2007年(平成19年)度
オリエンテーション・ミーティング型ワークショップ

「オリエンテーション・ミーティング型ワークショップ」
 講 師:佐野  勝也  氏
      東京外国語大学スペイン語科1987年卒業、舞台演出家
 日 時:2007年5月25日(木)〜6月22日(金)
 場 所:研究講義棟620号教室(語劇GP支援室)
 
 前期の5月中旬から6月中旬にかけてオリエンテーション・ミーティング型ワークショップ(以下MOWSと略)の開催を実施した。MOWSは昨年に引き続き語劇GPアドバイザーの佐野勝也氏と各語専攻個別に語劇代表者とのあいだで実施した。
 昨年度の語劇ワークショップ支援のなかで非常に成果の上がったプログラムのひとつは、このMOWSであった。したがって、舞台に立つための基礎の身体作りのワークショップ及び演出担当及び役者向けワークショップに先駆けて、昨年度より1ヶ月早めての開始を実現させた。
 今年度のプログラムも、新2年生を中心にした各専攻語の語劇代表とスタッフの学生たちが前期の時期にどのように11月の語劇本番にむけての全体計画を立てるのか、また26言語の各専攻語それぞれにおいてどのような個別の問題点をもっているのか等を把握する目的を主眼に置き、語劇に参画する学生達に対して佐野氏の専門的な演劇的な見地からそして語劇経験者としての視点から具体的にアドバイスすることを目的に行なった。
 当初、5月23日〜6月8日までの期間を設定したが、語劇代表や監督、演出等の代表スタッフ選出が難航しているとの理由で申し込みが遅れたりして、時期を延長して6月22日まで実施した。平成16、17年度においては、夏季休暇後の10月になって練習を開始する専攻語もあったが昨年度はほぼ全部の専攻語で前期の段階でスタッフ選出、脚本決定、オーディションまたは役者選出、そして稽古開始という準備段階を終えていた。その一因として、このMOWSの寄与したところが大きかったとおもわれる。
 語劇は、各専攻語によってその着手の仕方、脚本選定、代表メンバーの決め方等々、それぞれに特色があるが、全てが課外活動における学生の自主にゆだねられている一世紀以上継続続く東京外国語大学独自の取り組みであるために専攻語の教員の方々も最初の段階ではアドバイスはおこなうものの積極的な発言はむしろ控えている。したがって、語劇に参加する新2年生にとって、試行錯誤しながら全員で共通する準備段階を進めなければならない。高校時代に演劇部に所属していたり、演劇舞台の経験を持っている人間がいるとスムーズにみんながまとまっていくという場合もあるが、多くの場合全員が舞台作り初めてということが多いのである。そういう現在の語劇を取り巻く状況において、参加者全員の共通したモチベーションを持てるかどうかがなかなか難しかったようであり、飛び越えなければならない最初のハードルのようである。その意味で、語劇経験者で舞台のプロであるアドバイザー佐野氏に聴いてもらいながら中心メンバー全員で話し合いをするというMOWSで、みんなが様々な意見を出し、いろいろな考えを提案するということで、語劇に対しての考え方、捉え方が各自それぞれにスタンスをもっているのだというコンセンサスがとれることが学生達にとって非常に有意義ある結果になったわけである。
 その昨年度の成果をもとに、今年度もMOWS実施を決定し5月の早い段階で行なったわけである。確かに、準備段階で悪戦苦闘している専攻語は、延長期間にMOWSを実施する結果となり、最後の専攻語の実施日は前年度と変わらなかった。しかしながら、外語祭実行委員会の語劇局の強いサポート、新たな支援策、適切な時期での各種マニュアル配布等々もあり、平成16、17年度の語劇制作と比較して明らかにより実践的に、より外国語修得に効果的な制作準備と稽古を行なうようになったとおもわれる。

□語劇GPアドバイザー佐野勝也氏のMOWS実施内容報告
講師を務めた佐野氏はMOWSを通して、参加学生に話したことをまとめると次の三点。

1. 語劇の第一の目的は、参加した一人一人が満足、納得をすること。専攻語の「言葉」ととことん真摯に向き合い、どっぷりと専攻語に浸って、「ダイアローグ=対話」を完成させてほしいということ。
 最初に、「語劇」の目指す目的とは、普通の舞台における目的とは違っていいのではないか、ということを明示しました。一般の舞台では「観客を満足させる=観客の万雷の拍手をいただく」ということが一番の目的になります。しかし、「語劇」において、素晴らしい舞台で観客を満足させる、立派な舞台で観客を納得させるということは、優先順位において第2番目で良いのではないかとおもうのです。「語劇」における第一番の目的というのは、参加したメンバー全員が自分自身において満足することだと思うのです。とことん自分達の専攻語の「言葉」と真摯に向き合い、稽古そして本番の作業全てにメンバーの一人一人が納得することのほうが、「語劇」におけるプライオリティーの一番であるべきではないかとおもうのです。
 また、各言語専攻の語劇代表グループとのミーティングを通して、「語劇」においての「言葉」と向き合うことは[ダイアローグを完成させること=対話力を身につける]ことであると話しました。東京外国語大学の多くの専攻語にあって第一学年におけるその専攻語の初級修得は、いわば中学校、高校の英語、第一外国語の学習の方法と同じであったとおもいます。それは、読み書きを軸に、正解を自分で理解していくというモノローグを完成する学習法です。しかしながら、「語劇」においては、「ダイアローグ=対話」を完成させなければなりません。それぞれが「言葉」にその人しかできない「いのち」を吹き込んでいくわけですから、「ダイアローグ=対話」において正解などというものは存在しません。従って、この「ダイアローグ=対話」を完成させるために舞台をつくる、という前提にたって、各語専攻にアドバイスしたのは、夏休みの間に各役者が自身のセリフは100%理解し暗誦して演技として出来るように、掛け合いになる相手のセリフは80%、そして全体に関しては50%理解することをまず実行してくださいとお願いしました。そして、10月後期が始まったら、立ち稽古です。毎日毎日が楽しくなるくらい稽古のなかで、「言葉」が一日一日と輝いてきます。真摯に「言葉」に向き合うとき、そのテキスト、そのセリフが持っている深遠さとの対決になります。そのときには、このセリフのときの所作、しぐさ、表情はいいだろうかという疑問がでてきます。この具体的な質問に専攻語の先生、ネィティブの先生にアドバイスを求めなさい、と。視点を変えるなら、「語劇」を創るという過程において、「読み」「書き」に加えて、「話す」「聞く」をもっての「対話力」「コミュニケーション力」の獲得という教育的側面をもっています。まさに「言葉」を向き合い「語劇」に参加する学生たちひとりひとりが自分自身に納得するまで「専攻語」と真摯に格闘するということこそが優先順位第一番の目的ではないか、と話し合いました。

2. 舞台は、皆さんの五感全てで感じて欲しいということ。
 舞台はライブの空間であるということです。奥行きがあり本当の三次元空間であり、ズームインもカットアウトもありません。役者と観客は同じ空間、同じ空気を共有しているのです。したがって、役者は空気を観客に押すこともできます。「舞台の熱気が伝わる」「観客の冷やかな反応」という言葉は、まさにそこに温度を感じるからです。観客の「観る」ことも、役者の「演じる」ということもスタッフの「舞台を創る」という作業も全てが人間の全感覚を研ぎ澄まして行なわなければならないことを指摘しました。

3. 舞台作品を創るにあたって、専攻語圏の文化・芸術に対してのアプローチを今の自分たちのライフ・スタイルから安易にしようとしていないかを確認してほしいということ。
 最後に、舞台作品を創るにあたって、専攻語圏の文化・芸術に対してのアプローチをもう一度確認してもらいました。現在の自分たちのライフ・スタイルから、安易にアプローチしようとしていないかを確認していただきたかったのです。日本に興味のある外国人の方々が、黒澤明、小津安二郎、溝口健二といった巨匠の映画のなかの日本にイメージを求めることは少なくありません。けれども、今の学生たちをふくめて、現実の日本人のライフ・スタイルは、アメリカ的なともヨーロッパ的なものに限りなくちかづいてしまったといって過言ではありません。畳にお膳、座布団という生活からテーブル・椅子の生活様式にかなり定着しました。いろいろな面で、足元である私たちの日本でさえ、30年、40年前であればかなりの検証が必要になります。その意味では、安易に今の自分たちのライフ・スタイルからのアプローチはいったん白紙にして、色眼鏡なしでしっかりと専攻語の国、民族の文化、芸術に関してアプローチを行なっているかを厳しく自分自身に問う姿勢を貫いてほしいという提案を学生たちに投げかけました。
 アジア圏の専攻語には、特に音楽に関して、西洋音階ではないその土地独自の音階、音楽をしっかりと理解して欲しいと話しました。日本各地の何々音頭をはじめ浪曲、民謡等は和音階です。また、「島唄」をはじめ今も沖縄民謡をベースにしたJ−POPの曲は根強い人気がありますが、沖縄民謡は琉球音階です。西洋音階になれてしまっている現在の日本人の生活の中では、しらずしらずのうちに見落としてしまう点なのです。また、民話における動物、植物、昆虫といったものに象徴される宗教性、風習性、風俗性ということも、しっかりと民俗学的な視点からアプローチをかけているかどうかといったことは重要になります。こうした様々な点から「語劇」を創るにあたって、専攻語圏の文化・芸術に対してのアプローチを今の自分たちのライフ・スタイルから安易にしようとしていないかを確認してほしいということを提示させていただきました。
(文責:語劇GPアドバイザー 佐野勝也)