デデ・コルクット伝承より

「ドゥバ・コジャ家の猛きドゥムルルの話」

(訳)関 章江


我がハーンよ!さてオウズ族にドゥバ・コジャ家の猛きドゥムルルと呼ばれた一人の男がいた。ある枯れ川に橋を架けた。渡る者から33アクチャを奪い、渡らないと殴って40アクチャを取った。

これはどうしたことか。自分よりおかしい自分より強い男が( )自分と言ってこんなことをしたのだ。私の男らしさ、若者らしさ、勇敢さはローマやシリアまで達し名声を集めた。

さて、ある日、橋の向かいにある一群の宿営が滞在していた。その宿営で、あるすばらしい勇者が病にかかった。アッラーの命令でもって、その勇者は死んだ。ある者は息子よ!と言い、ある者は兄弟よ!と言い泣いた。その勇者のために大規模に喪に服した。

ほどなくして猛きドゥムルルがやって来て、

 ―やあ、皆,何に泣いているのですか。私の橋の近くでこの騒ぎはなんですか。誰の喪に服しているのですか。 

と、言った。

 ―ハーンよ、あるすばらしい勇者が死んでしまった。そのために泣いているのです。

と、彼らは言った。

猛きドゥムルルは、

 ―ああ、勇敢な誰が死んだのですか。

と、言った。

―本当の勇者です。神の命です。朱色の翼のアズライルが、あの勇者の魂を奪ったのです。

と、彼らは言った。

猛きドゥムルルは、

―やあ、アズライルとあなた方が言ったどの者が、人間の魂を奪うのか。よし、唯一の存在の正義のために、アズライルを私の目の前に見せろ!戦おう!もう一度すばらしい勇者の魂を奪わないように。

と、言った。そのまま帰った猛きドゥムルルは、家に着いた。

偉大な神は、猛きドゥムルルのことばが気に入らなかった。

―見よ、気違い野郎は、私が唯一なることを知らない、唯一なることに感謝を捧げもしない。私の高貴な門をぶらつき、自惚れている。

と、言った。アズライルに命令なさった。

―さあ、アズライル、あの気違い野郎の所に行き、お前の姿を見せて、やつの顔色を青くしてやれ、(と、言い)あの魂をうなって奪え、と、言った。

猛きドゥムルルが、40人の勇者たちと食事をし(酒を)飲みながら腰掛けていると、突然アズライルが現れた。アズライルは伝令も門番もしていた。

猛きドゥムルルの、見える目を見えなくし、握れる手を握れなくした。世界は気違いドゥムルルには暗闇となった。

叫びながら言った。我がハーンよ、なんと言ったか見てみよう。

      まあ、なんてことでしょう、偉い方か!

      門番たちは貴方を見なかった

      伝令たちは聞かなかった

      私を見る両目は、見えなくなってしまった

      私をつかむ手は、つかめなくなってしまった

      震える足は私の手から落ちてしまった

      私の口の中は氷のようになってしまった

      私の骨は粉々になってしまった

      ああ、ひげの白いお方!

      眼が濁ってしまったお方!

      ああ、なんて立派なお方、私に言ってください!

と、言った。

このように言ったので、アズライルの怒りは押さえられなくなった。

      やあ、気違い野郎

      眼が濁ったことが、どうして気に入らないのか

      私は、目の美しい娘たちの、花嫁たちの

      多くの魂を奪った

      ひげが白くなったことがどうして気に入らないのか

      白いひげの勇者も、黒いひげの勇者も

      私が魂を奪った

      お前のひげが白くなった理由は、これだ

.言った。ああ、気違い野郎、お前は自惚れていた。こう言ったのだ、朱色の翼のアズライルが、私の手のうちに入れば殺せるし、すばらしい勇者の魂を救えるのに、と。この気違いめ、死が来たのは、お前の魂を奪ってやるためだ、よこしてくれるか。それとも私と戦うか、と、言った。

猛きドゥムルルは、

 ―おい、朱色の翼のアズライル、お前か。

 ―そう、私だ。 と、言った。

 ―このすばらしい勇者たちの魂を、お前が奪ったのか。と、言った。

 ―そうだ、私が奪った。 と,言った。

猛きドゥムルルは、

―おい、門番よ,門を閉めろ。 と,言った。 おい、アズライル私はお前を広いところで探していた。だがお前は、狭い所で私のすばらしい手の内に落ちてしまった、そうだろう。 と、言った。 私はお前を殺して、すばらしい勇者の魂を救うのだ。 と、言った。 黒い刀を抜いて手に取った。アズライルを襲うため突進した。

アズライルは鳩になって窓から飛んでいった。竜のような人、気違いドゥムルルは、手を打ってクスクス笑った。

―勇者たちよ、アズライルを私があのように恐れさせたので、やつは大きな扉を開け放し、狭い窓から逃げた。まるで鳩のように、私の手から飛んでいった。私はやつを恐れないぞ、鷹に取らせないうちには。

立ち上がり、馬に乗り、鷹を手にとって、向こうに出た。一羽二羽の鳩を殺した。戻って家に行くと、アズライルは馬の目を見た。馬は驚いて跳びあがり、猛きドゥムルルを振り払って、地面に叩きつけた。黒い頭は痛み、(彼は)危機に陥った。白っぽい胸の上を踏みつけて、アズライルが舞い降りた。ほんの少しの間うめき、今では叫び始めた。

      ああ,アズライル、頼むよ!

      神の唯一なることに疑いはない

      私はお前を、このように知らなかった

      密かに魂を奪うことを知らなかった

      天幕は我々の大切な山々だ

      その山々に我らのぶどう園がある

      そのぶどう園には、黒い房のぶどうがある

      そのぶどうは濃く、朱色のぶどう酒になる

      そのぶどう酒をのんで酔っ払いになる

      私は酔っ払っていて、分別がなかった

      何を言ったか、分からなかった

      ベイの位にうんざりしていない

      私の魂を取らないでくれアズライル、助けてくれ!

と、言った。

  アズライルは、

 ―やあ、気違い野郎、私に何を頼むのか。偉大な神に頼め。私の手に何があるのだ。私は命令に従うものだ。 と、言った。

猛きドゥムルルは、

 ―ああ、では魂を与え,魂を奪うのは、偉大な神なのか。 と、言った。アズライルは、

 ―そうだ、その通りだ。 と、言った。アズライルの方に向くと、

 ―やあ、そうであるなら、お前はなんの役に立つのだ、災いめ!お前は間から消えろ、私が偉大な神と話をする。 と、言った。

猛きドゥムルルはここで次のように言ったそうだ。我がハーンよ、なんと言ったか見てみよう。

      何よりも偉大な偉大さを

      誰が知らないだろうか。

      麗しき神よ!

      知らない者たちは、貴方を天で探し、地で探す 

      貴方といえば、信じる者たちの心の中にいる

      常にいる力ある神よ!

      永遠に残る恵み深神よ!

      私の魂を奪うというのなら、貴方が奪え

      アズライルが奪うのを放っておくな

と、言った。

偉大な神は、猛きドゥムルルのここでのことばに満足した。アズライルに言った。

―見ると気違い野郎は、私が唯一なることを知った。唯一性に感謝した。さあ,アズライル猛きドゥムルルの魂の代わりに魂を見つけて、やつの魂を解放しなさい。 と、言った。

アズライルは、

 ―やあ,猛きドゥムルルよ、偉大な神の命令はこのようであった。猛きドゥムルルの魂の代わりに魂を見つけて、やつの魂を解放しなさい、とおっしゃった。 と、言った。

猛きドゥムルルは、

 ―私はいくつの魂を見つけよう。そうだ、年取った父に、その妻の母がいる。来い、行こう。二人のうち一人がすぐに魂をくれたら、それを奪え、私の魂を解放しろ。 と、言った。

猛きドゥムルルは進んだ。父のそばにやって来た。父の手にくちづけしてから言った。我がハーンよ、なんと言ったか見てみよう。

      長老で、尊敬する偉大なお父さん

      何が起こったか知っていますか

      私は罵りのことばを吐いたのです

      偉大な神は、満足しなかった

      天の上から朱色の翼のアズライルが、命令を受け

      飛んで来たのです

      白っぽい私の胸を踏んで、舞い降りて

      怒りながら文句を言い、大事な私の魂を奪ったのです

      お父さん、お願いします、貴方から魂を頂けませんか

      それとも、息子の猛きドゥムルルと言って、お泣きになりますか

と、言った。

父親は、

 息子よ、ああ息子よ、息子!

      私の魂の一部である息子よ!

      生まれたときに、私が九頭のラクダを殺した、ライオンのような息子よ!

      昨日までは黄金の私の家の舵取りだった,息子よ!

      雪のような花嫁の花のような息子よ!

      向かいの黒い山が必要ならば

      言え、来させよ、アズライルの夏営地にするがよい

      冷たい私の泉が必要ならば

      飲みなさい

      肉付きがよく、敏捷な私の馬が必要ならば

      乗りなさい

      群れをなしている私の羊が必要ならば

      飼いなさい

      囲いのなかの白い羊が必要ならば

      黒い台所の裏で、それで宴会をしなさい

      金や銀や金貨が必要ならば

      小遣いにしなさい

      世界はすばらしく、わが身はかわいい

      私の魂を犠牲にはできない、明らかに

      私よりお前が尊敬する、私よりお前が愛する母がいる

      息子よ、母の所へ行け!

と、言った。

猛きドゥムルルは父親に甘えることができずに進み、母親の所に来た。

      お母さん、何が起こったか知っていますか

      大空から朱色の翼のアズライルが飛んで来て 

      白っぽい私の胸を踏んで、舞い降りて

      怒りながら私の魂を奪ったのです

      お父さんにお願いしましたが、お母さん、くれませんでした

      貴女にお願いします、お母さん!

      貴女の魂を私に下さい!

      それとも、息子の猛きドゥムルルと言って、お泣きになります

      鋭いつめを白い貴女の顔にあてるのですか

      葦のように黒い髪を引き千切るのですか

と、言った。

母親は、ここで言ったそうだ。我がハーンよ、何を言ったか見てみよう。

      息子よ、ああ息子よ、息子!

      九ヶ月やっとのことで私のお腹に携えた、息子よ!

      十ヶ月目に私がこの世にもたらした、息子よ!

      上着を揺りかごで着せた、息子よ!

      満ち満ちた白い乳を飲ませた、息子よ!

      白い塔のある砦で捕まったのなら、息子よ!

      腐った異教徒の手で捕虜になったになら、息子よ!

      金とアクチャの力でもって、私が助け出したのに、息子よ!

      お前は恐るべきところに達してしまった、私は行けない

      世界はすばらしく、わが身はかわいい

      私の魂を犠牲にすることはできない、明らかに

と、言った。母親も魂をくれなかった。このように言うと、アズライルが来た、猛きドゥムルルの魂を奪いに。

猛きドゥムルルは、

ああ、アズライル、助けて!

神の唯一性に疑いはない

と、言った。アズライルは、

 ―おい、気違い野郎、さらに何を願うのか。白いひげの父親のところに行ったが、魂はくれなかった。白い巻き毛の母親のところに行ったが、魂はくれなかった。他に誰か魂をくれる人がいるのか。

と、言った。

猛きドゥムルルは、

 ―思い焦がれる人がいる、会いに行こう、と、言った。

アズライルは、

 ―やあ、気違いめ、思い焦がれる人とは誰か、と、言った。

 ―正式に結婚した妻がいる。彼女から生まれた二人の息子がいる、(預け物がある)彼女に頼もう。それから私の魂を奪え、と、言った。  

進んで、妻のそばに来た。

      何が起こったか知っているか               

      大空から朱色の翼のアズライルが飛んで来て

      白っぽい私の胸に舞い降りて

      大切な私の魂を奪った

      父がくれると私は言ったが、魂はくれなかった

      母のところに行ったが、魂はくれなかった

      世界はすばらしく、わが身はかわいいと彼らは言った

      そこで

      高い高い私の黒い山々を

      お前は牧草地としなさい!

      肉付きのよい敏捷な私の馬たちに

      乗りなさい!

      この昨日までの私の黄金の家を

      守りなさい!

      整然としたラクダたちに

      荷物を積みなさい!

      囲いの中の白い羊で

      宴会をしなさい!

      誰かを気に入ったのなら

      誰かを好いたなら

      お前はそいつのところに行け!

      二人の息子は孤児にするな!

と、言った。

婦人はここで言ったそうだ。我がハーンよ、何と言ったか見てみよう。

      何を言っているのですか

      目を開けて、見つめていた

      心を捧げるほど、愛していた

      強い若者よ、王のような若者よ

      向かいに横たわる黒い山々を

      貴方の後に私はどうすればいいのです

      私の牧草地にするなら、私の墓にしなさい!

      冷たい貴方の水を

      私が飲み物にするならば、私を殺しなさい!

      金やアクチャを私が使うならば

      私の死体を包む布にしなさい!

      肉付きのよい敏捷な馬たちに

      私が乗るならば、私の棺にしなさい!

      貴方のほかにある勇者を

      私が好きになって、一緒に寝たならば

      まだらの蛇になって、私を噛みなさい!              

      貴方のあの不実な母親と父親は      

一つの魂に何があって、貴方のために犠牲にできないのでしょうか

上天の証言者になりなさい!天の第八階層の証言者になりなさい!

大地の証言者になりなさい!天の証言者になりなさい!

私の魂を、貴方の魂の犠牲にしなさい!

と、言って、承諾した。

ズライルは夫人の魂を奪いに来た。

竜のような人は伴侶の魂を犠牲にできなかった。偉大な神に、ここでお願いした。我がハーンよ何と頼んだのか見てみましょう。

      何よりも偉大な偉大さを

      誰が知らないだろうか

      麗しき神よ!

      知らないもの者たちは、貴方を天で探し、地で探す

      貴方といえば、信じる者たちの心の中にいる

      常にいる力ある神よ!

      永遠に残る恵み深き神よ!

      高貴なる道によって

      救貧所を作ろう、貴方のために!

      飢えた人を見たなら、腹いっぱいにしてやろう、貴方のために!

      裸の人を見たなら、着るものをそろえよう、貴方のために!

      奪うなら、私たち二人の魂を一緒に奪え

      解放するなら、私たち二人の魂を一緒に解放しろ

      恵みの大きな偉大な神よ!

と、言った。

偉大な神は猛きドゥムルルのことばに満足した。アズライルに命令した。猛きドゥムルルの父親と母親の魂を奪え、あの二人の夫婦には、140年の命を私が与えた、と、言った。

アズライルは父と母の魂を奪った。猛きドゥムルルは、さらに140年を伴侶と共に生きた。

デデ・コルクットが来た。詩を作り,唄をうたった、この話は猛きドゥムルルの話である。私の後のすばらしい詩人は歌いなさい。額に開かれた気前の良い聖者たちに聞かせなさい、と、言った。  

幸運を差し上げましょう、ハーン。土地にある黒い山々を壊してはいけない!暗くなったら、太い木を切ってはいけない!血のように流れる美しい水を、枯らしてはいけない!偉大な神が貴方に卑怯さを必要としていないように!白い額を(床につけて)五つのことばの祈りを行った。受け入れられますように!集められますように、貴方の罪を!その名の美しいムハンマドに許しを乞いますように!