オランダ語
(英:Dutch)

降幡 正志


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ことばの概説

  1. 系統

    インド・ヨーロッパ語族 西ゲルマン語派。

  2. 主な使用地域

    オランダ語を母語として用いている地域はオランダ王国、ベルギー王国(およそ北半分)。このほかアンティル諸島(カリブ)、スリナム共和国(南米)で公用語として用いられている。

  3. 話者人口

    1994年現在、オランダ語を母語話者とする人口はオランダ王国に約1,534万人、ベルギー王国に約570万人、合わせて約2,104万人。このほか、アンティル諸島、スリナム共和国などのオランダ語話者を合わせると、2,200万人以上にのぼると思われる(三省堂『世界の言語ハンドブック1』による)。

  4. 言語に関する状況

    • 方言(地方語)と共通オランダ語

       オランダ語はホラント方言、リムブルフ方言、ブラーバント方言、フラームス語(フラマン語、フランデレン語、フランドル語)、サクソン方言、フリース語(フリジア語、フリースラント語、フリスク語)などの方言もしくは地方語に分けられる。
       いわゆる共通語としてのオランダ語はABN(Algemeen Beschaafd Nederlands)と呼ばれる。

    • フラームス語

       ベルギーで使われているオランダ語はフラームス語(フラマン語、フランデレン語、フランドル語)と従来称されるが多かったが、これはオランダ語とは別個の言語ではなくオランダ語の一方言と見なされ、現在ではオランダ語という呼称にほぼ統一されている。

  5. 言語をめぐる歴史

     オランダ語の歴史は、以下の3つの時期に区分されている。

    1. 古オランダ語(8~12世紀):記録が少なく、実体がよくわかっていない。
    2. 中世オランダ語(12~15世紀):12~14世紀にベルギーのフランデレン地方を中心に発展、15世紀にはブリュッセルを中心とするブラーバント地方で体系を整えていった。
    3. 近代オランダ語(16世紀~現代):政治・経済・文化の中心がオランダに移ったこともあり、オランダ語はこの時代からオランダを中心に発展していった。17世紀に多数現れた優れた文学作品や、1637年に刊行された国定訳聖書は、近代オランダ語の形成に大きく貢献した。

  6. 使用文字

     オランダ語の表記にはラテン文字を用いる。 必要に応じて、母音の上に補助記号 ¨ 及び ´ を用いる。 ¨ は直前の母音と合わせて二重母音になるのではなく、直前の母音と異なる音節となることを表す際に用いられる。 一方、不定冠詞と数詞「1」は同じく een と綴るが、 文脈によって「1」を意味することを明示する必要があるときには ´ を用いて één とすることがある。

  7. 発音

    1. 母音

       弛緩母音(短母音)・緊張母音(長母音)の区別があり、弛緩母音は閉音節にのみ現れる。 下の表で、左は音価を、その右の( )内は綴りを示す。

      弛緩母音緊張母音
      開音節/閉音節
      (i)
      (e)
      (a)
      (o)
      (u)
      (i, ei/ie)
      (e/ee)
      (a/aa)
      (o/oo)
      (u/uu)
      (oe)
      (eu)

       また二重母音として、以下のものがある。

       ei, ij
       ui
       ou, ouw, au, auw

       なお、強勢のない e , i, ij はしばしば [] と発音される。

    2. 子音

       オランダ語の子音のうち、特に注意すべき点は以下の通りである。

      1. g は破裂音ではなく [x] (軟口蓋摩擦音)と発音する。
      2. ch は [x] と発音する(外来語は [][] となることもある)。
      3. sch は [sx] と発音する(ただし語末では [s] )。
      4. w は [] (唇歯接近音)と発音する。
      5. b, d は語末では無声音( [p] , [t] )となる。
      6. -tie は [] もしくは [] と発音される。

    3. アクセント

       第1音節にアクセントが置かれる語が多いといわれている。しかし、第2音節以降にアクセントが置かれる語も少なくない。特に外来語はアクセントの位置を特定することは非常に難しい。また、アクセントを持たない前綴り(接頭辞)や、語義によってアクセントの有無の変わる前綴りなどもある。アクセントの位置を一般化することは困難であり、逐次辞書等で確認する必要がある。

  8. 言語の特徴

    1. 名詞の性

       名詞は、通性名詞と中性名詞の2種類に分類される。単数形で用いられる定冠詞は、通性名詞は de 、中性名詞は het である。ただし、複数形で用いられる定冠詞はいずれも de となる。

    2. 分離動詞

       複合動詞(2つの要素からなる動詞)で、文中で前綴りの部分が分離して文末に現れるものを分離動詞という。分離動詞はオランダ語では珍しいものではなく、非常に多く用いられる。
      Ik ga met u mee.「私はあなたに同行します。」
       ※ ik「私」、met u「あなた(と一緒)に」、meegaan「同行する」

       上の文では、meegaan「同行する」の前綴り(mee-)が分離して文末に現れている(ga は gaan の1人称単数現在形)。

    3. 文の語順

       オランダ語の基本的な語順は、[主語]-[(定形)動詞]-[その他(目的語、副詞など)] である。 しかし、語順には以下のような特徴がある。

      • 主語以外のものが文頭に現れた場合、その後は [(定形)動詞]-[主語] と続く(定形倒置)。

        Wat spelen zij?「彼らは何をしているの?」
         ※ wat「何」、spelen「する」、zij「彼ら(主格)」

      • 従属節内では定形動詞は最後尾に現れる(定形後置)。

        Toen hij me dat vertelde, ....「彼がそれを私に話したとき、....」
         ※ toen「~したとき」、hij「彼(主格)」、me「私(目的格)」、dat「それ」、vertelde「話した(過去形:単数 < vertellen「話す、語る」)」

      • 助動詞を伴う場合、助動詞が定形の位置を占め、動詞は文末に現れる。

        Ik kan Nederlands niet spreken.「私はオランダ語を話せません。」
         ※ kan「できる(助動詞:1人称単数現在)」、niet(否定詞)、spreken「話す」

    [参考文献]
    桜井隆(1988).「オランダ語」,『言語学大辞典(第1巻)』.三省堂.
    佐藤弘幸(1998).「オランダ語」,『世界の言語ガイドブック1』(東京外国語大学語学研究所編).三省堂.
    B.C.ドナルドソン(1999).『オランダ語誌』(石川光庸・河崎靖訳).現代書館.