民話集

私たちは誰?
そりでの散歩
貨物列車でどうやって旅をした?

ナーズム・ヒクメト

関口陽子訳


1話 私達は誰?

 森の深いところ、大地に落ちた大きな葉の下で、小さなかわいらしい者達がかすかに動いていました。ある場所から他の場所へ移動して、隠れて、現れて、小さな声で叫んでいました。

 これらを遠くから、セミ、バッタが、そしてあなたが眺めています。これらはセミでもバッタでもありませんが、これらは長い間森で生活している森の小人達なのでした。時々、彼らは森から出ていって、世界中をめぐり、人間を眺め、善いことを見て善い人々を助け、笑ったり泣いたり、時には悪い人々に罰を与えたりするようになりました。

 森の小人達は自分達の姿を人間に見せることを避けていました。なぜなら、森の子供達の隣では、人間達は巨人のように大きく、一番背の高い森の小人でさえ、子供の指のように小さいからです。

 旅行の間に、森の小人のリーダーから多くの冒険話を受け継ぎました。これらのうち幾つかは楽しく、愉快なものですが、悲しいものもあります。でも、森の小人達は自分達が受け継いだ冒険話の人間らしさが知られることを望んでいないのに、人間はこれらの冒険話を知っているようです。そして、これらのお話を大きな本にまとめたようです。しかし、森の小人のリーダー達からそんなに多くの話を受け継ぎ、彼らはこんなに良い、または悪い日々を見てきたので、これら全ての冒険話は1冊の本ではないのはもちろん、何百冊もの本にさえつめこむことは不可能です。

 森の小人達は本当にとてもごちゃごちゃとしています。彼らもまた、人間のように服を着ています。ある者はジャケット、ある人はマント、はたまたフロックコートを着ています。何人かの頭には煙突帽が、毛皮の帽子がのっかっています。そしてある者はブーツを、ある者は靴を、そして何人かはスリッパを履いています。

 森の小人達全てには名前が、幾人かにはニックネームもあります。中では、小さな中国のチー・カー・チーに、エスキモに、ヒンティレル、ゼンジレルに出会うことでしょう。フルドンドゥ、アジャル、ジュプジュプ、ミシュカ、サカル・、シブリクラーフ、ミク、リッキ、テクディシュ、これら全ては森の小人達なのです。また、森の小人達の間にビルギンチ(物知り)とマンカファ(ばか)という名の二人の兄弟がいて、彼らのうち1人だけ、とても物知りです。だから、彼に何を尋ねても質問に全て答えるのです。しかし、もう1人は全く何も知らず、とても無知な小人でした。また、森の小人達の間で2人のちびに会って、1人をセルチェパルマック(小指)、もう1人をミクロプチュック(ばいきん)と呼びます…。フルチャチュック(ブラシ)は森の小人達の画家なのです。彼らにはメルヘン・クツゥス(軟膏の小箱)という名の医者達がいて、いつもポケットに薬のビン、錠剤の箱、包帯を入れていて、森の小人達が病気になった時、彼らに診てもらいます。もちろん、もっと多くの小人達がいます。しかし、数えあげればきりがないのです…。

 しかし、森の小人達の中で最もすばしっこく、最もかしこく、最も勇敢なのは、この私、ユスフチュックです。私は皆よりもずっと粋で、最新の流行に従って服を着ています。上に着ているフロックコートの型は雑誌を調べて取り出した型に従って縫われています。頭でピカピカ光るシルクハットはイスタンブルで1番良い百貨店から買いました。私のようにモダンな靴を誰も履いていません。目には眼鏡をかけています。しかし、私はこれを目が悪いため、つまり近視であるためかけているのではないのです。でも、たった1つの眼鏡は私にとても似合うのでかけています。お客に行くときは、フロックコートの襟にいつも大きな白いバラをつけていきます。上等の糊付けした、雪のように白い襟をつけます。

 森の小人達は私を笑いものにしていて、私もそのことを知っています。彼らによれば、私は、いわゆる風変わりな見栄っ張りの1人なのです。彼らは私に“空っぽの頭”というあだ名を更に付けました。これらは全て、私を羨ましく思っているためです。では、本当に空っぽの頭であるならば、たくさんのシルクハットが私の頭の上でこんなに素敵におさまりますか?もちろん、いいえ!です。また、空っぽの頭がたった1つの眼鏡をこんな風に、私のように、自分に似合うようかけられますか?疑いようもなく、いいえ!です。

 私の頭は空っぽどころか、反対に、とても賢い考えでいっぱいなのです。

 私は今に至るまで何を考えなかったというのでしょう、何を!何と才能を発揮したことでしょう!何と驚くほど大胆に振舞ったことでしょう!森の小人達は私をからかっているのではなく、反対に、仲間の間で私のように1人賢い者がいることを誇りにすることが必要になってきたためです。

 あなたもまた、私の頭をよぎった全ての出来事、発揮したあらゆる才能、どんなに大胆に行動するかをこの、ちょうどその時に書いた回想録を読んで、私の言い分が正しいと認めるでしょう。私がどれ程大胆であるのかは、皆以上に医者のメルヘン・クツゥスが知っています。なぜなら、彼は多くの冒険で私が負った傷を彼の手で治療したからです。しかし、森の小人達は私の勇敢さをも羨み、このやきもちから私を卑怯者と呼びます。言わせてみれば、私はそれ程の臆病者であるので、ある日、仲の悪いセミに驚き、そしてどんどん逃げたというのです。確かに、私はどんどん逃げました。しかし―あなたが信じるように―決して怖かったからではありません。単に、私はセミを好きではないので、そのようにしたのです。いつセミを目にしても、すぐ上に登って脚をかじるようになるのです…。そしてそれも言うように、私が逃げる生き物は、おそらく、セミだけではなかったのです。私に残るとすれば、それは一匹のサイでした。しかし、そう主張したくなかったので、この、サイがいることを証明しようとしなかったのです。


第2話 そりでの散歩

 とても寒い、ある冬の日のことでした。そんなに寒かったので、私達森の小人達も雪を、冬を怖がらないので、手をポケットに突っ込み、こんな風にぶらぶらしていました。しかし、私の背にはコートのフィランがありませんでした。いつものように、フロックコートと高いシルクハットを着ていました。

 そしてこんなある冬の日、地面は雪に覆われ、私達森の小人達は高い松の木々の根元を散歩している時に、遠くから鈴の音が近づいてきました…。サカル・デデ:

 ―多分、近くからそりがやってきた!と叫びました。

 私は眼鏡をかけて、向こうに大きなそりがあるのを確認しました。:

 ―おーい、みんな!と私は言いました。そりとすべるよい機会だ。そりはこんなに大きいし、中にみんな入れて、また空いている場所もある。

 全てを怖がるテクディシュは:

 ―いいね、でも、中にいる人間が私達を見たら?

 サカル・デデ:

 ―そりに乗っている人々が降りるのを待とう。彼らが降りて遠くへ行ったら、私達がそりに乗ろう、引っ張ろう!と提案しました。

 全ての小人達:

 ―そうだ、そうだ!それがいい!と一斉に叫びました。

 そして私達は森のふもとにある別荘の庭門の前に停まっているそりに向かってまっすぐ走っていきました。

 そりから別荘の主人の子供達が降りました。散歩から帰ってきたのでした。子供達は走って別荘の中に入りました。そりの御者は厩の門を開けるため、遠くに行きました。そりがこんな風に少しの間空っぽになるだけで、私達森の小人達にとって充分でした。

 アジャルが叫びました:

―さあ、急いで乗ろう!急いで、急いで!僕は馬の手綱の使い方を、鞭の入れ方を良く知っている!

 ―いや、僕はより良く手綱を使う、と言ってフルドンドゥは反対しました。

 エスキモ:

 ―いやいや、このことを君達みんなよりずっと上手く僕はやりとげる。僕は20匹の犬に引かれたそりを乗りこなすのだから、と言いました。

 サカル・デデは笑って:

 ―なるほど、しかし、それらは犬だが、このそりを引くのは馬だ。更に馬はどうだ…乱暴な生き物であることは明らかだ…。

反対側の小人達は:

 ―おーい、みんな!けんかしたり口論したりするときじゃあない…さあ、はやくしよう!と叫んで、そりの中に乗り込みました。

 多くは座る場所に、何人かは彼らのふところに場所を占めました。長い議論の後、手綱はアジャルに、鞭はフルドンドゥに任されました。何人かの小人のために、そりはその場にとどまりませんでした。そのための方法を見つけました。1つのへりに打ち込まれている大きな丸太を引きずって、全部持ってきて、そりの後ろにつなげました。私達は1つ1つをしっかりつかんで、丸太の上に座りました。

 私、ユスフチュックは、へりに、とても良い場所を自分のために選び、座りました。しかし、ドクトル・メルヘン・クツスは私に列に来るように、みんなは乗るのを待っているからその場にとどまらず、そりの後ろ側で、鉄の上に足を置くよう強制しました。

 ―さあ、準備はいいかい?とアジャルは尋ねました。

 エスキモとミクロプチュックは叫びました。

 ―待って、待って!僕達はまだ座っていない!

 ついにみんな場所場所に落ち着くと、フルドンドゥが鞭を打ち、アジャルが手綱を引き、馬は雪道の上、そりは鳥のように飛ぶように走り始めました。

 そりと馬がいないのを見て、一体、別荘の人達はどれ程驚いたでしょう!

 馬は駆け足で走っていきました。そりはひざの高さまでの雪の上を矢のように飛んでいきました。突然、そりは木の切り株に当たってはげしく揺れました。そりの後ろにつながっている板の上に座っていた森の小人達はみんな一斉に空に向かって飛び上がりました。幸い、お互いにしっかりとつかまっていたので、みんな再びもとの場所に落ちました。1人、危うくマンカファが地面に落ちるところでした。更にドクトル・メルヘン・クツスは頭をひどく鉄にぶつけました。そして自分自身は突然後ろの丸太の上に移動していました。

 私:

 ―ああ、もうこれ位の散歩で充分じゃありませんか?と尋ねました。

 足の下で座っていたサカル・デデ:

 ―おい、怖がっているのか、ユスフチュック!と言いました。

 私は腹を立てました。怖いなんて全く思いませんでした。ただ、馬がこんなに速く走ったので、落ちないようにと帽子を両手でしっかりつかむことが必要になったのです。

 言い返そうとしましたが、突然、後ろからおかしなうるさいものがやって来始めました。

 ―子供達だ、と私は叫びました。おそらく、私達を追いかけてきたのでしょう。

 この一言は大騒ぎを引き起こしました。フルドンドゥは鞭を、アジャルは手綱を激しくふるい、そして全ての森の小人達はわめき始めました。

 馬はこの騒ぎに驚き、狂ったように暴れ始めました。そりは一本の木に衝突し、馬と一緒に下にころがりました。私達は黒い蟻のように白い雪の上に落ちました。雪の中に埋まってしまいました。そりのうしろにある板が真ん中から壊れてしまいました。アジャルはまだ手から手綱を放しませんでした。何とかして再びそりの上に登りました。フルドンドゥは手に鞭を持って片側に飛び出してしまいました。私は何とか、もといた場所にとどまることができました。

 アジャルとフルドンドゥはいったん馬をほどいてふちに結びつけました。そして、我々無傷であった者達は雪の中に埋まっている仲間達を救助したり、雪の中で行方不明になった者達を探して発見し始めました。

 一日中このことをしていました。どこかで雪にくぼみを見つけると、すぐそこへ走りより、中から弱った友人を引っ張り出しました。ドクトル・メルヘン・クツス が大けがをした者たちを診察しました。他の者達は軽傷者達を治療しました。一本のビンからたらした薬をケガ人達に与えました。やがて、みんな元気になりました。ビルギンチ:

 ―みんな大丈夫かな、さて…、と言いました。

 みんな一列に並びました。ビルギンチがみんなの名前を呼んで点呼を取り始めました。順番が私の名前に来ると、私は全く返事をせず、黙っていました。ビルギンチはもう1度尋ねました。

 ―ユスフチュック、君はここにいるね?

私はまた返事をしませんでした。彼は再び尋ねました。

 ―ユスフチュック、どこだ?いないならば、雪の中に埋まっているのか?

 ―いいえ、埋まってなんかいません、と返事をしました。

 ―じゃあ、ここにいるのか?

 ―おそらく、ここでしょう?と再び返事をしました。思うに、私のシルクハットは遠くからも見える位とんがっているのです。彼には見えなかったのでしょうか?

 やがて皆が無事であることが分かりました。やっとのこと、そりをまっすぐに直しました。馬を再び走らせました。そりに乗りました。そして、今回はもう、馬をあんな風に走らせず、大人しく、分別をもって戻りました。そりを最初に乗った場所に持っていって戻しました。森に帰りました…。

 こうして、私達のそりでの散歩はこんな風に始まって、こんな風に終わりました…。

 


第3話 貨物列車でどうやって旅をした?

 暑いある夏の日のことでした。みんなとても疲れていました。どうやったらこの状態から救われるかを考えていました。

 フルドンドゥが落ち込んだ声で:

 ―多分、徒歩の旅に出なければならないだろう、と言いました。

 この頃山の頂上に登ったアジャルが叫びました:

 ―みんな!僕はここから一本の木の橋を見た。橋の上には線路が通っている。急いで橋へ行こう、一本の電車をつかまえよう。乗ろう。ここから行こう。

 もちろん、アジャルのこの提案を皆喜んで受け入れました。橋へ向かって真っ直ぐ走り始めました。

 私はみんなの前で走りたいと思いました。しかし、つま先のとんがった最新流行型の靴が地面にひっかかって、思うように走れませんでした。そのため、最後尾に私はいました。他の小人達が橋を渡っている時、私はずっと遠くにいました。

 ―そんなに速く走るなよ、と叫びました。すぐに疲れてしまうじゃないか。

 しかし、森の小人達は私の忠告を聞かず、息を切らして走っていました。私は疲れながら足を引きずって、必死で彼らに追いつくことができました。

 やっと駅に着きました。そこには宝石、石、レンガを運ぶのに役立つ、屋根の空いた貨車からなる電車が止まっていました。貨車は空で、駅の職員はすぐ出発するために機関士

と車掌達に命令していました。

 我々森の小人達は深く考えずに、誰にも見られずに貨車によじ登りました。私ユスフチュックは全ての機関車のうしろにある最初の貨車に自分の場所を選んで座りました。ミクロプチュックが私に話しかけてきました。

 ―こわいのかい、ユスフチュック?

 ―僕はいつも何にも恐れたりしない!と彼に返事しましたが、実を言うとほんの少し怖がっていたのは当たっていました。

 そして、丁度他の貨車へ行くため準備している時、列車は線路へ出ました。

 初めはゆっくりと進みました。それから、進めば進むほどどんどん進んで、山の斜面の間を飛ぶように走り始めました。

 突然何かが起こって、何かがぶつかり1番うしろの貨車の反対側が分かれ、逆様にひっくり返りました。その貨車に座っていたドクトル・メルヘン・クツスとサカル・デデは自転車と一緒に、アジャル、マンカファ、ヒントリは地面の上にころげ落ちました。最後から二番目の貨車にいたテクディシュは全部の列車が事故に遭うだろうと考えて自分から飛び降りました。全部の貨車で大騒動になりました。

 幸い、機関士が事故に気付いて列車を止めたようでした。私達はこの時列車から降りて木々の後ろに隠れ、一体、どうなるかと待ち始めました。

 マンカファは、木の根元に座って、いろんな方向から集まってきた作業員を見ているフルドンドゥに、

 ―多分、僕らはここで10日間待たなきゃならないだろう、と言いました。

 フルドンドゥは

 ―それじゃあ、作業員達を手伝おうか?と尋ねました。

 私、ユスフチュックはこれを聞くと聞かずとに関わらず、もしも作業員たちを手伝いたいなら、森の小人達が先頭に立って彼らの運転準備をしようと言いました。

 この時、機関士達と車掌達が、ひっくり返った最後尾の貨車を道から引き上げました。彼らはこんな風にとても一生懸命に働いていたので、我々の手助けは必要じゃありませんでした。

 少し経って全ての作業は終わりました。機関士達は受け持ちの場に戻りました。列車が再び動く準備がなされました。これを見た私達のビルギンチは:

 ―さあ、みんな、と叫び、手にした緑の旗を振りました。

 私達はこうして再び貨車に飛び乗りました