ポルトガル語 特色GPと静岡大東町でのポルトガル語劇「桃太郎」上演について
黒澤直俊(東京外国語大学教授 ポルトガル語専攻)

 「特色ある大学教育支援プログラム」(略称特色GP)は、2003(平成15)年度から文部科学省が行っているプログラムで、大学・短期大学の教育改善に資する種々の取組みについて公募により特色ある優れたものを選定し、広く社会に情報提供するなどして高等教育の改善に活用しようというものです。

 初年度の2003年においては、全国に1200ほどあるといわれている大学、短大のうち、664の申請がありそのうち80件が採用されています。申請は1大学1申請が原則ですが、複数の大学で連合して申請する内容についてはその範囲外とされています。採用されると5 年間にわたって財政支援を受けることが出来ます。本学は、初年度の2003年度に「26言語情報リテラシー教育プログラム」というテーマで申請し、採択されています。この取組みは、情報リテラシー教育と外語大の26言語の専攻語教育を有機的に結びつけ、情報面での教育支援を充実させるともに、学生の専攻語も含めた情報活用能力を高めることで21世紀的な人材養成を図ろうというものです。この取組みが採用されてから、文部科学省からの財政支援に基づいて外語大の教育面での情報支援体制は格段の充実を見ています。

 そして、本年度特色GPとして採用されたのが、この冊子が直接関係している「生きた言語習得のための26言語・語劇支援」です。本年度は文部科学省が、同様の趣旨でやや申請の要件を変えた「現代的教育ニーズ取組み支援プログラム」(略称現代GP)を開始したこともあって、特色GP のほうの申請は多少減り、534件の申請が全国の大学からあり、うち58件が採択されています。2 年連続で採択された大学が12校あり、本学もそのひとつです。現代GPのほうは、本年度が初年度で559 件申請があり86件が採用されています。特色GPのほうと合わせて外語大のように3件すべて採択されている大学は全国で8校あります。

 さて、この「生きた言語習得のための26言語・語劇支援」ですが、これは東京外国語大学で、「外語祭」と呼ばれる大学祭において長年行われて来た、それぞれの専攻語を用いた劇の上演の伝統に踏まえて立てられたプログラムです。このような語劇は外語大では50年近い歴史を持っています。

 その中で、ポルトガル語専攻では、ちなみに1学年の入学学生定員は30名なのですが、ここ20年余りは、外語祭への参加の形式として、1年生が語劇を上演し、2年生はポルトガル・ブラジルレストランを開いて参加するという役割分担が出来ていました。語劇の上演内容としては、シンデレラ、赤頭巾ちゃんなどポルトガルやブラジルで小学生が、いわば学芸会のようなところで上演するような児童演劇的な内容が選ばれていました。もちろん、これらの内容については、新入生が大学に入学し、夏休みあたりまでに自主的な話し合いによって語劇の実施の是非や演目などについて決めていくわけですから、年度によってばらつきがあります。これは各年度の学生たちの「個性」によってちがってきます。本年度は、何か自分たちでオリジナルなものをしようということで、台本からすべて自分たちで作るということで調整が進められていたようです。夏休みのころには、すでに昔話の「桃太郎」のポルトガル語版ということが決まり、日本語の元台本の作成と翻訳の作業が進められていました。ちょうどそのころに、特色GPの採択が通知されました。

 夏休み中は、基本的にはクラスのすべてのメンバーが集まることは出来ませんから、大東町の催しへの参加の決定は10月まで待たなければなりませんでした。近年、ポルトガル語専攻では、国内のブラジル人コミュニュティーの増加に伴い、群馬県大泉町の関係団体などとの交流も進めてきましたから、大東町のブラジル人児童を対象に語劇を上演するということがいかにも自然だったのかもしれません。学生たちは進んで引き受けてくれました。

 もっとも、大東町での上演に向けて、直接的に動き始めたのは11月の外語祭のあとです。それまでは、何よりも、外語祭で上演するための準備、つまり劇のある程度の完成が第一だったからです。振り返ってみると、外語祭は、ある意味で、大東町の集いへ向けてのリハーサルになったようです。外語祭で一般の人々に上演したことで、今まで見えなかった「桃太郎」劇の未完成な部分に気づき、台本に大幅な手を入れ、新たな場面を挿入したりなどして全体の流れを自然にする工夫が取り入れられました。そして、外語祭までには直しきれなかった発音や発声の練習に取り組んだのもこの頃です。直前の1週間ほどは、学生、教員全員がひとつになって「桃太郎」に集中しました。

 大東町での「集い」で、劇中の「桃太郎」の世界と会場に来ていた子供たちがひとつになって共感し合っていたのは、まさにその成果なのでしょう。学生たちの心には、ひとつのことを成し遂げたという充実感と、大東町の中にある「ブラジル」という現実の存在の記憶は、一生残るにちがいありません。

 「集い」に関するアンケートの中で、参加したブラジル人の方から、この劇で「桃太郎」の話がよくわかるようになったという感想がいくつかありました。ちょっと気にはなりますが、それはそれとして、学年末という学生にとっては忙しい時期に、このような活動に進んで参加してくれた学生たちには感謝の気持ちでいっぱいです。そして、こういう貴重な機会を与えてくださった大東町のみなさまにも心からお礼を申し上げたいと思います。