研究の学術的背景

言語教育に応用可能な「自然会話リソースバンクの構築」と
その研究に関する学術的背景

従来の国内外の自然会話研究の多くは、少量のデータを扱う定性的なアプローチに留まっており、会話参加者間の社会的関係、既知度、会話の場面性などの社会的要因を考慮して収集した大規模な談話データに基づく「定量的分析」はほとんど行われていない。

また、昨今盛んに構築される「言語コーパス」の大半は、語数や品詞、形態素の数を算出したり、言語形式の共起関係を抽出するなど、文法理論や自動翻訳機制作に貢献しようとする言語学的、工学的目的に即したものである。その結果、会話における微妙な「間」が、対人コミュニケーション上どのような機能を持つかといったような「人間の相互作用研究」に適し、且つ、定量的分析・定性的分析の双方が可能な「自然会話コーパス」はほとんどない。しかし、日本語教育をはじめとする言語教育には、このようなコーパスこそが切望されている。

本研究代表者らは、平成7-8年度、13-14年度、及び、平成15-18年度、平成20-22年度の4回、計11年間に渡って科研費補助金を得て、定性的・定量的双方の分析に適した会話データの文字化と解析のシステムである「基本的な文字化の原則(BTSJ: Basic Transcription System for Japanese)」を開発し、データベース化を行い、タグ付けした自然会話コーパスを構築し、その公開と無料配布を行ってきた。

(http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/danwaindex.htm)

自然会話リソースバンクの構築による
世界的教材共有ネットワーク実現に関する学術的背景

昨今の談話行動の語用論的研究や、自然会話と創作会話の比較研究等から、創作された会話教材の不自然さが指摘され、自然会話を素材とする教材へのニーズが、特に、普段自然なコミュニケーション場面に触れる機会が少ない海外の日本語教育現場において高まっている。

しかし、場面や状況が無限にあると自然会話を、どのような観点から教材化するかといった問題や、自然会話の録画や文字起こし、及び、その教材化には、膨大な時間と労力がかかることがネックになっており、未だ、体系化された「自然会話教材」は、英語など他の言語の教材も含めて、ほとんどない。本研究が企図するネットワークを介して、オンライン上で世界中で共有できる「ユビキタス型自然会話教材」は、管見の限り、世界的に例がない。

ただ、研究分担者の鎌田修が代表の平成12~15年度の基盤(A)「多元性のある日本語教育教材の研究及び作成―欧州広領域での使用を目指して―」と題した研究の中で、特に「接触場面」に焦点を当てた教材化に関する研究が行われていた。

上記のような研究動向を踏まえ、本研究代表者らは、平成20-22年度に、「挑戦的萌芽研究」(http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/kenkyukatudo.htm)において、作成に膨大な時間と労力がかかるという問題を解決するために、試作された自然会話教材をリソースとしてプールし、世界中で共有して、随時、現地の事情やニーズに応じて加工したり、教授項目を追加しながら、Web上で活用していくことができる「自然会話教材作成支援システム」の機能を持つ「自然会話教材リソースバンク」の考案を行った。そして、それを地球レベルで共有するための体系的なシステムを構築するための探索的研究を行い、試作版を作成した。

当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

  1. 既存の「基本的な文字化の原則(BTS)」を「文字化入力支援と自動集計機能」を備えたシステム・ソフトとして精緻化する点(試作済み。管見の限り、世界的に例がない。)
  2. 本研究で構築する「自然会話コーパス」が、言語学的・言語工学的研究だけではなく、「人間の相互作用の研究」、「語用論的研究」に適したコーパスである点。(日本語教育への応用性が極めて高い。)
  3. タグ付き「自然会話コーパス」を、「自然会話リソースバンク」として一元管理し、データ入力・保存を合理化し、会話の情報検索・抽出機能を持たせることによって、研究上のニーズに応えるのみならず、WEBを介して世界中で教材を蓄積、加工、共有していく「世界的教材共有ネットワークの構築」を目指すものであること。(管見の限り、世界的に例がない。)
  4. 「世界的教材共有ネットワークの構築」という発想は、「教材作成支援システム(一部自動化を含む)の構築」という新しい言語教育教材のあり方を提案、展開するものである点。
  5. 今後の地球レベルにおけるIT環境の発展を予想した長期的展望に基づいた研究である点。