カンボジア語(クメール語)

(英:Cambodian, Khmer)


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概説


  1. 系統

     オーストロアジア語族のモン・クメール語族に属す。

  2. 使用地域

     カンボジア語はカンボジア王国の国語であり、同国の主要構成民族であるクメール族の言語であることからクメール語とも呼ばれる。他に、タイ、ベトナム、ラオスにも話者がいる。

  3. 話者人口

     現在の正確な使用人口は不明であるが、カンボジア国内の人口11,437,656人(1998年国勢調査)の9割以上の他、タイのスリン、ブリラム、シーサケートの3県を中心に約130万人(1995年マヒドン大学農村開発言語文化研究所調査報告)、ベトナム南部に約90万人(1989年国家人文社会科学院統計)、ラオス国内に数千人、またアメリカ、フランス、オーストラリア、カナダ等への定住者が約23万人(国連難民高等弁務官事務所)と推定されている。日本にも関東地方を中心に約千人が定住した。

  4. 言語をめぐる歴史

     カンボジアは古くからインド文化の影響を受けたため、パーリ語、サンスクリット語からの借用語が圧倒的に多い。また日常用語は中国語から、数詞や行政用語はタイ語からも借用している。植民地期にはフランス語が公用語とされていたため、フランス語からの借用も多い。独立後、それらの語彙をカンボジア語に置き換える運動が始まったが、内戦が勃発したため、中断されたまま現在に至っている。

  5. 言語に関する状況

     カンボジアでは1970年から20年以上内戦が続き、言語もその影響を受けた。内戦終了後のカンボジア王国憲法(1993年公布)第5条では、カンボジア語が国語として規定されたが、国語辞典の整備、初等教育の国語の教科書を含めた出版物の綴りの統一、文字の電算化等、内戦のために停滞した課題は多い。
     カンボジアの人口の残りの1割は、潮州、広東、福建、海南、客家、ラオ、ベトナム、チャム、ラデ、ジャライ、ペアル、サムレ、サオチ、チョン、ラヴェン、ブラオ、クルン、クラヴェット、タムプアン、スティエン、プノン、クイ等の人々によって構成されている。

  6. 文字と音声
    1.  クメール文字は、南インドから伝えられた文字を独自に発展させた表音文字で、最古の記録は、カンボジア王国タケオ州で発見された、シャカ暦533年(西暦611年)と記された碑文である。左から右に書き、分かち書きはしない。文字の仕組みは、33個の子音文字の上下左右に22種類の母音記号をつける。子音文字には「脚」と呼ばれるもう一つの字体があり、一つの語の中で子音が連続している時にはこれを用いる。古くから使用されていた文字に対し音声が変化したため、二つの文字が同一子音を表す一方、同一記号が二つの母音を表すという複雑な体系をなしている。

    2. 音声
      • 母音

         カンボジア語には9つの単母音がある。うち8つの母音には対応する長母音がある。 さらに発音されるときの喉の緊張の度合いが弱くなる弛喉母音、弛喉長母音、そして二重母音を合わせると36種類になる。

         緊喉母音弛喉母音
        短母音    
         
        長母音    
          aa  
        二重母音   
             
                 
                 

      • 子音

         カンボジア語には以下の17の子音がある。その他に借用語にのみ現れる f がある。 無声閉鎖音には有気音と無気音の区別がある。 二重子音は音節頭にのみ現れる。音節末子音は13種類で、 短母音と には必須である。

         両唇唇歯歯茎硬口蓋軟口蓋声門
        無声閉鎖p tck
        有声閉鎖b d   
        鼻音m n 
        弱摩擦 v j  
        ふるえ  r   
        両側  l   
        摩擦  s  h

  7. 言語の構造と特徴

     借用でない本来のカンボジア語は単音節語か、それに接辞をつけて派生させた二音節語である。接辞には、前接辞と接中辞があり、接尾辞はない。いずれも現在では造語能力を失っている。名詞や代名詞の数や格による変化や動詞の活用等の語形変化はない。基本語順は、[主語-述語-補語][被修飾語-修飾語][付属語-自立語]である。