スペイン語
(英:Spanish)


ことばの概説 |  辞書・学習書 |  学習機関


ことばの概説


1.言語の基本構造


1.1.母音:5
iu
半狭eo
a

1.2.子音:19
唇音歯音歯茎硬口蓋軟口蓋
閉鎖音無声ptk
有声bdg
摩擦音fθsx
破擦音ts
鼻音mn
側面音l
弾き音
震え音r




1.3.構文・語順

1.3.1.文の基本語順

 文の構造  文の基本的構造はSVO(主語+動詞+目的語)型であるが,文要素の語順は比較的自由である。 心理動詞など動作性の低い動詞は主語後置が原則である。 気象現象・存在などを表す動詞の構文は主語がない。 また主語が代名詞化されると普通は動詞の人称語尾によってのみ表示される。

他動詞文
   El estudiante lee un libro.  その学生は本を読む。
   Lee un libro.  彼(彼女)は本を読む。
   No leo un libro.  私は本を読まない。
   El libro lo leo.  その本は私が読む。
   Hay un gato en el sofá.  ソファーの上にはネコがいる。(無主語)

連結動詞文
   Soy japonés.  私は日本人である。
   Hoy esta nublado.  今日は曇っている。(無主語)

自動詞文
   Voy a Espana.  私はスペインへ行く。
   Me gusta la musica latina.  私はラテン音楽が好きだ。(主語後置)
   Llueve mucho.  大雨が降っている。(無主語)

1.3.2.句内の語順  文要素と比べると句内部の語順は制約される。可能な語順は次のとおり。 かっこ付きのものは随意的要素であること,*の付いた要素は位置が固定されていることを示す。

動詞句: 動詞+(名詞句)+(前置詞句)
   entregar el libro al amigo / entregar al amigo el libro その本を友だちに[友だちにその本を]渡すこと

名詞句: (限定詞*)+名詞+(形容詞句)
   la casa nueva / la nueva casa  新しい家

形容詞句: (副詞句*)+形容詞
   bastante fuerte かなり強い

副詞句: (副詞句*)+副詞
   muy bien 大変よく

前置詞句: 前置詞*+名詞句
   en la escuela その学校で

2.4.語構成法

主な語形成の方法としては派生と複合がある。派生は接頭辞および接尾辞の添加による。

 接頭辞添加: decir 言う> contra- + ~> contradecir 反論する
 接尾辞添加: papel 紙>~+ -ero > papelero 文具商
 複接派生: largo 長い> a-+~+-ar > alargar 伸ばす
 複合: para- 止める+agua 水> paraguas 雨傘

3.使用文字・正書法

ラテン文字27字を用いる。

A B C D E F G H I J K L M N N O P Q R S T U V W X Y Z

英語のアルファベットに比べると,スペイン語独特の文字 (エニェ)が加わって1字多い。 母音字の上に付けるアクセント記号は1種類だけある:a 。 正書法は非常に合理的・規則的で,完全にスペイン語化していない外来語を除くと規則どおりに読めばよい。

4.話者人口

母語話者は332.000.000人で, 中国語についで世界第2位の人口を持つ言語とされる(SIL,1999による。以下の数字も同じ)。 スペイン語人口が最大の国はメキシコ(8600万)で,コロンビア(3400万), アルゼンチン(3300万),スペイン(2800万),アメリカ合衆国(2200万),ベネズエラ(2100万), ペルー(2000万),チリ(1400万),キューバ(1000万),エクアドル(950万)などがこれに次ぐ。

5.使用地域

5.1.公用語として用いる国

独立国:スペイン,メキシコ,グアテマラ,ホンジュラス,エルサルバドル,ニカラグア,コスタリカ, パナマ,キューバ,ドミニカ共和国,コロンビア,ベネズエラ,エクアドル,ペルー,ボリビア,チリ, アルゼンチン,ウルグアイ,パラグアイ,赤道ギニア(計20ヵ国)
非独立の地域:セウタおよびメリーリャ(スペイン領,北アフリカの沿岸にある都市), プエルトリコ(米領,英語とスペイン語が公用語)

5.2.少数言語として用いられている国

アンドラ(公用語はカタルーニャ語とフランス語だが,住民の半数はスペイン語話者),アメリカ合衆国, ジブラルタル(英領,公用語は英語だが,住民の大部分はスペイン語話者),モロッコ,フィリピン

6.系統

インドヨーロッパ語族イタリック語派ロマンス諸語イベロ・ロマンス語群

7.言語の歴史

 ローマの帝政期に話されていた俗ラテン語は,西ローマ帝国滅亡後,各地で方言に分化して次第にラテン語から遠ざかり, 8世紀頃にはロマンス語と言われる状態に変化した。 イベリア半島で発生したロマンス語方言の一つであるカスティーリャ語 castellano は, 半島北部のカンタブリア地方に由来するが, その地方を含むカスティーリャ王国の歴史的発展とともに使用領域が飛躍的に拡大し, 13世紀にはいち早く文章語の規範を確立してラテン語に代わり同王国の公用語となった。

 15世紀後半にスペインの国家統一が達成されると,他の言語を圧倒して主要な国家語の地位を占め, 同時期にスペインの新大陸進出が始まってからは新大陸やアジアの植民地にも移植された。 16世紀後半から17世紀前半にかけて文化史上「黄金世紀」と言われる時代には セルバンテスをはじめとする作家たちの古典文学が隆盛となり,ますますその威信を強め, 次第にスペイン語 espanol という呼称が一般化するに至った。黄金世紀は音韻変化の著しい時代でもあり, 17世紀後半に近代スペイン語の音韻体系が確立した。

8.言語に関する状況

スペイン国内ではスペイン語以外のロマンス語としてカタルーニャ(カタロニア)語,アラゴン語, アストゥリアス語,ガリシア語などがあり,非インドヨーロッパ系の言語としてバスク語がある。 1978年制定の憲法では国家公用語であるスペイン語とともに自治州が独自の公用語を併用することを認めている。 その結果,カタルーニャ・バレアーレス・バレンシア各自治州ではカタルーニャ語(バレンシアではバレンシア語と言い, 方言的相違がある),ガリシアではガリシア語,バスク・ナバラではバスク語がそれぞれスペイン語と並ぶ公用語とされ, 各種レベルの公立学校で教育も行われている。しかし,スペイン語以外の言語話者はスペイン語との二言語併用者である。

 ラテンアメリカのスペイン語圏では先住民の住む地域でアメリカ・インディアン諸語が使用されている。 スペイン語の浸透度は地域により,また社会的階層により相違し,大都市ではスペイン語のみ, 農村では二言語併用の場合が多いが,地域によってはインディアン諸語だけの一言語使用者もいる。 先住民の主要な言語としてはナウア語(メキシコ),マヤ語(メキシコ,グアテマラ,ベリーズ), ケチュア語(コロンビア,エクアドル,ペルー,ボリビア,アルゼンチン,チリ),アイマラ語(ボリビア,ペルー), トゥピ語(ブラジル,パラグアイ,アルゼンチン,ボリビア),グアラニー語(パラグアイ)などがある。 この地域のうちパラグアイではグアラニー語,ペルーではケチュア語がスペイン語とともに公用語とされている。

 アメリカ合衆国にはスペイン語を母語とするヒスパニック系が2200万人以上いると言われる。 その大半はメキシコ系で,プエルトリコ系,キューバ系がこれに次ぐ。特に話者が多い地域は南西部(メキシコ系), ニューヨーク(プエルトリコ系),フロリダ(キューバ系)である。 プエルトリコとニューメキシコ州では英語とともに公用語とされている。 ヒスパニックは人口増加率が高く,スペイン語話者は増加傾向にある。

 16世紀後半から約300年間スペイン領であったフィリピンには50万人のスペイン語話者がいるとも言われるが, その大部分は第2言語としてスペイン語を使用するか, またはチャバカーノ語などスペイン語系クレオール語の話者であると見られる。 現在,母語話者は5,000人程度にすぎず,減少傾向にある。 しかし,公用語であるフィリピン語(タガログ語)は語彙面でスペイン語の影響が著しい。

 かつてスペイン領であった赤道ギニアではスペイン語が公用語であるが, フランス語を公用語とする地域に囲まれているため後退傾向にあるとも言われる。

 15世紀末にスペインはユダヤ人を国外追放したが,その人たちの言語はスペインから切り離されたため独自の変化を遂げ, ユダヤ・スペイン語あるいはラディーノ語,ジュデズモ語とも呼ばれる。 バルカン半島やトルコ,イスラエルなどに残存するが,どの地域でも話者はこの言語と他の言語の二言語併用で, しかも減少傾向にある。
 なお,スペイン語は国連公用語6つの中の1つである。