(2)日常生活
○寮生活
私が生活した寮「サラーマト」は文学部の校舎から徒歩5分、近所には日用品のお店がたくさんあり、治安も良いところでした。基本は一部屋8人ですが、留学生の部屋は、私のほかに中国人、タジキスタン人、イラン人の4人部屋。部屋にはバス・トイレ・キッチンが完備され、一人の時間がないこと以外は特に不便なことはありませんでした。
食事は夕食のみ、予約した場合もらえます。平日17時ごろになると大きな鍋が玄関にやってきて、そこへお皿や鍋をもった人達が並び食事が配られていました。朝食には、毎月300円ほどで卵やジャム、チーズ、牛乳などの食品が配られる制度もありました。
門限は10時で、それを過ぎて帰ると門番のおじさんにひどくしかられます。夜の過ごし方は、昼寝の後、お洒落をして夕方18時ごろから門限ぎりぎりまで出かける、という人もいれば、友達と話をしたり、寮の庭を散歩したり、体育館で運動したり、礼拝所でテレビを見たり、自習室で勉強したり、と様々でした。私もクラスメートによく部屋に誘ってもらいました。一晩に2部屋ほど訪れて、お茶を飲みながら話をしたり、勉強を教えてもらったりした後、自習室で勉強するのが普段の生活でした。友達の部屋に行くと、大抵他の部屋の子がいて、次はその子の部屋へ遊びに行って…と友達がどんどん広がるのが寮生活の何よりの魅力でした。そうして出会った子に習字を習ったり、家に遊びに行ったりすることで自分の体験も豊かになりました。特に親しくなったアフガニスタン人の友達とは、お互いの部屋を行き来して、朝は近くの公園まで一緒にウォーキングをしたりしていました。
夜は、バドミントンのクラブやドイツ語講座など部活動に似たものも行われていて、私は友達に誘われた太極拳のクラブに入り、週2時間練習に参加していました。先生が外部から指導に来ていて、日本で続けていた少林寺拳法を思い出して懐かしくなりました。クラブではさらに多くの人と話す機会が増え、一緒に活動するのがとても楽しかったです。イラン人は意外にも体が固い人が多くいました。
○ 買い物
寮や大学の周りには八百屋やバッカーリーと呼ばれる食品や日用品を売っているお店がたくさんあります。しかしイラン人にしてみると微妙な違いがあるようで、一緒に買い物に行くとあっちの店よりこっちが安い、といろいろな情報を教えてくれました。服を買うならここ、本を買うならここと、イランはだいたい決まっていて、マーントー(からだの線が隠れる膝丈のコート)やルーサリー(頭に被るスカーフ)のバーゲンへもクラスメートやルームメイトとよく出かけました。イラン人と買い物をすると「値切り」のよい勉強になります。ある友達はジーンズ一着に30分以上交渉を続け、見事半額以下で購入。定価で買うのが恐ろしくなりました。
○ 週末の過ごし方
イランでは木曜日、金曜日が休みです。木曜の午前中は「カーヌーン」と呼ばれるクラブに参加していました。テヘランでペルシア文学を勉強している留学生が集まって、ある作家の方を講師に現代文学の講習会を開いていました。大学では現代文学の講義がないため、現代文学に触れ合え、さらに各国の留学生と情報交換ができる貴重な機会でした。理解の乏しい私にベトナム人の女の子がよく世話を焼いてくれ、よい本を紹介してくれたり、寮に招待しては食事をご馳走してくれたりしました。
金曜日は、クラスメートが家に招待してくれたり、友達と映画や大きな公園へ出かけたりして過ごしました。イラン人は休日公園でピクニックをするのが好きなようで、休日の公園はたくさんの家族連れで賑わっていました。
また授業が一緒だったイエメン出身の留学生にアラビア語を習ったり、寮の友達に紹介してもらった文化教室でダフ(大きなタンバリンのような形の伝統楽器)を習ったりしました。アラビア語は週に一度、チャイハネでお茶を飲みながら教えてもらいました。言語のほかにもイエメンの風習やアラブ人の価値観、イラン人観が聞け、興味深かったです。ダフは週に2度通っていました。練習は寮の体育館などでしました。外国人の私がダフの丸いバッグを持ってバスやサヴァーリー(乗り合いタクシー)に乗っているとイラン人が不審な目を向けてきておかしかったです。