アパートを借りる? 寮に住む?

 1ヶ月程度の短期留学では、どこで暮らすかはたいした問題ではありませんが、1年以上の長期にわたる留学生活では、住環境を考える必要が出てくるでしょう。ここでは、テヘランでの家探しについてお話します。

 まず、留学先に寮を紹介してもらうか、それとも自分でアパートを借りるか、選択肢は大きく二つに分かれます。

寮生活:楽しく過ごしたいのなら何も持たずに

 寮生活は、基本的に相部屋です。テヘラン大学やロガットナーメに留学した場合は、このケースにあたります。アミールアーバードにある寮の敷地内には、沢山の建物がありますが、留学生はひとまとめにされ、イラン人学生と相部屋になることはありません。一部屋で、2から4人で暮らすことになりますから、友人を作りやすいこと、四六時中ペルシア語で会話するため上達しやすいことがメリットに挙げられます。

 反面、多くの人が出入りしている関係で、セキュリティが低く、常に盗難に気をつける必要が出てきます。パスポート・現金は常に携行しなければなりません。(ただ、そうすると日本人は金があると見られていますから、外を出歩くときのリスクを考慮する必要がでてきます。)寮では、信じられないことが起きることもあるそうで、帰ってきたら冷蔵庫が消えていたなどという笑えない話も過去にはあるようです。当然、ノートパソコンなどは一番のターゲットになります。

 寮生活の一番のポイントは、持ち歩くのが面倒な品物や盗まれる危険のあるものはもって行かないことでしょう。現金も少なめにし、余剰分は信頼できる人物に預ける、もしくは、ドルに戻す必要がないなら素直に銀行に預ける方が良いでしょう。日本語を入力できるノートパソコンがないのはつらいかもしれませんが、寮にも一応共同で使えるパソコンはあります。またテヘラン大学ならば、図書館に小額で利用できるインターネットサービスがあります。

 結論的に、そこにいる人と同じ水準で暮らすのが一番安全です。持ち物や現金を盗難され嫌な気分になるくらいなら、盗まれるようなものは何も持って行かないのが賢明です。日本の生活と比べれば不自由かもしれませんが、寮は結構楽しいものです。(これ以上ないくらい安い寮食のメニューには、泣きたくなる日もあるかもしれませんが、友人とともに悪態をつきながら食べるのも良いでしょう。)他の国の人と知り合いになれますし、見聞を広げるにはもってこいの場所です。

アパートを借りる:友人と楽しく暮らすのも良いが一人の時間も持ちたい

 四六時中友人と顔をつき合わせているのも、時には負担になります。また共同生活ですから、寮には色々面倒なこともあるのも確かです。これは誰でも感じることで、安価なアパートを探して一人暮らししてみるのも選択肢の一つです。テヘランでアパートを借りる時の注意点は何でしょう?これについて若干説明しておきます。

「大家さん」=「Sahebkhane」?

 日本語には「大家さん」という表現があります。この言葉には、住人の面倒を見るという「温かみ」がこめられています。では、Sahebkhaneはどうでしょう?黒柳恒男辞書をみると「家主」という表現が充てられています。そうです。この言葉に「大家さん」などという暖かいニュアンスなど存在しないのです。ネイティブの方が側にいれば、確認してみるのも良いでしょう。Sahebkhaneは、契約の相手。とてもドライな言葉なのです。というわけでアパート探しで、一番問題になるのは、契約解除のときです。イラン人ですから普段はとても親切でやさしく、これ以上良い人はいないと思える家主も、金銭問題になれば人が変わるかもしれません。なにしろ、イランは日本以上に契約社会なのですから。

三種類の支払い形態

 イランでは、日本のように家賃をただひたすら支払う形式、保証金を積んで家賃を低く抑える形式、保証金を多量に支払い家賃をまったく支払わない形式が存在します。保証金は、ペルシア語ではRahnと呼ばれています。(「敷金」もしくは「抵当」と言っても良いかもしれませんが、ここでは「保証金」としておきます。)どの形式で契約を結ぶかについては、家主側が指定してきますので、物件ごとに契約形態が決まっていると考えればよいでしょう。では三種のメリットとデメリットについてお話します。

家賃をひたすら支払う:出るときがとても気楽

 イラン人の間ではあまり使われない形式かもしれませんが、この契約の最大のメリットは、後腐れがないということです。反面、支払った金が戻ってくることはありませんから、他の形式に比べると損した気分になるかもしれません。外国人を相手にしている家主が好んで取る契約形態です。なぜ外国人相手かと言えば、家主側から見れば「ちゃんと家賃を支払ってくれるだろう」、「時期が来れば確実に出て行ってくれるだろう」という見込み(すなわち家主にとってリスクが少ない)が取れるからです。

保証金を積んで家賃を抑える:最も一般的な選択

 この形式がイランでは最も一般的な契約でしょう。この契約が広く普及しているのは、訳があります。まず、借りる側にとっては、家賃を低く抑えることができることです。また貸す側にとっても、保証金があることで、万一借主の支払能力に問題が生じたときでも契約解除時に損をせずに済みます。ただしこの場合、保証金の額はどんなに少なく見積もっても50万円は見ておく必要があります。
 しかし、なぜ保証金を積めば家賃が安くなるのでしょう?それは、家主がその保証金を銀行等で運用し、その運用益で元を取ることができるからです。イランの銀行の利率は、日本のそれとは比較にならない高率で年率12、13%は当たり前、場合によっては20%を超えるものもあります。こうした状況があるからこそ、この形式が成り立っているのです。しかし、この方法にも穴があります。それは家主が運用に失敗したときです。当然といえば当然ですが、こんな高率な利率でリスクのない商品はありません。運用益を獲得できなかった家主が、もし資本の余裕を失えば、借りる側に返したくても返せない場合も出てきます。(そこまでの状況に陥るのは稀でしょうが。)
 もちろん、そうでなくても契約解除は「文書」(2部作成の上、両者著名が原則。なお口頭では効力を発揮しません。)で、きちんと3ヶ月前に家主に通告しておくのが、トラブルを避ける第一歩となります。また、契約の形態にもよりますが、契約解除時に一か月分の家賃をクリーンアップ代として要求されるかもしれません。これは、イランの不動産賃借の慣習のようですから、要求された場合は素直に支払うのが賢明です。
 保証金の返還については、この文書を渡した時から、しつこい位に家主と交渉しておくのが賢明です。でないと、帰国する日になっても返金の目処が立たないなどというひどい状態になりかねません。家主側は「まだ早い」とか「大丈夫」とか言ってくるかもしれませんが、そうしたときこそ、「お互いのトラブルを避けたい」ことを強調し、返還の日取りを文書で確認するようにすべきです。

高額の保証金を積んで家賃を支払わない:実はリスクが多い

 この形式を取るには、まず100から150万円以上の現金が必要になります。リスクは、2つ。時間をかけてでも返金交渉をきちんと行い、全額変換してもらう必要があること。返金時には、現地通貨のリアルで返ってくるので、万一リアル相場がドルに対し大幅下落している場合、大幅な損益を被る可能性があること。
 貸す側の立場になって考えればすぐわかることですが、100万円の資金を運用して失敗した時、それを穴埋めできる能力がなければ自分が破綻してしまいます。家主側はこのリスクを常に負っていますから、自己資金に不安がある際はこの形式を取れません。すなわち、この形式を取るからには、家主にそれなりの資金的余裕があり、商品である物件もそれなりの広さと施設を備えたものであることを意味します。
 ここまで説明すればお分かりになるかと思いますが、安物物件にこの契約方法はあまり使われません。(ないこともないですが。)おそらく一人で住むには広すぎる、50人位のパーティーでも開けるような物件が対象なのです。また、家具付きの物件が多いので、用意するのは枕と布団くらいとすぐに生活を始めることができます。反面、借りたあなたは、家主と運命共同体ですから、家主が運用に失敗して破綻したりしないよう、祈り続けるほかありません。借りるときは、家主の人間性を見極める必要があります。
 個人の好みと資金力の問題ですから、快適に暮らしたいのであればこの方法も選択肢の一つですが、留学で家を借りるために、これほどの現金を用意しなければならないというのは、筆者の個人的見解ではどうかと思います。また多額の現金が行き来するのですから、問われるのは、借りる人間の交渉能力と言語能力です。この方面に自信がない場合は、避けたほうが無難でしょう。なお、前節でも説明したとおり、「文書」でのやり取りを忘れずに行ってください。

アパートを借りたら:光熱費等の問題

 まず、水道ですが、テヘランの場合、建物に一つのメーターが付いているだけです。したがって、水道代は建物の居住者全員で頭割りです。世帯の構成人数で頭割りされることもあります。
 ガスは、ボンベ式の場合もありますが、各々の部屋にメーターが割り振られている場合が多いので、それぞれ自己負担します。ただし、ボイラー用のメーターは一つしかありませんから、こちらは居住者全員の頭割りです。
 電気もガスと同様、個人のものと共用分のそれぞれを支払う必要があります。
 電話は、当然ですが世帯ごとに支払います。市内通話は安価ですが、国際電話はやはりそれなりの金額になります。最近では、インターネット電話が普及してきたので、これを利用したほうがはるかに安く済ますことができます。
 なお、契約解除時には、見込み額でこれらの代金を家主に支払う必要がありますから、金額策定のため支払い明細はきちんと保管しておくべきです。

以上
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