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高橋友佳理さん(2005年卒業)



                                    


*2005年朝日新聞社入社。現在奈良総局員。




 アラビア語科に入学したこと、それは私にとって新しい世界の始まりだったと思っている。考古学が好きで、中でも特に古代エジプト文明にひかれていた私は、ただ「なんとなく」、当時話題になることの少なかったアラブ世界の門戸をたたいた。そして学んでみて、「世界で最も難しい言語の一つ」と聞いていた言語の難しさ、美しさ、そしてその深い精神世界に目を見張った。

 アラビア語の勉強に四苦八苦していた大学2年のとき、2001年の9月11日がきた。世の中が見てこなかった世界にスポットが当たり始めたのを感じる。02年夏からは1年間、カイロ大に留学。学生のデモで街中が騒然となる中、米国によるイラク攻撃が始まる。人々の怒りを、肌で感じた。

 新聞社に入社してからは3年間、青森に赴任し、この4月から奈良で働いている。入社してからは残念なことに、アラブ、アラビア語にかかわる仕事は全くできていない。青森では他の多くの記者がそうであるように、警察担当から始まり、青森市政、選挙、教育などさまざまな取材をした。大雪の中、帰宅する警察官を何時間も家の前で待って凍えそうになったり、他社との競争のなか、「特ダネ」がとれずに苦しい日々を送ったり。

 だが苦しいときにいつも思い出すのは、アラビア語の勉強で苦しんだことだ。「あの勉強に耐えたんだからこれしきのこと……」と何度雪の中で歯を食いしばったことか。そしていつかアラブの報道に携わりたいという夢が、私をこの仕事にとどまらせている。

 最後に。大切にして欲しいのが、この語科で出会った友人たちだ。社会に出れば、特定の職業を除いてアラブの話題で盛り上がることは少ないだろう。孤独を感じることもたびたびだ。そんなとき、たまに会った友人の「アラブトーク」に、涙が出そうになるほど懐かしさを覚えるのは私だけではないのではないか。日々の仕事に追われて、恥ずかしながらアラビア語の勉強はできていないが、そんなとき、「もう一度学び直したい」と真剣に思うのだ。


(2008年8月記)