市長はどうあるべきか

アズィズ・ネスィン

尾田郁子訳


 街で市長選があった。敵対する二つの政党の二人の有力候補者は、そのほかの候補者を大きく引き離していた。コーヒー店で、店で、家で行なわれる宣伝活動は終わり、ことは公開演説へと転じた。ライバルのうち、ベシル氏は、軍に兵役を除隊せずに残り、長官になった。その後、この街で30年ほど裁判代弁職をしていた。ベシル氏に対して、店屋のカズム氏がいた。カズム氏は、長年、街区長をしていた。たどたどしくは読めるが書くことはできなかった。店の会計を自ら発明した印によってやっていた。

 市役所の前に、街の小学校から先生の教壇が持って来られ、その上には水差しとコップが置かれていた。

 政党の間の雰囲気はとてもヨカッタので、それぞれの心の敵、二人のライバル、法定代弁人ベシル氏と、旧区長で店屋のカズム氏は、腕を組んで教壇のわきまで来た。街の人や村人が広場を埋め尽くしていた。法定代弁人ベシル氏は、街の一番の知識人であるため、どうしたって自分が先に教壇に出ると信じきっていて、

「どうぞ、カズムさん。最初に君が話しなさい!」と言った。

カズム氏は、

「いやいや、めっそうもない。私たちなんか。まず、あんたからどうぞ。」と言った。

 三期にわたって市長を務めた法定代弁人ベシル氏は、ああだこうだともったいぶった後、教壇に出た。長年の街の裁判所で手慣れている法定代弁人の振舞いでもって話し始めた:

「皆さん!三期にわたって市長をやった私にどうかお願いします。私はもう一度あなた方の助けでもって、この任務にふさわしくあろうと努めます。今、選挙に向かっております。必ずや私を選べと言っているのではありません。実は、仕事がたくさんあって、私は疲れているのです。しかし、市民の皆様の薦めでもって立候補しました。望むなら私を、望むならほかの人を…(横目でカズム氏を見た)。今、私はあなた方に、思いつくことを舌が回るだけ、市長はどうあることが必要なのかということを、説明してみようと思います。市長には、熟練していること、円熟していること、いろいろなことを見て経験していることが必要であります。(ベシル氏とカズム氏以外の候補者は皆若かった。)市長職はくたびれる仕事であります。そのため、とても年をとって、頭が禿げていて、入れ歯をしていて、孫がごろごろいるような人が出来るような仕事ではありません。(ライバルのカズム氏は、ベシル氏よりも14歳年上で、頭は禿げ、入れ歯をしていた。)50を過ぎないほうがいい。(彼はちょうど50歳だった。)法律や条例を知らない人を選んでは、皆さんの用を果たせません。(街には彼ほど法律や条例を理解している者はいなかった。)私を選べと言っているのではありません。しかし、注意してください。たどたどしく読んで、書けないような人を選んではいけません。市長はどんな所にも出入りします。ズボンにアイロンのかかっていない人、ネクタイをしてない人を選んでは、街の名誉は落ちます。(街には彼のほかにアイロンのかかったズボンを履き、ネクタイをしている人はいなかった。)帽子がこのような私のもののような(頭から取って示した)フエルトではないものを選んだなら、貧乏くさくなります。(街には彼のほかにフエルトをかぶっている人はいなかった。)私を選べと言っているのではありません。しかし、市長は、あなた方が選ぶ男は、私が説明したような人であることが必要なんです。」

 ベシル氏は教壇から下りた。広場埋め尽くしている村人たちは:

「その通りだ!」

「上から下まで正しいやつだ!」

 と言い始めた。カズム氏は教壇に出た。:

「私は正直なところ、はさむ言葉はございません。」という言葉で始めた。

「ベシル氏はあなた方にすべてのことを言いました。(ライバルのベシル氏を指しながら)あなた方が選ぶ市長の犬歯は金でなくてはなりません。(ベシル氏の犬歯は金がかぶせてあった。)(再び手でベシル氏を指しながら)市長の目は青でなければなりません。(村人たちは、わははと笑い始めた。)(指でベシル氏を指しながら)左の頬にはシミがなければなりません。(ベシル氏は怒りで真っ赤になった。)市長は、ほら、このように手には杖、鼻には眼鏡がなければなりません。(村人たちは笑い狂っていた。)市長の名前はベシルでなければなりません。」

 カズム氏は教壇から下りた。村人たちは笑って腿の付け根をおさえる一方、ベシル氏は怒りから髭を歯で引きちぎっていた。

 演説は翌日も続けられる予定だった。村人たちは二つのグループをつくっていた。そのうちの多数はベシル氏の側だった。ベシル氏は、もう、政治的な丁寧さを捨て、ライバルの汚い話をぶちまけていた。今、雑貨屋のカズム氏にどんな富があるかということが、人々の会話にのぼっていた。翌日、広場を埋めた人だかりは二倍に増えた。ベシル氏は前日の怒りでいやいやながら教壇に上がった。

「皆さん!ついに言いたくないことを言わなくてはなりません。この男が街区長だった時、どんなことをしていたか知らない人はいますか。街に外から偉い人が来ると、どこに行きますか。まっすぐ街区長カズムの家に行ったのではないですか。どうしてか。この理由は皆知っています。昨年、特別な事情で来た三人を家に入れ、を二日二晩、園で踊らせたのはこいつじゃありませんでしたか。」

 村人たちは:

「神に賭けてその通りだ…」

「本当だ…」

 と言った。

「皆さん!クルバン・バイラムの時に施し物といって手に入れた羊の毛皮をどこに送ったかご存知ですか。市長になりたがっているこの男には非合法な内縁関係で家に四人の妻がいるのを知らない人はいますか。」

 村人たちは間から:

「まったくだ!」

 声は高まった。

「皆さん、この男が街区長になる前、雑貨店のほかには何もなかったのに、10年間で街の半分をどのように手に入れたか皆さんご存知でしょう。」

 あちらこちらで:

「しかし、達者なやつだ、街区長は…!」声は高まった。

「皆さん!言われている話はまだたくさんあります。しかし、もう私は黙っておきます。もはや、望むなら彼を選びなさい、望むなら私を!」

 広場は拍手喝采となった。カズム氏の番となった。彼は、髭の下で笑いながら、ゆっくりゆっくり教壇に上がった。喫茶店で話すようにゆったりゆったり話した:

「ベシル氏の言ったことはすべて正しいです。ベシル氏は30年間、法定代弁人をやっています。2ドヌュムの畑もなければ二頭の牛も…。とても高潔な男です。10パラも持っていない。家に外から客が来たとしても、座らせたり、寝かせたりする場所さえ無い。私についていうと、彼の言ったように、街区長になるまで10パラも持っていませんでした。今は、250ドヌュムの畑があります。ありがたいことにお金もたくさん…。彼にはアイロンのかかったズボンがあって、フエルトがあって、眼鏡があって、ネクタイがあります。私は読み書きができません。それ以外のことはあなた方がご存知でしょう。」

 演説は終わった。皆、解散した。二日後、選挙が行なわれることになっていた。街区長カズム氏の友達は彼の店を埋め尽くした。

「何をやってるんだ。カズムさん。まったくあんな話ってあるか。君はベシルを天使みたいにした。彼には金が無いって?彼は君を買い取るほど(金持ち)なのに…。」

 カズム氏はくすくす笑っている。

「まあまあ待ちなさい。選挙で何が起こるか見てみよう。」と言った。

「まったく…。君がクルバン・バイラムの時の毛皮を空軍へ送ったことを私たちは知っている。どうして濡れ衣だと言わなかったんだ。」

「選挙を見ていよう、何が起こるか。」

「まったく…。君の200頭の羊なんてどこにいるんだ。君には父さんから残された30ドヌュムの畑と一組の牛がいるだけじゃないか。ヤンドゥム・エミネを園で踊らせたのはそもそもあいつじゃないか。」

 すべてのことにカズム氏は、

「ちょっと待てよ。選挙を見ていよう!」と言ってにこにこ微笑んでいた。

 選挙が行なわれた。法定代弁人ベシル氏はカズム氏の四分の一の票さえも獲得できなかった。投票しに来た村人たちは次のように話していた:

「私たちには道が必要だ。水が必要だ。種馬や種牛が必要だ。銀行では貸付の割合が必要だ。そして種が必要だ。このベシルってやつは、長年の間に、自分の事さえも成功させられなかったのだから、街のことはさらに何もできっこない。未熟者の一人だ!妻を躍らせることを知らないし、偉い人をもてなすことも知らない、有能じゃない。票をカズム氏に入れなさいよ。」

 この選挙の後、市長に立候補する者たちは、次のように宣伝活動で次のように演説するようになった:

「皆さん!私には500頭の牛と4組の牛、4人の妻がいます。500ドヌュムの畑があります。週に一度妻を踊らせます。これらすべては私の賢さのおかげで、6か月で成し遂げました。」