朔太郎』(講談社文芸文庫 1993 \1200)
 作品の表現の分析にとどまらず、萩原朔太郎の生きた時代・風土のなかにその営為を位置づけ、「漂泊者」としての朔太郎の新しい像を提起している。

・北川 透『詩的レトリック入門』(思潮社 1993 \2800)
 言葉が詩となり、作品となるメカニズムを、多くの作品の引用をもとに、意味、イメージ、比喩などといったレトリックの分析によって分かりやすく考察している。

・菅野 昭正『詩学創造』(集英社 1984 \2800)
 北原白秋、萩原朔太郎などの近代の代表的な詩人を詳細に論じた評論。

・山崎 正和『劇的なる日本人』(新潮社 1971 \850)
 西洋とは異質な、アイデンティティーの不安に発する日本独自の劇性を考察している。 日本文化論としても貴重。

・河竹 登志夫『近代演劇の展開』(新NHK市民大学叢書 1982 \900)
 西洋演劇を摂取しつつ、同時に能、歌舞伎といった伝統芸能をいかに継承するかという問題に取り組んできた日本の近代演劇の歩みを辿る。

・鈴木 忠志『騙りの地平』(白水社 1980 \1800)
 世界的な演出家が伝統と前衛の狭間での創造行為の意味を問いただしていく。

・中村 雄二郎『言葉・人間・ドラマ』(青土社 1981 \1800)
 言葉が人間の情念と結びつき、ドラマの空間を現出させるあり方を哲学者独特の緻密な考察で追求する。

・渡辺 守章『空間の神話学』(朝日出版社 1978 \2000)
 学者、演出家、俳優ら多彩なゲストを招いて古典と現代、西洋と東洋をまたぎ越す劇空間の可能性について論議する。

・堂本 正樹『劇人三島由紀夫』(劇書房 1994 \3800)
 卓越した劇作家でもあった三島由紀夫の劇の世界を解明する。三島の主要な戯曲が新鮮な角度から論じられている。

辞典・叢書

・『現代詩鑑賞講座』全10巻(角川書店 1969年)

・『現代詩大系』全7巻(思潮社 1966〜67 年)

・『日本現代詩大系』全13巻(河出書房新社 1974〜76 年)

・『日本現代詩大系』全4巻(檸檬社 1988〜89 年)

・『鑑賞・現代短歌』全11巻(本阿弥書店 1991〜93 年)

・『現代戯曲選集』全5巻(河出書房 1951年)

・『現代日本戯曲選集』全12巻(白水社 1955〜56 年)

・『演劇論講座』全6巻(汐文社 1976〜77 年)


名著の窓

・正岡 子規『歌よみに与ふる書』(岩波文庫 1983 \250)
近代の詩・劇に関する著作で、安価でしかも容易に手に入る「名著」は少ないが子規のこの評論はその一つ。手紙の形をとって近代における短歌のあり方を提言した古典的な書。原著は明治31年(1898)「日本新聞」に掲載されている。『古今集』の技巧的な歌を批判し、『万葉集』を範として感情の率直な流露として歌がつくられるべきことを主張している。この時32歳であった子規はすでに病床から動けない状態にあったが、短歌・俳句の革新を目指して衰えることのないエネルギーを示していた。この著作も子規の情熱の発露された一編である。

5.記号論・テキスト論

基本レベル

・前田 愛『文学テクスト入門』(ちくま学芸文庫 1993 \780)
 西洋のテキスト論の成果を踏まえながら、作品読解の新しい地平を示す。ストーリーとプロット、コードとコンテキストといった概念によって日本文学の作品の構造を分析しながら、言葉による織物としての作品の魅力を伝えている。

・大江 健三郎『新しい文学のために』(岩波新書 1988 \480)
 主にロシア・フォルマリズムの理論を踏まえ、その中心的な観念である異化を軸として、文学作品の生成を読み解いていく。とくに異化が人間の想像力をいかに活性化するかに力点が置かれている。

・篠田 浩一郎『小説はいかに書かれたか』(岩波新書 1982 \550)
 『破戒』から『死霊』に至る近代文学の主要な作品を取り上げて、言語表出の革新の過程をたどる。文体、表現の特徴を丹念に押さえた読解には説得力がある。

・磯田 光一『思想としての東京』(講談社文芸文庫 1990 \780)
 多くの作品の舞台となった東京という都市の空間が、日本の近代化とともにどのように変容していったかを、文学作品のみならず、地図や流行歌などを活用して生き生きと考察する。

・野口 武彦『近代小説の言語空間』(福武書店 1985 \1340)
 二葉亭四迷における「地の文」の成立を初めとして、近代の文学作品に認められる文語と口語の揺れなど、言語の機能に関わる諸問題を幅広く考察する。作品論としても興味深いものが多い。  

本格レベル

・蓮実 重彦『表層批評宣言』(筑摩書房 1979 \1200)
 文学作品を作者の思想や感情が主題として表出した場としては考えず、あくまでも言葉自身のはらむ生命を汲み出す契機として捉える批評の姿勢を打ち出す。

・小森 陽一『文体としての物語』(筑摩書房 1988 \3200)
 文学作品において表現されるものが、作者の意図とは別個にあくまでも語られた言葉として織り成されていくメカニズムを解明する。

・芳川 泰久『漱石論』(河出書房新社 1994 \3800)
 精神分析学、熱力学などの理論を援用しながら、漱石の世界に新しい読解の座標軸を投げかけている。魅力的な作品論が多く含まれている。

・中村 三春『フィクションの機構』(ひつじ書房 1994 \3200)
 西洋の新しい読解の理論を多彩に活用しつつ、横光利一、太宰治などの言説を精緻に分析していく。やや頭でっかちな感じだが、冒険的な研究書。

・渡辺 直己『読者生成論』(思潮社 1989 \2060)
 フロイトの理論を踏まえつつ、さらに大胆に作品を捉える想像力の活動の場として、読書行為の可能性を探っていく。

・谷川 恵一『言葉のゆくえ』(平凡社選書 1993 \2678)
 明治20年代の作品を取り上げながら、内容そのものというよりもそこに侵入している医学、心理学といった様々な「科学」がいかに「文学」と交錯しているかを探る。

・藤森 清『語りの近代』(有精堂 1996 \3399)
 夏目漱石、島崎藤村などの近代文学の作品を、語りの問題に重点を置いて読み解いていく。

・日高 昭二『文学テクストの領分』(白地社 1995 \3800)
 労働、資本といった社会科学的な視野を取り込みつつ、近代文学作品の内部と外部を論じる。

辞典・叢書

・ジェラルド プリンス『物語論辞典』(松柏社 1991)

・チルダース、ヘンツィ 編『現代文学・文化批評用語辞典』(松柏社 1998)

・日本記号学会 編『記号学研究』1〜3(北斗出版 1981)

・『新岩波講座 哲学』1〜16(岩波書店 1985〜86)

・『講座 記号論』1〜4(勁草書房 1982)

・『現代哲学の冒険』1〜15(岩波書店 1990〜91)
 記号論・テクスト論は西欧の理論の移入が契機となっているために、20世紀西欧の哲学・美学を学ぶことから離れられない。著者も文学畑の人よりも哲学畑の人の方が多くを占めている。しかし哲学は人文科学一般の母胎であり、とくに将来文学を専門的に研究しようと思っている人は、こうした書物にも眼を通してほしい。


名著の窓

・前田 愛『都市空間のなかの文学』(ちくま学芸文庫 1992 \1600)
 文学作品を作家−−作品の閉じられた回路で考えるのではなく、作品の生み出された時代・社会の文脈のなかに位置づけ、開かれた世界としての文学表現のあり方を考察している。タイトルにあるように都市空間のなかに生まれた言語世界として、作品を捉える視点が前面に押し出されている。とくに豊富な資料を用いて鴎外の『舞姫』や横光の『上海』を論じた批評は見事。近代文学研究に新しい地平を開いた前田愛の世界を知るにはもっとも好適な著作。現在の研究も多かれ少なかれこの著作の路線のなかでおこなわれているといっても過言ではない。

6.文化・芸能

基本レベル

・岡倉 天心『茶の本』(桶谷秀昭訳 講談社学術文庫 1994 \680)
 明治期に東洋と西洋を結ぶ活動をした天心の代表作の一つ。茶道を単に審美的な趣味として見なさずに、日本人の自然に対する関わり方を凝縮させたものとして捉え、華道をも含めた歴史と美学を総合的に論じている。日本文化を普遍的な文脈で語ろうとする意欲に満ちた著作で、原著は明治39年(1906)に英文で書かれている。

・林屋 辰三郎『日本芸能の世界』(NHKブックス 1973 \700)
 演じると同時に観客としても日本の芸能を支えつづけた民衆に重点を置き、主に古代から中世にかけての日本芸能の発展を講演形式で平易に語っている。著者の研究のエッセンスを知るには好適の書。とくに観客、聴衆の変遷を論じた最後の章が興味深い。

・津田 類『江戸歌舞伎の周辺』(ぺりかん社 1990 \2300)
 江戸の庶民の生活を背景として成熟していった歌舞伎を、役者と客の関係などを軸としてわかりやすく解説していく。名優のエピソード、江戸の遊女の生態、作品の背後にある宗教的な文脈など、興味深い話が多い。

・河竹 登志夫『憂世と浮世』(NHKブックス 1994 \860)
 世阿弥、近松門左衛門、河竹黙阿弥という、日本を代表する演劇人を取り上げ、能、文楽、歌舞伎の三つのジャンルにおいて、表現されてきたものの本質を考察する。能と歌舞伎の背後にある世界を「憂世」と「浮世」として対比する図式は分かりやすい。

・剣持 武彦『「間」の日本文化』(講談社現代新書 1978 \420)
 空間を埋めつくさず、余白を残すことを尊ぶ感覚が日本人の生活・文化の様々な層に 浸透している。この日本文化を特徴づける「間」の美学を、比較文化・文学的な視座を踏まえながら柔軟に論じている。  

本格レベル

・和辻 哲郎『風土』(岩波文庫 1979 \570)
 日本人の民族性と自然風土との関係を考察する。モンスーン地帯の湿潤な風土ゆえに養われた日本人の文化と生活の特性を明快に語っていく。

・谷崎 潤一郎『陰影礼賛』(中央文庫 1995 \480)
 明るい光のもとにさらけ出された輪郭よりも、ほの暗さのなかに浮かび出る美の味わいを尊重しようとする日本文化論。谷崎の一個の「作品」としても貴重。

・山崎 正和『芸術・変身・遊戯』(中央公論社 1975 \1200)
 イデア論よりも人間同士のコミュニケーションを重視する日本の芸術の特性を、世阿弥の芸術論を中心として明快に論じる。

・青木 保『「日本文化論」の変容』(中央公論社 1990 \1450)
 日本の近代の歩みのなかで、〈日本〉はどのように捉えられ、論じられてきたのか。90年代に至る内外の日本文化論の特性とその変容の過程を論じる。

・横井 清『下剋上の文化』(東京大学出版会 1980 \1500)
 狂言の太郎冠者に象徴される、中世のたくましい民衆文化とその歴史的、宗教的な背景を探っていく。

・林屋 辰三郎『中世芸能史の研究』(岩波書店 1960 \3800)
 古代から中世に至る日本芸能の変遷を、歴史、宗教にわたる豊富な資料を活用して実証的に叙述していく。

・桜井 好朗『中世日本文化の形成』(東京大学出版会 1981 \3200)
 神話と歴史の叙述を中心として、宗教・文学・芸能が中世の表現においてどのように錯綜し、連関し合っていたかを、幅広い視野から考察する。

・小刈米 硯『葡萄と稲−−ギリシャ悲劇と能の文化史』(白水叢書 1977 \1500)
 様々な共通点を持つ能とギリシャ悲劇を文化論の地平から多彩に論じる。

・ポール クローデル(内藤 高 訳)『朝日の中の黒い鳥』(講談社学術文庫 1998 \640)
 詩人であり、駐日仏大使であった著者が、能、文楽などに鋭い観察の目を向ける。と くにその能に関する把握は名高い。

・ロラン バルト(宗 左近 訳)『表徴の帝国』(ちくま学芸文庫 1996 \951)
 著者が日本滞在中に見聞した能、文楽からパチンコ、学生運動に至る日本の文化現象のすべてに平等の視線を注ぎ、テキストとして〈読解〉していく。

辞典・叢書

・日本ナショナル・トラスト編『日本民俗・芸能辞典』(第一法規出版 1976)

・『民俗芸能事典』(東京堂出版 1981)

・『日本文化辞典』(新樹社 1983)

・芸能史研究会編『日本の古典芸能』全10巻(平凡社 1969〜71)

・芸能史研究会編『日本芸能史』全6巻(法政大学出版局 1981〜88)
 古代から近代に至る日本の芸能の流れを分かりやすく追っている。能や歌舞伎がどのような環境を背景として生まれ、変容していったかがよく分かる。

・『現代日本文化における伝統と変容』全7巻(ドメス出版 1984〜91)

名著の窓

・九鬼 周三 『「いき」の構造』(岩波文庫 1979  \300)
 日本人独特の美意識である「いき」の構造について考察し、「諦め」と「媚態」が 融合した地点に「いき」が成り立つという論を提示している。さらに着物の横縞よりも縦縞の方が「いき」であり、色彩としては灰色、褐色、青色の三系統が「いき」であるといった具体的な規定がなされている。いわくいい難いものとされがちな日本人の美意識に哲学の光を当て、その本質を掴み取ろうとする意欲に支えられている。また九鬼の母が芸者上がりの人であったことを考えると、この著作には密かな母恋いの思いが流れていることが分かる。原著は昭和5年(1930)に刊行されている。



付) 近代文学のおすすめ作品



 1、2年次の学生(主として留学生)用の、文庫本で読める近代文学の作品を80点選んでみました。基準は文章が比較的平明で読みやすいこと、短編・中編であること、主要作家の代表的な作品であること、などです。時代的には明治期から現代までを網羅し、ジャンル的には小説を中心として詩集、戯曲、評論も含んでいますが、全体に新しい時代の作品に比重をかけています。いずれも読んで損はない作品ばかりですから、チャレンジしてください。


  作家名・作品名(発表年)

樋口 一葉『たけくらべ』(明28)

樋口 一葉『にごりえ』(明28)

森 鴎外『舞姫』(明24)

森 鴎外『雁』(大4)

夏目 漱石『坊つちやん』(明39)

夏目 漱石『夢十夜』(明41)

国木田 独歩『忘れえぬ人々』(明31)

田山 花袋『蒲団』(明40)

島崎 藤村『千曲川のスケッチ』(明45)

石川 啄木『一握の砂』(明43)

志賀 直哉『大津順吉』(大元)

志賀 直哉『城の崎にて』(大6)

有島 武郎『カインの末裔』(大6)

谷崎 潤一郎『刺青』(明43)

谷崎 潤一郎『吉野葛』(昭6)

永井 荷風『すみだ川』(明43)

永井 荷風『遑東奇譚』(昭12)

萩原 朔太郎『月に吠える』(大6)

佐藤 春夫『田園の憂鬱』(大7)

芥川 龍之介『地獄変』(大7)

芥川 龍之介『河童』(昭2)

菊池 寛『忠直卿行状記』(大7)

井伏 鱒二『山椒魚』(大12)

江戸川 乱歩『D坂の殺人事件』(大14)

梶井 基次郎『檸檬』(大14)

小林 多喜二『蟹工船』(昭4)

川端 康成『伊豆の踊り子』(大15)

川端 康成『禽獣』(昭8)

横光 利一『機械』(昭5)

堀 辰雄『聖家族』(昭5)

三好 達治『測量船』(昭5)

島木 健作『癩』(昭9)

小林 秀雄『モオツアルト』(昭11)

中野 重治『村の家』(昭10)

中島 敦『名人伝』(昭17)

中島 敦『李陵』(昭18)

宮沢 賢治『春と修羅』(大13)

宮沢 賢治『銀河鉄道の夜』(昭16)

火野 葦平『麦と兵隊』(昭13)

太宰 治『斜陽』(昭22)

坂口 安吾『白痴』(昭21)

石川 淳『焼跡のイエス』(昭21)

椎名 麟三『永遠なる序章』(昭23)

野間 宏『暗い絵』(昭21)

大岡 昇平『野火』(昭23)

安部 公房『壁−S・カルマ氏の犯罪』(昭26)

安部 公房『砂の女』(昭37)

三島 由紀夫『仮面の告白』(昭24)

三島 由紀夫『潮騒』(昭29)

小島 信夫『アメリカン・スクール』(昭29)

武田 泰淳『ひかりごけ』(昭29)

井上 靖『天平の甍』(昭32)

安岡 章太郎『海辺の光景』(昭34)

遠藤 周作『海と毒薬』(昭32)

吉行 淳之介『驟雨』(昭29)

深沢 七郎『楢山節考』(昭31)

大江 健三郎『芽むしり仔撃ち』(昭33)

大江 健三郎『新しい人よ目覚めよ』(昭58)

石原 慎太郎『太陽の季節』(昭31)

開高 健『パニック』(昭32)

倉橋 由美子『パルタイ』(昭35)

庄司 薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』(昭44)

古井 由吉『杳子』(昭45)

井上 ひさし『道元の冒険』(昭46)

つか こうへい『熱海殺人事件』(昭48)

中上 健次『岬』(昭50)

村上 龍『限りなく透明に近いブルー』(昭51)

藤枝 静男『田紳有楽』(昭51)

宮本 輝『蛍川』(昭52)

筒井 康隆『虚人たち』(昭56)

村上 春樹『風の歌を聴け』(昭54)

村上 春樹『蛍』(昭58)

津島 佑子『黙市』(昭58)

増田 みず子『自殺志願』(昭57)

島田 雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』(昭58)

吉本 ばなな『キッチン』(昭62)

松浦 理英子『セバスチャン』(昭56)

山田 詠美『ベッドタイムアイズ』(昭60)

笙野 頼子『タイムスリップ・コンビナート』(平6)

多和田葉子『文字移植』(平8)
 コメント

聖域としての少年少女たち。

自分を意識する女の原点。

愛する女を捨てて官に復する男。

偶然に左右される女の生。

爽快な落ちこぼれ男。

現実と幻想の交錯する世界。

無名の人間への眼差し。

自分をさらけ出す私小説の原点。

人間の生の基盤としての自然への愛着。

生活感を歌い上げる歌集。

父に反抗することで自分となる物語。

死をくぐり抜けた末の眼差しの静かさ。

人間の抱えた野性を摘出する。

刺青を施されて変身する女。

母恋いを派生させる物語。

失われつつある前近代への郷愁が漂う。

小説を書く男と女給の邂逅。

近代人の心象を刻む名詩集。

神経が病的に研ぎ澄まされていく。

娘を犠牲にして絵を完成させる執念。

河童の国に仮託して人間世界を諷する。

自分を見失って狂気に至る男。

岩穴に閉じ込められた山椒魚。

人間の心理を活用する推理小説の原点。

一個のレモンに託された繊細な神経。

搾取される労働者たちの姿がリアルに。

一高の青年と旅芸人の短い交わり。

人間と犬鳥に同じ眼差しを向ける男。

機械のように入り組んだ人間心理の交錯。

先輩の死を乗り越えて。芥川への鎮魂。

現代と古典が交錯する言葉の世界。

癩病になっても転向しない旧友。

他者によって己れを語る批評。

転向したことを恥じる息子となじる父親。

一芸を極めて無に帰った男。

中国を舞台にして知識人の運命を探る。

文学として高められた宗教的感情。

イニシエーションとしての宇宙旅行。

日常としての戦争のなかに生きる。

混乱の中で新しい倫理を求めて。

混沌としての世界が持つエネルギー。

汚れから聖への一瞬の変容。

〈現在〉にたゆたう不安と安穏。

絵に託された戦後の重苦しい空気。

兵士を天使に変容させる狂気。

名前を失った浮遊感。

無機物を有機物に転換させる寓話。

同性愛者として自己を造形する叙述。

物語に導かれて愛を成就させる若者。

終戦後の混乱期に揺れ動く人々。

極限状況における生の倫理。

日中を結ぶ使命に自己を没した男。

死にゆく母への絆を再認識する青年。

倫理を呑み込んでしまう海としての日本。

娼婦との交わりを詩的に叙述する。

山に捨てられる旧習を受容する老母。

疎外された少年たちの情念の噴出。

障害を持つ息子との共生の苦しみと喜び。

自由を手にするために反抗する青年。

暗くうごめく力としての鼠との闘い。

政治的モチーフを知的な寓話に仕組む。

過剰な困惑の時代としての青年期。

日常に居場所を見出せない少女。

人間存在の両極を体現する宗教家の像。

カッコいい犯罪者を目指して再出発。

青年の肉体にたゆたう生命の激しさ。

感覚のなかにしか存在しない青年たち。

茶碗やぐい呑みが交わる不思議な世界。

少年の眼に写された大人の世界。

現実の模倣であることを拒む物語。

政治の季節の終りへの予感。

死を含み込んだ生への認識。

別れた男と再会する時間。

孤独を自分の住みかとする人間。

現実を享受しつつ憎悪する青年の心理。

自分であることを実感する空間。

女が女を愛することの自由さ。

主体として男を愛する女の激しさ。

現実と妄想の錯乱を引き起こす言葉。

二つの言語の間の往還運動。


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