ウルドゥー語
(英:Urdu)


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萩田 博

概説

  1. 系統

    インド・ヨーロッパ語族、インド語派

  2. 使用地域

    パキスタン・イスラーム共和国、インド共和国。

  3. 話者人口

     ウルドゥー語を母語とする者はパキスタンで約1千万人、インド共和国では約5千万人と推定される。またウルドゥー語はパキスタンの国語であるため、人口1億3千万人のうち第2言語としてウルドゥー語を使用するものは相当数に上ると推定される。特にパキスタンの人口の半数以上を占めるパンジャービー語を母語とする人の大半が居住するパンジャーブ州では教育媒介言語がウルドゥー語と英語であるため、ウルドゥー語を第2言語とする者は非常に多い。

  4. 言語をめぐる歴史

     近代インド・アーリヤ諸語の成立を10~11世紀頃に置くとすると、 その当時から始まったペルシャ系及びトルコ系の諸民族のインド進出がウルドゥー語の成立の重要な契機となった。 特に1206年からのデリー・ムスリム諸王朝、1526年からのムガル朝の時代に、 当時デリー近郊で話されていたカリー・ボーリー方言にペルシャ語及びペルシャ語に入っていたアラビア語の語彙、 若干のトルコ語語彙が混交してウルドゥー語が成立していったと考えられるが、資料上の制約から、 14世紀頃までの歴史的展開は明確ではない。

     15世紀になると南インドのデカン地方に起こったムスリム王国でウルドゥー語による文学活動が行われるようになった。 これをダキニー・ウルドゥー語と呼ぶこともある。 18世紀にはいると北インドでもウルドゥー語による文学活動が盛んになり、資料も豊富になってくる。 ウルドゥーという言語名は本来は(シャージャハーナーバード(デリーの旧称)の高貴な陣営の言葉)という ペルシャ語による呼称が短縮され のみになったとされている。

     19世紀後半になるとイギリスのインド植民地支配の下で、 政治的・経済的利害が原因で元来同一言語であるヒンディー語とウルドゥー語が特に語彙の面で分化していくようになる。

     1947年のインド・パキスタン分離独立後、 避難民としてインドからパキスタンに移住したウルドゥー語話者は主としてカラチ、 ハイダラーバードなどスィンド州の都市部に定住した。 パキスタン国内での彼らの人口比は6~7パーセントにとどまっているが、 ウルドゥー語は多民族国家パキスタンの共通語として全土にわたってかなり普及している。

  5. 言語に関する状況

     パキスタンでは主な地方語としてパンジャービー語、スィンディー語、パシュトー語、バローチー語などがある。 スィンド州では教育言語を巡ってウルドゥー語支持者とスィンディー語支持者の間で紛争が引き起こったことがある。 インドではウルドゥー語の話者はウッタルプラデーシュ州、ビハール州などに比較的集中しているが、 ヒンディー語の普及によって、ウルドゥー語の文字を読み、書くことのできるものが、 特に若年層で減少傾向にあると言える。

  6. 文字と音声

    文字:ウルドゥー語の表記はペルシア文字(32文字)にインド系の音を表記するために使用される 3文字を加えたアラビア系文字を使用する。

    音声

    • 母音は以下のとおり。またそれぞれに鼻母音がある。
      a, â, i, î, u, û, e, ai, o, au
    • 子音は以下のとおり。
    b, p, t, , s, j, c, h, x, d, , z, r, , , , f, q, k, g, l, m, n, v, y, bh, ph, th, , jh, ch, dh, , , kh, gh

    アクセントとイントネーション:アクセントはウルドゥー語では語義の区別には関与しない。語中の長母音にアクセントが置かれることが多い。イントネーションは平叙文では下降調、疑問詞をともなう疑問文では疑問詞が上昇調、疑問詞をともなわない疑問文では文末が上昇調になる。

  7. 言語の構造と特徴

    ・語順:ウルドゥー語の語順は日本語と同じように主語+目的語+動詞となるのが普通である。

    ・言語の特徴:述語部分に他動詞の過去分詞が用いられると主語がneという後置詞をとるという能格構文がある。