ドイツ語
Deutsch
(英:German)


ことばの概説 |  辞書・学習書 |  学習機関



概説


1.基本構造

1.1.母音・子音

☆発音

ある学者が言語を北方系と南方系に分け、それらの発生に関して次のように述べていた: 南方は生活が豊かであるため、言語は旅する騎士と村の娘との泉での出会いから生じた。 その際、男は優しく語りかけ、女ははじらいを持って答えるため、言葉が柔らかくて甘くなった。 それに対して、北方は生活が貧しいため、言語は農作業上の必要性から生じた。その際、外の気候が非常に寒いため、 男女ともに口を上下にしっかり動かさなければならず、言葉がきつくて泥臭くなった。 --これは学説というよりはいわば「お話」の類(たぐい)ではあるが、ドイツ語は、 ドイツがカラフトと同じ緯度に位置することから分かるように、明らかに上記の「北方系」言語の特徴を備えている。 ドイツ語の発音は、「ア」の音ははっきり「ア」、「イ」の音ははっきり「イ」と、 とにかくすべての音がはっきりしていて力強いことを特徴とする。

1.2.構文/語順

1.2.1.ドイツ語の文型

ドイツ語の文型は、 動詞がどのような補足成分を持つのかによってが分類されるが、以下に,重要なもののみを示す。


  • 主語 + 動詞
    Das Faß rollt. タルが転がる。
    Das Kind schreit. 子供が叫ぶ。

  • 主語 + 動詞 + 述語
    Der Lehrer ist krank. 先生は病気だ。
    Das Eis wird wieder zu Wasser. 氷が水になる。

  • 主語 + 動詞 + 副詞類(場所など)
    Er fährt nach Berlin. 彼はベルリンに行く。
    Der Arzt wohnt in Köln. 医者がケルンに住んでいる。

  • 主語 + 動詞 + 目的語
    Er klopft an die Tür. 彼はドアをたたく。
    Er winke dem Mädchen. 彼は少女に合図をおくる。
    Er schiebt den Kinderwagen. 彼は乳母車を押す。

  • 主語 + 動詞 + 目的語 + 目的語
    Sie vermietet dem Studenten eine Wohnung.
    Er fragte ihn nach seinem Namen.

  • 主語 + 動詞 + 目的語 + 副詞類
    Er legt ds Buch auf den Tisch.
    Er dankt dem Schü für die Hilfe.

  • 主語 + 動詞 + 目的語 + 目的語的述語
    Er trägt das Haar kurz. 彼は髪を短くしている。
    Er schleift das Messer scharf. 彼はナイフを鋭利に研ぐ。
    Er nannte die Frau eine gute Arbeiterin. 彼はその女性を仕事のよくできる人と呼んだ。



1.2.2.語順、特に動詞の位置

ドイツ語の語順の、最も重要な規則は、定動詞および動詞の補助成分 (たとえば過去分詞、分離前つづりなど)の位置である。 定動詞は原則として、決定疑問文の場合は文頭、平叙文の場合は第2位、副文の場合は文末に置かれ、 また、動詞の補助成分は、文末あるいは定動詞の直前に置かれる。 すなわち、定動詞および動詞の補助成分には「文頭」「第2位」「文末」あるいは「直前」というような 「順番」が与えられる(したがって、定動詞、動詞の補助成分、 接続詞などは文の構造において一種の「枠(=枠構造)」を形成する)。

Heute hat er ein Buch... gekauft
Warum hat er ein Buch... gekauft
Hat er ein Buch... gekauft
als er ein Buch... gekauft hat


日本語の場合は、文法的規則として文頭に何を置くべきかが問題になることはない。 問題になるとしたら、文末に何を置くかであろう。また、英語の場合は、 文法的規則として文末に何を置くかが問題になることはない。問題になるとしたら、文頭に何を置くかであろう。 これに反し、ドイツ語の場合は、第2位に何を置くのか、文頭に何を置くのか、 そして文末(あるいはその直前)に何を置くのかということが常に重要な問題になる。

2.使用文字(正書法)

 1998年8月からドイツ語の「新正書法」が施行された。従来の正書法は、2005年までの移行期間を経た後、廃止される。 この変更によって一番大きく変わるところは、sとssの使い分けであろう。 従来の正書法では、先行する母音が単母音の場合、後続する母音の有無によって使い分けられていたが、

FlußFlüsse川複数形
fassenつかむfaßteつかんだ


「新正書法」では先行する母音のみが判断基準となる。 すなわち、先行する母音が長母音または二重母音の場合sと綴り、短母音の場合にはssと綴る。 その結果、変化形にも、同一の綴りを用いることが可能になる。

Fluß → Fluss
fasßte → fasste


なお、接続詞のdasも、先行する母音が短いため、dassと綴られる。

3.話者人口

ドイツ語の使用人口は世界全体で約1億1千万人、世界第9位で、日本語とほぼ同じである。 ヨーロッパ地域だけに限った場合、その数は約9千2百万人で、 ロシア語の1億百万人につづいてヨーロッパの言語のなかでは第2位と言われている。 したがって、ドイツ語は英語、フランス語、イタリア語よりも使用人口の多い重要な言語ということになる。

4.使用地域

ドイツ語は、ドイツ、すなわち「ドイツ連邦共和国(Bundesrepublik Deutschland)」の他にも、オーストリアをはじめ、スイス、ベルギー、ルクセンブルク、 リヒテンシュタインで公用語として用いられ、また、ドイツと国境を接するフランスのアルザス地方、 イタリアのチロル地方、チェコのベーメン地方でも話される(ドイツ語の話されるこれらの地域を総称して 「ドイツ語圏」と言うことがある)。なお、アメリカ合衆国、カナダ、南米、 オーストラリアにもドイツ語を話すグループが存在し、また、イタリア、旧ユーゴ、トルコ、 ギリシャなどには「外人労働者」としてドイツに出稼ぎに来ていた人が多くいるため、ドイツ語がかなりの範囲で通じる。

5.系統

ドイツ語は、表1に見るように、インド・ヨーロッパ語族のゲルマン系言語の一つで、 英語とはきわめて近い関係にある。



したがって、発音の仕方は当然異なるが、 英語とドイツ語の間には形態の非常によく似た単語が多くある。

Arm   [アルム] 腕(英: arm)
Finger  [フィンガー] 指(英:finger)
Hand  [ハント] 手(英:hand)
Sand  [ザント] 砂(英:sand)
Ball  [バル] ボール(英:ball)
Gold  [ゴルト] 金(英:gold)
Name  [ナーメ] 名前(英:name)
Wind  [ヴィント] 風(英:wind)



ドイツ語と英語の綴りの対応に関して、たとえばドイツ語のzが英語のtに、 ドイツ語のtが英語のdに対応するなどのように、規則をいくつか立てることもできるが、 しかし、これらの対応にはすでに例外も多く、語学学習という観点から考えた場合、 覚えてもあまり役に立たないものになっている。



7.ドイツ語の特徴

☆リズム

ドイツ語のリズムの原理は「強弱強弱」の繰り返しである。
次のような文法細則も弱アクセントの連続を嫌うというドイツ語のリズム上の原理に基づくものである。

(1)不定詞の語尾は本来 trink-en「飲む」のように -en であるが、語幹がアクセントのないe音で終わる動詞の場合、 不定詞の語尾が -n になる(たとえば lacheln「ほほえむ」)。これは、不定詞の語尾として -en を付加すると、 lachelen[レッ・ヒェ・レン]のように、弱アクセントのeが連続してしまうからである。

(2)男性・中性名詞の単数2格語尾に -es と -s の2つがあるが、語幹が弱アクセントのeで終わる名詞(たとえば Lehrer「先生」)の場合、-es を付加することが出来ない。 これは、2格語尾として -es を付加すると、Lehreres[レー・レ・レ・ス]のように弱アクセントのeが連続してしまうからである。

(3)所有冠詞 unser/euer に格語尾が付く場合ふつう語幹または語尾のeを省く:



これも、格語尾を付加すると、弱アクセントのeが連続してしまうからである。

(4)be-、emp-、ent-、er-、ge-、ver-、zer- などの非分離前つづりを持つ複合動詞は過去分詞に ge- を付けない。 これも、語頭にアクセントのない ge- を付加すると、



のように、弱アクセントのeが連続してしまうからである。

なお、 複数語尾の -en 式にふつう Insel「島」のように -n のみをつける語も含めるが、 これは、-n のみを付加する語も本来 -en が付加され(Insel-en[イン・ゼ・レン])、その後、 弱アクセントの連続を嫌うというドイツ語の原理に基づいて語尾のeが落とされた(Inseln)と考えるからである。

☆補足成分と添加成分

ドイツ語では、動詞を用いる場合、省略できない語句と省略できる語句が文法的に決まっている。たとえば、他動詞 kennen を用いる場合、次例のa文から副詞類(seit drei Jahren)を省いたb文は正しいが、 主語や目的語を省いたc文、d文は間違いである(* 印は文法的に正しくないことを示す)。



ドイツ語では、省略できない語句を補足成分、省略できる語句を添加成分と呼ぶが、動 詞を正しく使用するためにはそれぞれの動詞においてどのような語句が補足成分であるかを知らなければならない。 最近の独和辞典では語義説明に先立って《…の語句と》のように、 それぞれの動詞に補足成分を表示する傾向になっている。