野間 秀樹
1.概説 2.発音と文字 3.語彙
4.文法 5.朝鮮語を学ぶために 6.朝鮮語情報2. 発音と文字 朝鮮語は母音・子音のそれぞれの数が日本語より多い。日本語と朝鮮語の間で最もかけ離れているのがこの発音の点であろう。 1) 音節の構造 朝鮮語の音節の構造には、①[a]や[ka]など音節が母音で終わる開音節、 ②[kan]や[an]など子音で終わる閉音節、という2つの型がある。 日本語の音節はほとんどが開音節であるから朝鮮語とはこの点が著しく異なっている。 ただし英語の[st][str]のように複数の子音が音節の頭に立つことはなく、また[ks]などのように音節末に立つ複数子音もない。 なお、伝統的に、音節の頭の子音を初声、母音を中声、音節末の子音を終声と呼んでいる。 2) ハングルの構造 朝鮮固有の文字ハングルは、例えば[a]という音はㅏという字母で表し、[n]という音はㄴという字母で表すといった具合に、 母音・子音を問わず、原則的にはローマ字のように1字母が1音を表すアルファベットの原理でできている。 これがハングルの第1の特徴である。 次に、そうした単音を表す字母を組み合わせて、1音節分で1文字になるように作られている。
例えばㄴ[n]という子音字母とㅏ[a]という母音字母を組み合わせると나[na
ナ]という開音節を表す1文字ができあがる。また、나[na]の下にさらに[n]を表すㄴ{n}という終声字母を加えると
난[nan]という閉音節を表す別の1文字ができる。このように<子音字母+母音字母>あるいは
<子音字母+母音字母+子音字母>というように、必ず組み合わせて1文字を表わす音節文字なのである。
この点がハングルの第2の特徴である:
初声 中声 終声 ㄴ [n] + ㅏ [a] → 나 [na] ㄴ [n] + ㅏ [a] + ㄴ [n] → 난 [nan]なお、音節の頭に子音がない音節の場合には、子音字母を書く位置に、子音がないことを示す「ㅇ」(イウン)という字母を書くことになっている: 初声 中声 終声 ㅇ [子音ゼロを示す] + ㅏ [a] → 아 [a] ㅇ [子音ゼロを示す] + ㅏ [a] + ㄴ [n] → 안 [an] 3) 単母音と半母音
平仮名は日本語の母音の位置を表す。狭い[e エ]と広い[ɛエ]の区別はソウルでは既になくなりつつある。 [ja ヤ]や[wa ワ]など、半母音[w][j]と母音の組み合わせも母音字母を基本に一画つけ加えたり、
母音字母どうしの組み合わせで表す:
아 [a] → 야 [ja] ㅗ [o] + 아 [a] → 와 [wa] 4) 子音
子音は表の通りである。音節の頭、つまり初声ではp、t、k、tʃに平音・激音・濃音
という3つの系列があることが特徴的である。発音記号では一般に、激音には[h]という記号、
濃音には[?]という記号を肩につけて表す。無気音である平音は語頭では濁らない無声音だが語中では濁って有声音となる。
いわば語頭で清音だった音が語中では濁音になるわけである:
기자 [kidʒa キジャ](記者) 자기 [tʃagi チャギ](自分) 同じ기という文字が語頭では[ki キ]、語中では[gi
ギ]と濁っているし、자の文字を見ても同様だということがわかるだろう。
激音は有気音で、激しい息を伴う。濃音も濁らない無気音でかつ声門に著しい緊張を伴う音である。
声門閉鎖音と呼ばれる。濃音と激音は語頭でも語中でも基本的に音は変わらない。平音・激音・濃音の例を見てみよう:
平音 바 [pa パ] 激音 파 [pha パ] 濃音 빠 [?pa パ]いずれも日本語母語話者には同じ「パ」という音に聞こえてしまうのである。 濃音빠[?pa パ]は日本語の促音を含む「やっぱり」の「っぱ」の部分に翌トいる。同様に따[?ta タ]・까[?ka カ]・짜[?tʃa チャ]・싸[?sa サ]は「やった」「はっか」「ぼっちゃん」「あっさり」の 「った」「っか」「っちゃ」「っさ」に似ている。 sには平音と濃音がある。sの平音は語中でも有声音化せず、息を伴うのでその性質は激音的である。
[i][j]の前では[s][?s]は[ʃ][?ʃ]となる。
音節末の子音、即ち終声に[p][t][k][m][n][ŋ][l]の7種類の音が立ちうる点が日本語と大きく異なる点の1つである。
閉鎖音[p][t][k]は閉鎖するだけで破裂しない音なので聞き取りが難しい。さらに、聞き取りにおいては[n][ŋ]の区別は、
日本語母語話者にとっては非常に困難である。
初声に[p]、中声に[a]という組み合わせで終声のみが異なる例をハングルと発音記号で示す:
밥 밭 밖 밤 반 방 발 [pap] [pat] [pak] [pam] [pan] [paŋ] [pal] ご飯 畑 外 夜 クラス 部屋 足 終声字母には初声の字母と同じものを用いる。 終声に立つ音は7つだが、文字表記上では上のようにㅌなどの激音字母、ㄲなどの濃音字母も用いられる。 5) 終声の初声化 終声子音は次に母音がくるとその音節の初声として発音される:
밤 [pam パム] + 이 [i イ] → 밤이 [pami パミ 바미] 夜 ...が 夜が 先の例で、밖[pak]を박と書かずにわざわざ濃音字母ㄲで書いているのはこの終声の初声化などを考慮してあるからである:
박 [pak パク] + 이 [i イ] → 박이 [pagi パギ 바기] 朴(姓) ...が 朴が 밖 [pak パク] + 이 [i イ] → 밖이 [pa?ki パッキ 바끼] 外 ...が 外が 6) 長母音とアクセント 朝鮮語ではすべての母音に長母音と短母音の両方が認められるが、長母音は原則として単語の第一音節にしか立たない。
母音の長短で意味を区別する単語の対はそう多くない:
눈 [nun ヌン] (眼) 눈 [nu:n ヌーン] (雪) 돌 [tol トル] (満一歳) 돌 [to:l トール] (石) 말 [mal マル] (馬) 말 [ma:l マール] (ことば) 이 [i イ] (歯) 이 [i: イー] (二) ただしソウルの若い世代では事実上音素としての長母音はなくなっていると考えてよい。[nun ヌン](眼)と[nu:n ヌーン](雪)の区別などは学校教育で学んでかろうじて維持されているようなもので、ほとんどの単語の母音の長短は意識されていない。なお、살그머니[salgɯmɔni]~[salgɯmɔ:ni](こっそり)や음매[ɯmmɛ]~[ɯmmɛ:](もー:牛の鳴き声)のごとく、擬声擬態語などには強調のために第二音節以降でもまま長母音で発音されもする単語がある。 日本語のような高低アクセントはなく、英語のような強弱アクセントもない。なお、中期朝鮮語には高低アクセントがあり、単語ごとにアクセントが決まっていた。 7) 音の交替
朝鮮語では特に音節末の音の変化が激しい。例えば밖[pak パク](外)と만[man マン](...だけ)が結合した밖만(外だけ)は[paŋman パンマン]と発音されるが、このように音節末の口音は鼻音の前で必ず同化して鼻音化する。また신[ʃin シン]+라[ra ラ]は 신라[ʃilla シルラ 실라](新羅)と発音されるように、ㄴ[n]+ㄹ[r]はㄹ+ㄹ[ll]と発音される。この現象は流音化と呼ばれている。朝鮮語ではこうした音の交替が激しく、ハングルは表音文字とはいえ、しばしば書いてあるとおりには読まないという結果をもたらす。 8) 縦書き・横書きと分かち書き
文字は縦書き・横書きの両方が可能である。韓国においては新聞や一部の書籍を除いて横書きが主流であり、共和国では1955年以来全て横書きが用いられている。表記する際には、単語と単語の間は分かち書きをし、文末には「.」「?」「!」などを用いる。語尾(いわゆる助詞の類は語幹につけて書く。
なお、一部の学者たちによって풀어쓰기[プロッスギ]と呼ばれる試みもなされた。これはハングルの字母を組み合わせて音節単位で表記するのではなく、字母をそのままローマ字のように横に並べる表記法である。「풀어쓰기」をプロッスギしてみると「ㅍㅜㄹㅇㅓㅆㅡㄱㅣ」」(ph-u-r-ɔ-?s-ɯ-g-i)のようになるわけである。
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