オバマ大統領初来日とあって、今週はこの件に関連した仕事があるのを楽しみに過ごしてきました。
フォート・フッドでの銃乱射事件があったため、来日の予定が流動的になり、なかなかオバマ大統領来日関連の通訳の仕事が確定しなかったのですが、間際になって日米首脳会談共同記者会見をケーブルテレビで同時通訳する仕事がはいりました。
今週は不思議な一週間でした。市橋容疑者逮捕に関連して、イギリスにいる両親のインタビューや記者会見の同時通訳の仕事もはいったり、ただでさえ今週は通訳者の繁忙期にあたっているため、通訳者大忙しの週でした。
ニュース番組は普通は夜が多いので、会議通訳者と兼ねている人も夜放送通訳に出ようと思えば出られますが、翌日の資料を読む時間が必要であることを考えれば相当、負担があるのは確かです。
でもいつもそうですが、通訳者は好奇心が強い人が多くこういう大きな歴史上にも大事と思われる機会は、頑張って通訳をしたいと思うものです。私もその一人です。
オバマ大統領が14日土曜日にサントリーホールで演説をする、というのが分かったのが10日火曜日のこと。たまたま、会議通訳の仕事をしているとき、お昼休みになったところで携帯電話が鳴って思いがけず、招待いただけることになりました。12日にホテルオークラで指定された時間に招待券の受け渡しがあるというの
で、喜んで取りに出かけたところ、その受け渡しのための行き帰り途中でもちょっと面白いことがありました。
ホテルオークラに渋谷から往復するには、銀座線虎ノ門駅から行ったのですが虎ノ門駅のすぐそばに、播磨屋というおせんべいやさんの本店があります。今までも前を通るたびに「播磨屋カフェ」と書いてあって「ドリンク0円」「おせんべい0円」と看板がでていて、これはどういうところか、と思っていたのでした。
オークラから帰るときにちょうど朝10時になって、ここが開いたのです。「ものは試し」と入ってみると、本当にコーヒーや紅茶などの飲み物とおせんべいを無料で出しているカフェでした。近所の人たちはよく知っているのか、ひっきりなしに人が訪れていました。もっとも、思わず帰りがけにおせんべい3袋を買ったので、安くついたのかどうかは不明。
しかも、このあと行った仕事の帰りにまた例によってデパートのサロンによってお茶を飲むついでに、某婦人服メーカーの案内が来ていたのを思い出し、寄ったためにスーツや、ダウンコートなど、買う予定がなかったものを購入して戻りました。
と、日ごろの予定と違うことをすると思わぬ儲け物と言うか副産物もありますが、そういう気晴らしはさておき、同僚の尊敬する通訳者のコラムのタイトルにあるとおり「通訳は真剣勝負」。ブースのなかではいかにできる限りの力をふり絞れるか、に全てはかかっています。
力を出し切れるか。おまじないではないですが、昨日買い込んだものを早速着用し、いつもと気分をあらためて出かけた私だったのです。こういうつまらないようなことでも、一生懸命に力を入れられるかという気持ちになれればしめたもの。
今日のこの記者会見通訳のために、いつものように新聞やネットから資料を大量に出して、トピックの予想をし、備えました。このケーブルテレビ放送の場合、地上波で系列のテレビ局が直前にどうニュースを放送していたかがいちばん、参考になりました。
トピックは五つ。①日米同盟の再確認、②アフガニスタン支援、③気候変動・エネルギー対策、④核不拡散、⑤対アジア外交。ニュースで報道されている福井県小浜市の「オバマを勝手に応援する会」についての報道を面白く見ていました。
記者会見場からの中継に画面が切り替わるまでは、「腹が減っては戦が出来ぬ」のため、テレビ局のお弁当を食べながら、何が出るのかの予想を時間ぎりぎりまで行いました。分担としては鳩山総理の日本語部分の通訳の必要はないので、外国人記者からの質問部分を同僚が、オバマ大統領の発言部分を冒頭発言と答えをともに私が担当と決めていました。
8時を過ぎても全く始まる様子がないのです。どうも会談が長引いているらしい。
ようやく始まったのは8時30分をまわってました。まず司会者が登場して記者会見は同時通訳つきで行われること、冒頭発言が両首脳からあるあとに、司会者に指定された人は所属を明確にした上で質問をすること、日本の記者一人、アメリカの記者一人に質問は限られること、首脳が退場するまで着席したままでいることなどを述べていました。手元の時計でみていたところ、鳩山総理の発言が8時34分から42分くらいまで、かなり長かったため通訳の出番がないまま時間が過ぎるが、「バラク、ゆきお」とファーストネームベースで呼ぶ関係になったことが強調されることなど、発言内容は逐一メモをとりながら聞いておきました。
日米関係の良好さをアピールする内容であったことが印象に残りました。その後オバマ大統領の冒頭発言。大体予想したとおりの内容だったので、8時42分から49分まで、放送予定時間を過ぎていることだけを気にしつつ、同時通訳しました。
他にも中継を予定していた局は時間が大幅に遅れたので始まるまでどうやってスタジオで話をつなぐのだろうか、延びてしまったあとはどう時間延長をするのだろうか、など放送通訳に関係ない邪念がついついよぎります。日本人記者の質問は幹事局のフジテレビからの両首脳にあてた質問でしたが、はからずもオバマ大統領が「日本人記者もアメリカ人記者と同じ戦略をとるのだね」と指摘したように、一つの質問とは到底言えず質問がいくつも詰め込まれていました。
「広島・長崎への訪問予定」の問いにはすぐ予定してはいないが行きたいと明確に答えたものの、「広島・長崎に原爆を投下したことをアメリカは責任を感じているのか」という問いには、あえて答えなかったという印象でした。ナマで放送していると自覚しつつ、この質問はとても緊張感を持って通訳しました。
アメリカの記者はAPの女性記者。冒頭の質問が「(同時多発テロの首謀者の一人として)グアンタナモ基地で拘束されていたモハメド被告を、ニューヨークに移送して民事裁判にかけるが無罪になるようなことはないだろうか」との問いでしたが、同時多発テロの首謀者の一人と目されていたという情報を知らない人も多いだろう日本の視聴者にとっては、難しい質問だったと思います。
放送で記者会見がどう流れているのか、現場の様子がわかるような設計のところでの通訳で臨場感を持ちながら通訳をすることができました。
結局終わったのは9 時を10分ほどまわってましたが、臨場感、高揚感とともに業務終了。いつもそうですが、力が出し切れたと思えるときは、疲労を感じません。
結果は完璧にはほど遠いですが、力を出せたと思えるかどうか、これが肝心のところです。