隠者の秘密

レシャト・ヌーリー・ギュンテキン

(訳)宮下遼


 

 シェイフ・ニハーニーはその青白い目をゆっくりと娘の顔へ向けると、髭を撫で回しながら質問を続けた。

「あんたはいくつかね、娘さん?」

「18歳になりました・・」

「うむ、すばらしい・・名前は何というのかね?」

「アフェットです・・」

「うん、うん、すばらしい。父親やら男兄弟はいるかね?」

「いえ・・年老いた叔母の他には誰もおりません・・」

「うぅん、何ともすばらしいねえ。さて、お前さんに尋ねるが、なんでまたこんな山の頂の隠居までやって来たのかね?」

 若い娘は少し躊躇い、赤くなって唾を飲み込んだ。そうして震えながらつっかえつっかえ説明を始めた。

「シェイフ様、私は貧相ですが他の娘達と同様着物に帯をしめて散歩したり色々見て回ったりします。これは私の権利ですよね?自分ではそんなに醜くはないと思いますし・・」

 シェイフは微笑みながら保障した。

「娘さん、何ということを言うのかね・・お前さんはほれ、山肌の新緑のようさ。」

「家族の状況や時勢が悪いのです・・去年はメリヤス織りのベールのために二日の間泣きました。もうあれをあつらえるお金もありません。」

「まあまあ。他の人はあんたの様な娘さんに何もしてくれないのかね?」

「でも叔母の手前もありますし・・どうすれば良いのか・・お金もありません・・19になりましたが耳に贋物の耳飾りをすることもできません。私は憐れではありませんか、シェイフ様?」

 アフェットの藍色の双眸は暗く沈み、長いまつげが涙をたたえていた。

「昨日少し離れたところにあるお庭つきの別荘にお邪魔しました。そこへ行く途中の列車の席で叔母の知り合いの若いご婦人に偶然お会いしたのです。あなたもご覧になれば分かりますが、とてもきれいで上品で、何ともモダンな方でした・・外套を着てらしたんですがそれがとても素敵で・・それはともかく、彼女の指にはまっていたブリリアントカットのダイヤの指輪・・駅からは何人かの上品な男性方が彼女にシャンパンを持って来ようと客車の窓に向かって走ってきました。ご覧になれば何と自由奔放に話すのだろうとお思いになることでしょう。金のパイポを金歯がぎっしり詰まった口に咥えて左頬をへこませて吸いながらそれはそれは甘やかに微笑んで、何ともすばらしい話をしていて・・列車が出発すると彼女は私と話し始めました。その上品さや美しさに比べると尊大なところも自惚れもありませんでした。彼女は私に対して友人のように振舞ってくれました。あなたはどなたで、どこへ行くのかと尋ねられました、そうして私の頬をなでて『まあ、真珠のようなほっぺたね!』と言ってくれました・・この瞬間私も大胆になりました。悩みを打ち明けました。その上ちょっと泣いてしまいました。ヴスラット夫人は笑って言ったのですが・・」

「その女性の名前はヴスラット夫人というのかね、娘さん?」

「はい・・」

「彼女のあごにはほくろがあったかね?」

「はい、でもなぜあなたが知っているのですか?」

 シェイフはその言葉を聞くとぼんやりとした目で神秘的な微笑みを浮かべた。

「私達はお互いに明かしていないことがあるようだね、娘さん。」

 この言葉はある程度まで正しかった。シェイフ・ニハーニーの山頂の隠居、巣を張って獲物を待つ蜘蛛の巣窟へ入ってしまった何とも無邪気だった娘達・・ヴスラットと同じくシェイフの目は青くて神秘的で、彼女の目に似ていた。アフェットのように誠実な望みを持ってやって来た者達の内のどれほどの者が、頭の巡りを滞らせる麝香の香りや感覚を麻痺させる油でとかしつけた彼の顎鬚の雅びなさまに不注意になり淫婦へと堕し、この男に溺れたことだろう。どちらにせよ、子供のいない女達に対するとシェイフの甘やかな吐息は、霊薬のごとき効き目を発揮したのである。

 アフェットは言葉を続けた。

「婦人の言葉で私は大胆になりました。私は言ったのです、『何故なのでしょうか、女達が、時に、美しい着物や真珠やダイヤモンドに我を忘れてしまうのは?』

 ヴスラット夫人は大笑いし始めて、『理由なんていくらでもありますよ。例えばほら、あの山荘。(そう言ってこの場所を指差しました)私もお友達も最初はあそこでそういったものを手に入れたのですよ、欲しいならあなたも行ってごらんなさいな・・シェイフさんは素敵な方よ。あなたを大いなる神秘へ誘ってくれますよ。』とおっしゃったのです。昨晩は別荘にお邪魔させていただきました。今日になって『家に帰ります。』と言って、早々と出発してここへ参りました。親愛なるシェイフ様・・どうか私にもお与え下さい・・いけませんか?」 シェイフ・ニハーニーはその碧眼の内に一瞬鋭い光を灯してアフェットの話を聞いていたが、情け深い態度で頷いて言った。

「よし娘さん、何も用がないのなら5日か10日はこの隠居に留まってもらわねばならんよ。」

「叔母に許しを請わないと・・」

「いや、いかん。奇跡をふいにするつもりかね。」

「でも何も知らせないで5日も10日もどうやって留まるのですか?」

「それも道理だね・・明日までならどうかね?」

「はい・・叔母には今夜もお客にならせてもらうと言います。」

「それで十分だよ、娘さん・・あのご夫人のようにお金持ちになれる秘訣にお前さんも行き着くだろうよ・・ただし、いついかなる時も私に服従しないといけないよ・・

***

「さあ愛しい人よ、列車の時間だよ。お前さんは帰っておくれ。私はおつとめで忙しいんだ。」

 アフェットはわずかに躊躇いながらシェイフの顔を見た。

「ええ、シェイフ様、でも約束をかなえて下さい。私はあなたの導きで大いなる神秘に達するのでしょう・・何でもあなたの言うとおりにしました・・それなのに何も学んでいません。」

するとシェイフは言った。

「やれやれおめでたい子だ。私の導きで手に入れられる神秘などあるものかね?これ以上どう献身すれば良いのかね?・・今晩学んだことをうまく利用したまえ。お前さんもヴスラット夫人みたいな金持ちになれるさ!」