レシャト・ヌーリー・ギュンテキン
ハリット氏は(彼は45歳で富裕な商人である・・)部屋の隅で赤ちゃん用の編み上げ靴にインキで色を塗っている息子にむかって言った、そばにおいでジェヴァット・・ほうら何をあげると思う?
ジェヴァット(5歳の、縮れた金髪の腕白小僧である)「何をくれるの?」
ハリット氏(手の中にチョコレートを隠しながら)「ごらん、何が出てくるかな?だけどただじゃだめだよ。お前が私にキスさせてくれなけりゃ・・」
ジェヴァット 「うん、キスさせてあげるよ。」(父親のひざに飛び乗って頬を差し出す)
フェルフンデ夫人(ハリット氏の妻である。針仕事を放り出して厳しい態度で)「あなた、いつも注意してるでしょ、こんな子供にキスしないでって。」
ハリット氏(笑いながら)「心配が尽きないねぇ、君ときたら・・」
フェルフンデ夫人「あなた、どうかみっともないことはやめて下さいな!」
ハリット氏「みっともないのは君だよ・・僕が子供にキスすると君がどうにかなるのかね?」
フェルフンデ夫人「私がどうにかなるかですって?」まず子供を甘やかすことになるわ。それに子供の頬の艶をなくすことにも。この子の頬っぺたがタバコ臭くなって私が気持ちよくキスできなくなってしまうわ。ジェヴァットの頬っぺたが獣の死骸みたいにタバコ臭くなるのよ・・
ハリット氏「ふむ、君の貴重なお考えは分かったよ。子供の頬がタバコ臭くなって気持ちよくキスできないと、そう言うんだね。」それなら思い切って答えるがね、僕はちょうど四十路で子宝に恵まれたんだ。我が子を心ゆくまで可愛がってやりたいんだよ・・」
フェルフンデ夫人 「あなたは子供を可愛がるっていうけど私だってタバコ臭い頬っぺたにはキスできないわ・・」
ハリット氏「それなら方法がある。子供の頬を分配しようじゃないか・・右頬は僕のだ、左は君のにしてあげよう。」
フェルフンデ夫人「ええ、いいわ。でも私の権利を侵害しないと約束して・・ジェヴァット、私の坊や・・こっちのほっぺはこれからは私のものよ・・絶対誰にもキスさせちゃだめよ。」
ハリット氏「こっちの頬っぺたは僕のだからな・・誰にもキスさせるなよ・・」フェルフンデ夫人- 「さあ覚えてる、ジェヴァット?どっちがお母さんのほっぺ?」
ジェヴァット(指で頬を指しながら)「うん、これは・・」
ハリット氏「そう、私のだろう?」
ジェヴァット(右頬を示して)「もう分かったよ。こっちは・・(そうやって暗記するために赤ん坊のように)こっちのほっぺたはお父さんのほっぺた・・こっちのほっぺたはお母さんのほっぺた・・こっちはお父さんの・・こっちはお母さんの・・こっちはお父さんの・・」
−夕食後、台所にて−ジェヴァット「ねえ、料理長さん・・僕の料理長さん・・大切な料理長さん・・僕またナツメヤシの甘い実を一つちょうだいよ・・お母さんは体に悪いって食べさせてくれないんだ・・」
料理長(50歳で太った恰幅の良い人物である)「あげるのはいいが、君も私にキスしておくれ・・」
ジェヴァット「だめだよ、お母さんが怒るよ・・」
料理長「お母さんがどうやって知るんだい。」
ジェヴァット「お父さんももうチョクレートをくれなくなっちゃうよ・・」
料理長(笑いながら子供を捕まえて)「君がキスしてくれないなら、私も危険は犯せないなあ・・(セヴァットを抱き寄せて頬にキスをした)」
居間はハリット氏の客人で埋まっていた・・年配の隣人達や将校、教師・・地区のイマームが自分の教区に関する悪口を言っているとジェヴァットが大声で泣きながら入ってきた。
ハリット氏「どうしたんだい、ジェヴァット?」
ジェヴァット「・・・」
地区のイマーム- 「何があったにかね、ちびっこ君?言ってみなさい。」
ジェヴァット- (泣きながら)「お父さん、あの料理長さんがこう言ったんだ・・ちょっと前に台所で君のお母さんのほっぺにもキスしたよって・・」