平成18年度
    出張報告書

はじめに
 京都造形芸術大学は映画・舞台芸術学科を擁する大学である。映画・演劇ではなく、舞台芸術と謳っているのだから、狭く演劇に限定するではなく、ダンス、古典芸能などを多岐にカバーし、多面的に学生たちを教育している希有な大学である。一方、同大学は私たち同様、特色GPによる支援を受ける通信教育によって社会人を広く受け入れているのみならず、「こども芸術大学」という企画を運営し、広い世代を受け入れ、社会に開かれている。加えて京都芸術劇場という劇場も運営している。
 そんな京都造形芸術大学であれば、私たちの語劇支援の理念にとっては教えられること大であるに違いない。語劇のレベルアップ、社会に対して開かれたものにすること、上演のための基盤整備、などの目標に対して、大いなる示唆になるのではないか。とりわけ大学でありながら劇場を運営するという同大学の最大の特徴に注目して、劇場の位置づけについてもお話をうかがいたい。それが今回の出張の動機であった。3月15日(木)から16日(金)にかけて、アドバイザーの佐野勝也さんと柳原とで行ってきた。

3月15日 studio21
 初日はちょうど京都造形芸術大学大学舞台芸術学科の教員の指導するチームによるコンテンポラリー・ダンスのワークショップ「ジュネへ応答する8日間」という催しをやっていて、それを見学させていただいた。会場は京都芸術劇場studio21。京都造形芸術大学が運営する劇場、京都芸術座には大劇場としての春秋座と、この小劇場studio21がある。
 小劇場は学生たちの授業や実習で使用したり、彼らの表現プロジェクトの場として使用されたりするとのこと。毎年七つから九つの学生主体のプロジェクトが立ち上がり、40ばかりの公演が行われているらしい。今回の「ジュネへ応答する8日間」も、舞台芸術学科教授の山田せつこさんが指導し、「ジャン・ジュネのテクストに基づくダンス公演『恋する虜』のためのワーク・イン・プログレス」と銘打ったもの。学生やOBを中心としたチームの公演のための踊りを公開で作り上げていくというきわめて刺激的な試みである。こうした前衛的な試みであるにもかかわらず、客席は満員で、なかなか本学には望みがたい雰囲気と言えよう。
 

studio21 大学サイトからhttp://www.kyoto-art.ac.jp/

 studio21は長方形の15×25メートルばかりのスペースに可動式の客席を置いたつくりで、最大10列の一方向を向いた客席スタンドが立つと言うから、300人ばかりの収容能力だろうか。当日はたっぷりと広めのステージを真ん中に確保し、それを北と南から客席が取り囲む形で、100名くらいは入っていたと思われる。そこでのパフォーマンスの内容は、この報告書の趣旨から外れるので詳しくは論じないが、すばらしいものであった。時間の都合で割愛されたが、当初は演技の後に客も参加してのアフタートークが計画されていたらしい。何かを作り上げていくワークショップの意気込みが感じられる。
 京都芸術劇場は、名目上、同大学映像・舞台芸術学科(2007年4月から舞台芸術学科)および舞台芸術研究センターの研究所という名目で申請されたものらしい。この日の試みのようなものが日常的に行われているのであれば、しかし、その名目を立派に果たしていると言えよう。教授が進めるプロジェクトに、卒業生たちも演者やスタッフとして加わっているのだから、教育と研究が融合しているのであり、それを発表する場として機能しているのがこの空間だと言えよう。

3月16日 春秋座
 2日目には大劇場・春秋座を見せていただいた。

春秋座客席。花道が取り払われている。


  ここは歌舞伎の公演の可能性を基本として設計された劇場だが、もちろん、現代劇や音楽のコンサートなどでも使用可能であるとのこと。当日は、翌日に控えた卒業式のための設営の最中で、花道が取り払われていたが、同大学サイト内の案内に掲載の写真に見られるように、花道があって四角い造り、回り舞台にせりまであるとくれば、紛れもなく歌舞伎の劇場が意識されている。収容人数は800人ほどとのこと。大小の楽屋とstudio21の真下に位置し、同じサイズを持つ搬入口、一面鏡張りの壁を備えたレッスン室などが設備されている。レッスン室は授業でも頻繁に使われる。




舞台。翌日に備えて演壇が据えられている。この下が回り舞台とせり
  同大学同学科のカリキュラムの一環である「日本芸能史」の授業などは実演を提示しながらのものだそうで、この春秋座が実演の場所になるとのこと。技術スタッフのための実演の授業もここで行われる。学生たちが自主公演や卒業公演などにも使う上に、一般の興行も貸し出して行っており、昨年の例ではプロの公演、学生の公演をあわせて年間34の公演が組まれたと言うから、ほぼフル稼働と言っていいだろう。授業に使用されたり学生の発表の場となったりするのだから、やはり研究所との名目は果たしている。ただし、期間をたっぷりと取っての一般の公演はできないということだろう。
 劇場の維持には、舞台芸術研究センター劇場企画運営室制作統括の名目で専従スタッフをひとり置いている。当日案内してくださった中村さんという方だ。加えて、舞台設営などの会社パシフィックアートセンターから2人のスタッフを派遣してもらっている。実際の公演が行われる際には、そこに増員がかけられるとのこと。

舞台袖。たっぷりとしている。


 維持費はおおむね、1,500万円から2,000万円ほどだそうで、これに人件費が加わる。同大学同学科は文部科学省による学術フロンティア推進事業の指定を受けて助成をもらっている。同事業の年限である5年が経過した後も3年の延長助成を受けている。運営費はそこから捻出している模様だが、私たちのGP同様、助成終了後の展開が課題といったところだろうか。


森山助教授(中央)からお話をうかがう。
まとめ
 私たちをアテンドし、色々とご教示してくださったのは、京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科助教授の森山直人さん。彼にお話しを伺った。同大学は2007年度から学科数を増設する。映像・舞台芸術学科は映画学科、キャラクターデザイン学科、舞台芸術学科に分かれる。これまで、映像に興味があって入学してきた学生が舞踊の授業で実際に体を動かすことによって新たな視点を獲得するといった現象も見られたのだが、それが分割されることによってそうしたことが失われるのは忍びない、どのようにカリキュラムを編成していくかが問題だ、とのこと。
 私たちが来年度出版しようとしている書籍は、「ことば・教育・演劇」というテーマを掲げるものだ。森山さんの語った学生の経験とは、身体を使うことによって感覚と思考が変化するという体験を教育として与えることができたという話なのである。私たちにとっても示唆に富む指摘ではないか。大学に劇場を置いているという意味ばかりでなく、京都造形芸術大学のような教育の試みそのものも、注目に値するのではないか。