2.留学生活

(1)授業と学生生活

○事務手続き
全ての手続きを終え、寮に入り授業に参加するまで2週間ほどかかりました。イランでは各事務所の連携があまりなく、自分でそれぞれの事務所に書類を持参し、サインをもらい、次の事務所へ、と動かなければなりません。大学本部で文学部、寮の事務所などそれぞれの本部が遠かったので時間もかかりました。

大学本部で寮、文学部への紹介状をもらい、指定された場所にそれぞれ向かいます。事務所間でうまく連絡が行き届いておらず、行った先で「この子をどうすればいいの!?」と言われることも度々で、そのたびに自分は誰で何のためにここに来たかを熱心に訴えました。クラスメートができると学食や図書館のカードの手続きを手伝ってくれました。

役所関係の手続きも、まず大学側からたくさんの書類が必要です。ビザの切り替えや出国ビザで失敗した私は、「イランの交渉」にはとても鍛えられたと思います。

○ 授業
授業は思った以上にハードでした。英語圏で体験したような語学留学とは違い、あくまでも私は1人の「大学生」でした。また知識や言語の面でハンディがある分、他の人以上の努力が求められました。

前期は文法1、詩、作文、古典、修辞法を学び、後期は文法2、詩、作文、表現、英語、体育、パフラヴィー語の授業に参加しました。文法・表現・修辞法の授業では、より深いペルシア語の世界を知り、ペルシア語の新しい魅力と「ザバーネ・シーリーン(耳に心地よい言語)とイラン人が自負する理由がわかりました。作文では手紙の形式や書き方を学んだり、物語やあるテーマについての意見を書いて発表したりしました。体育は、普段チャードル姿のクラスメートがTシャツ姿で、活き活きとバドミントンをしている姿がとても印象的でした。詩の授業では、表現を説明するために先生が実物のりんごやオレンジ、花などを教室に持ち込んでいて、わかりやすく面白い授業でした。

特に詩の授業は難しく、授業の後に礼拝場や寮で友達に、先生が説明した内容をもう一度易しく説明してもらいました。表現や修辞法も1時間に進む範囲が広く理解するのが大変でしたが、授業中友達が「ここは重要だよ」と教えてくれたり、アンダーラインを引いてくれたりすることもありました。イランではチューターという制度はありませんが、このように誰かが助けてくれる、というこの国ではチューターという概念すら必要ないのかもしれません。彼らの助けがあるからこそ、なんとか授業についていき、単位をとろう!と頑張ることができました。

○ 試験
イランでは試験前に2週間のテスト休みがあり、その期間帰省する人や旅行に出る人もいます。大学の廊下に机がずらっと並べられると試験期間が始まります。点数は先生の研究室のドアや掲示板に貼り出され、学生の間では「ガブールショダム(合格した!)」「オフターダム(落ちた)」という会話で持ち切りです。20点満点中15点が合格。テスト初日から寮の自習室も昨日までの静けさがうそのように混み合いました。

イラン人と同じ問題は厳しいかもしれないと感じた私は、テスト前に何人かの先生に相談してみました。すると試験+口答試験など配慮をして頂きました。ある先生は私専用のテストを作ってくださいました。不合格になった場合も先生の研究室を訪れ「なんとしても合格したい」という意思を伝えると、すべての先生が追試や課題提出などの対策を採ってくださいました。

○先生方
特にお世話になった先生方を紹介します!

・イーザディー先生・・・文法1とパフラヴィー語を受講。今まで留学した東京外語の学生をよく覚えていて下さっていました。授業中、「これは日本ではどうなの?」とよく話をふってくれました。
・ マストアリー先生・・・表現とペルシア語2を受講。週に1回、質問の時間を作ってくださり、毎週研究室にお邪魔していました。たくさんの例を出して丁寧に解説してくれました。
・ ムーサーイー先生・・・詩と作文の授業の先生。初めて参加した授業の先生で、初めは厳しそうに見えましたが、一番親身になってご指導してくれた女性の先生でした。私に「友達にたくさん質問しなさい」と指導する一方で、クラスメートに勉強をみてやるように呼びかけたり、毎週研究室で作文の添削や文法の解説をしたりしてくださいました。 このように、自分から必死で教えを請えば、留学生であっても親身に指導してくださる先生方がたくさんいらっしゃいました。

○ 学食
学生生活で一番衝撃を受けたのが学食です。学食はカードで予め予約します。メニューは一日一食で「予約式給食」といったところです。食堂は地下にあり、中央をカーテンで区切ってあります。机を並べて勉強はしても、学食では男女別でした。メニューは定番のホレシュト(シチュー)に、キャバーブ(肉の串焼き)、ポロウ(ピラフ)など豊富で、学食へ行けば定番のイラン料理はほぼ制覇できます。人気のメニュー第一位は鶏肉のキャバーブ、最下位は焼き魚と香草のピラフでした。

この他に「ブーフェ」と呼ばれるビュッフェがあり、サンドイッチなどの軽食やスナック菓子、お茶などが常時買えました。ここも男女別で、お昼時はとても混みます。「列に並ぶ」ことがないので、お昼にここへ来るといつも必死でした。

○ 礼拝所
大学にはナマーズ・フーネと呼ばれる礼拝所があります。昼食の後は友達の礼拝に付き合ってそこへ行き、お昼の集団礼拝を見ていました。礼拝の時間以外は学生の休憩所となっていました。男女で区切られているため、安心してチャードルやスカーフをとれます。昼寝をしている学生やお菓子を食べながら友達とおしゃべりをする学生もいて、私も友達に勉強を教えてもらうときは礼拝所を使いました。

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