中国語

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中国語の文法

0.2.2 文法

0.2.2.1 語構成

0.2.2.1.1 形態素

 一般の日本人はついつい中国語では漢字がそのまま単語であると思いがちであるが,これは正しくなく,正確には1漢字=1音節=1形態素が原則であって,必ずしも1漢字=1単語ではない。もちろん形態素である以上,漢字はそれぞれ意味を持つと言うのは正しい。例えば“石shí”は確かに「石,岩」等の意味を持つ。しかしこの形式を「石,岩」の意味の単語として(名詞として)用いることはできず,そのためには“石头shítou”という形式を用いなければならない。(単に“shí”と言えば恐らく“十shí”を言いたいのであろうと思われるであろう。)

 この他2漢字=2音節=1形態素,即ち漢字2字で1つの意味を持ち,それを1漢字づつに分けるともはや意味を持たない場合もある。例えば“徘徊(páihuái)”はこの2字で「徘徊する」という意味の形態素であって(この場合は同時に単語でもある),“徘”と“徊”自体は何の意味も持たない。なお3漢字以上=3音節以上が1形態素に相当するのは外来語の音訳語のみに限られる。

0.2.2.1.2 単語の構成法

 単語は形態素から構成され,1形態素からなる単語(単純語)と2つ以上の形態素からなる単語(合成語)がある。合成語はその構成法により重畳型(同じ形態素の繰り返し),附加型(語根に接辞を加える),複合型に分けられる。複合型の構成法は中国語文法全体の統語法を反映しており,日本語に漢語として存在している語彙の構造からそれを見て取ることができる。

主述型:地震,海啸(海嘯) 動目型:读书(読書),下车(下車),无罪(無罪),开花(開花) 動補型:扩大(拡大),打倒 連動型:借用 修飾型:国旗,大会,重视(重視),不利 等位型:疾病,丰富(豊富),分析,大小,国家

0.2.2.2 品詞分類

 中国語の単語も他の言語と同じくいくつかの品詞に分けることができる。但しこれこれの品詞であると決定づけるような形式的なマークがほとんどないに等しいので,当該の単語が出現しうるシンタクティックな環境に基づいて品詞を決定することになる。また,大きな分類から始めてさらに下位区分していくという方法が有効である。

0.2.2.2.1 実質語

 単独で,或いは何らかの機能語を伴って単独で発話できるもの。まず間投詞が挙げられる。それを除いた後,体言と用言に分けることができる。体言は通常は述語にならないもので,名詞,代名詞,場所詞,合成方位詞がそれに含まれる(それぞれを如何に定義するかについては省略する)。数詞と量詞は実質語ではないが,両者が結合した句は体言相当の機能を持ち,数量詞としてまとめて扱われることがある。

 用言は述語になりうるもので,動詞,形容詞がそれに含まれる。これらは文の中核をなす場合が多く,用法も多岐にわたり,それに基づいてさらに下位区分することが可能である。形容詞については性質形容詞と状態形容詞の対立が重要である。動詞については様々な基準を用いて一層多様な下位区分が可能である。なお数量詞は体言相当であるが,時に述語にもなりうる。

0.2.2.2.2 機能語

 単独で発話できないもの。単純方位詞,数詞,量詞,連体詞,限定詞,前置詞,副詞,接続詞,擬声詞,助詞がそれに含まれる。助詞はさらに構造助詞,時相助詞,終助詞に分けることができる。擬声詞は間投詞的に単独で発話される場合もある。

0.2.2.2.3 指示詞と疑問詞

 日本語の「コ・ソ・ア」と同様に,中国語にもdicticな用法を持つ,体系を成す単語の類がある。日本語とは異なり近指示の“这”系統と遠指示の“那”系統の2系統からなる。品詞的には限定詞,方位詞,副詞,用言相当のものがある。

 また疑問や不定を表す単語の類がある。品詞的には名詞,数詞,限定詞,方位詞,副詞,用言相当のものがある。

0.2.2.3 句の構成

 中国語文法においては単語同士が結合した句(1単語からなるものも含む)の構造が非常に重要である。句は全体の機能や中核となる単語の性質に基づき,体言性の名詞句,場所句と用言性の動詞句,形容詞句,前置詞句に分けることができる。また構成法からそれぞれ主述構造,動目構造,動補構造,連動構造,修飾構造,等位構造の句に分けることができる。

0.2.2.3.1 体言性の句

 名詞句には単独の名詞や代名詞からなるものと,名詞の前に連体修飾語を用いた修飾構造のものがある。(限定詞+)数詞+量詞は連体修飾語として他の名詞句を修飾することもできるが,それ自体が名詞句として機能することもできる。同様に構造助詞“的”を末尾に伴ったものは連体修飾語として機能することもでき,それ自体が名詞句として機能することもできる。連体詞の基本的な機能は連体修飾語として他の名詞を修飾することであるが,後に“的”を伴って名詞句として機能することもできる。

 場所句には単独の場所詞や複合方位詞からなるものと,名詞+複合方位詞/単純方位詞という修飾構造を持つものがある。

0.2.2.3.2 用言性の句

0.2.2.3.2.1 動詞句

 動詞句には単独の動詞からなるものもあるが,多くは動目構造,動補構造,連動構造を持つ複雑な形式である。また前に連用修飾語を伴った修飾構造であることも多い。動詞の後にはよく時相助詞が用いられる。

0.2.2.3.2.1.1 動目構造

 動詞+目的語は中国語の基本語順の一であるが,動詞と目的語の関係は「~を~する」に止まらず,様々な関係がありうる。目的語になりうる句は体言性の句のみならず,用言性の句であることもある。動詞が二重目的語目的語をとる場合,[動詞+目的語]+目的語,即ち動目構造の動詞句がさらに目的語をとった動目構造の動詞句と分析するのが適当である。

 形容詞は一般に目的語をとることがないが,形容詞の後の要素を目的語として扱うのが妥当な場合もある。このような構造(形目構造?)もここでは動目構造に含める。

0.2.2.3.2.1.2 動補構造

 動詞に補語が直接付く動詞+補語の形と,動詞の後に構造助詞“得”を用いる動詞+“得”+補語の形がある。前者はさらに目的語をとり,[動詞+補語]+目的語,即ち動補構造の動詞句がさらに目的語をとった動目構造の動詞句を構成することができる。

 形容詞にも補語が付きうる。このような構造(形補構造?)もここでは動目構造に含める。

0.2.2.3.2.1.3 連動構造

 動詞句+動詞句の形であるが,互いに対等の資格で並ぶ等位構造とは異なる。また後半の動詞句が修飾構造,即ち連用修飾語を伴うものも連動構造には含めない。

 前半の動詞句は一部を除き動目構造または動補構造でなければならない。また前半の動詞句の中核をなす動詞の動作主と,後半のそれとは必ずしも一致するものではない。

 動詞句が3つ以上並ぶこともあるが,[動詞句+動詞句]+動詞句,或いは動詞句+[動詞句+動詞句]のように,1つの連動構造のどちらかの動詞句がさらに連動構造を持つと分析するのが妥当である。

 後半の動詞句は形容詞句である場合もあるが,ここではそれも連動構造に含める。また前置詞句+動詞句も連動構造と見なす。

0.2.2.3.2.2 形容詞句

 中核をなす形容詞により,性質形容詞句と状態形容詞句に分けられるが,状態形容詞句の中核は状態形容詞のみならず,連用修飾語を伴った性質 形容詞であることもあり,また形容詞を用いない等位構造の用言性の句であることもある。

 形容詞の後に時相助詞がつくこともある。

0.2.2.3.2.3 前置詞句

 前置詞+目的語の形の用言性の句であるが,単独で述語になれず,連動構造の句の前半の要素になるのが主要な機能である。また単独で主語になる場合もある。

 目的語になるのは主に体言性の句であるが,用言性の句を目的語にとりうる前置詞もある。

 動目構造の目的語になったり,“的”を後に伴って連体修飾語になりうるものも少数ある。

0.2.2.3.2.4 主述構造の句

 動詞句と形容詞句の前にさらに主語を加えて主述構造の用言性の句を作ることができる。主語になりうる句は体言性の句のみならず,用言性の句であることもある。主語+述語は中国語の基本語順の一であるが,主語と,述語の中核をなす動詞或いは形容詞との関係は,主語が動作・行為や性質・状態の主体や当事者であるという関係に止まらず,様々な関係がありうる。

 数詞+量詞からなる数量詞は体言性の名詞句であるが,用言性の句として用いられる場合もあり,その場合は主述構造の述語になることがある。数量詞+名詞句からなる修飾構造の名詞句も同様の性質を持つ。

0.2.2.3.4 修飾構造の句

 修飾語+被修飾語は中国語の基本語順の一である。このような修飾構造を持つ句が全体として体言性であるならば,その中の修飾語は連体修飾語であり,全体が用言性であればその中の修飾語は連用修飾語である。

 0.2.2.3.4.1 連体修飾語

 1単語で連体修飾語になりうるものには連体詞,一部の限定詞がある。名詞,代名詞,形容詞は一定の条件の下で単独で連体修飾語になりうる。(限定詞+)数量詞も連体修飾語としてよく用いられる。その他の句は一般に後に“的”を伴って連体修飾語になる。

0.2.2.3.4.2 連用修飾語

 連用修飾語として最もよく用いられるのは副詞である。状態形容詞句もしばしば連用修飾語になるが,後に“地(=的)”を伴うことが多い。一部の形容詞は単独で連用修飾語になりうる。形容詞+“(一)点儿”も連用修飾語になることがある。その他の句は一般に“地(=的)”を伴って連用修飾語になる。但し特に口頭語においては“地(=的)”を伴った連用修飾語はそれほど多用されない。

0.2.2.3.5 等位構造の句

 複数の句が互いに対等の資格で並ぶ構造の句である。体言性の句もあり,用言性の句もある。等位構造を構成する句は3つ以上である場合もある。理論的には並ぶ順序は自由であってしかるべきであるが,実際はその順序でなければ不自然であると言う場合が多い。
 等位構造の句はしばしば状態形容詞句をなすことがある。

0.2.2.4 文の構成

 用言性の句,即ち動詞句,形容詞句,主述構造の句はそのまま文となることができる。但し句のレベルではあくまでも文を構成する素材に過ぎず,これに話者の情意が加わることにより文となる。形式的には一定のイントネーションがぶさり,前後にポーズを置きうる句が文であるといえる。終助詞は多く話者の情意を表すものであり,句の後に終助詞を伴うものは文である。
 中核となる句の種類によって,文を動詞述語文,形容詞述語文,名詞述語文,主述述語文に分けることができる。

0.2.2.4.1 動詞述語文,形容詞述語文

 動詞句/形容詞句がそのまま文になるものと,前にさらに主語を加えた主述構造の句が文になるものがある。前者は主語のない文になる。後者は文全体が主語+動詞句/形容詞句という主述構造を成している。

0.2.2.4.2 名詞述語文

 一般に体言性の句(名詞句,場所句)の前に主語を加えることはできないが,一定の条件下ではそれが可能になる。

 数量詞からなる名詞句,及び数量詞+名詞句からなる名詞句が述語になりうることは先述の通りであるが,人の出身地や特徴を表す名詞句も述語となって前に主語を加えることができる。

0.2.2.4.3 主述述語文

 主述構造の句も用言性であるので,前にさらに主語を加えることができる。即ち主語+[主語+述語]という形式の文を作ることができる。さらに主語を加えて主語+[主語+[主語+述語]]のように拡張することもできるが,実際にはあまりに多層化することはない。
 前置詞句が単独で主語になる場合,述語は多くは主述構造の句である。
 意味的にみると,主述述語文の主語は主題(toic)を表し,述語はそれに対する説明(comment)であることが多い。

0.2.2.4.4 一語文

 用言性の句以外の句や単語がそのまま文となるものを一語文と称する。
 間投詞は単独で一語文をなすことが多い。擬声詞もそれに準じた用いられ方をする場合がある。

0.2.2.4.5 複文

 以上は単独の文の構成であり,これらの文を単文と称する。これに対し,2つの文が独立して並んでいるのではなく,互いに関係を持ちつつ結合したものを複文と称する。複文の形式は[接続詞+単文]+[接続詞+単文]であるが,特に口頭語においてはむしろ接続詞を用いず,文中の他の要素によって互いの関係が表される場合が多い。さらにはそのような要素が何もなく,文脈から互いの関係を判断するしかない場合さえある。しかし複文も全体で1つの文である以上,全体にかぶさる一定のイントネーションが存在する。

 複文が述語となり,前にさらに主語を加えることもできる。即ち主語+[[(接続詞)+単文}+[(接続詞)+単文]]という形式である。これは全体で1つの単文である。

0.2.2.5 肯定・否定と疑問

0.2.2.5.1 肯定と否定

 肯定と否定は句のレベルの問題である。動詞句及び形容詞句の中に否定の語(多くは否定副詞の“不”或いは“没(有)”)が用いられればその句は否定形式の句である。否定副詞は通常動詞句/形容詞句の中核をなす動詞/形容詞の前に用いられるが,連用修飾語を伴う修飾構造の句である場合,連用修飾語の前に用いられる場合もある。また,連動構造の句である場合,前半の動詞句と後半の動詞句(或いは形容詞句)のどちらに否定副詞を用いるかも場合によって異なる。動補構造の句である場合,通常は補語の方を否定形式にする。

0.2.2.5.2 疑問文

 疑問は話者の情意に関するもので,文のレベルの問題である。疑問文には諾否疑問文,反復疑問文,選択疑問文,疑問詞疑問文がある。この内,諾否疑問文以外の形式は句のレベルにも現れるが,文のレベルにならないと実際に聞き手に疑問を伝えることができない。

0.2.2.5.2.1 諾否疑問文

 文末に終助詞“吗”を加えれば疑問文になる。“吗”を用いずにイントネーションによって疑問を伝える場合もある。

0.2.2.5.2.2 反復疑問文

 動詞句/形容詞句において,中核となる動詞/形容詞の肯定形式と否定形式を並べると疑問形式になる。肯定と否定が隣りあって並ぶ場合と他の要素を間にはさんで並ぶ場合がある。文のレベルになって疑問文となるのであり,句のレベルでは他の句の要素になることもできる。その場合,必ずしも文全体が疑問文であるとは限らない。

0.2.2.5.2.3 選択疑問文

 選択肢を2つ以上提示して聞き手に選ばせる疑問形式である。反復疑問形式と同様,文のレベルになって疑問文となる。

0.2.2.5.2.4 疑問詞疑問文

 句の中に疑問詞を含む形式である。反復疑問形式と同様,文のレベルになって疑問文となる。

0.2.2.5.3 命令文と感嘆文

 中国語には文法範疇としての命令文の形式がない。文脈やイントネーション,終助詞等によって命令の意味を相手に伝える。但し“请”等の語句によって命令を表していることが明示される場合がある。また禁止を表す文も形式から命令を表していることが明示される場合がある。

 中国語にはまた文法範疇としての感嘆文の形式がない。イントネーション,終助詞等によって感嘆の感情を表す。但し“真,好,多么”等の副詞や疑問副詞によって感嘆を表していることが事実上明示される場合がある。また一語文はしばしば感嘆を表す。