シルバーウィークと言われた5連休の最終日、オバマ大統領の国連一般討論演説の仕事が入りました。夜9時に集合、本番は11時10分から。
パートナーと一緒にまずは待機。最初の5分は、日本時間10時からすでに入ってくる国連のパン・ギムン事務総長の演説からとったものを放送して、そのあと、オバマ大統領が国連演説に入り次第、ノーカットで放送するというものでした。
まず、事前に調べられることとして前日に気候変動について行ったスピーチを調べたり、パン・ギムン事務総長の前年の演説などをネットで調べておくことからスタート。出てくるであろう単語を書き出して、お守りのように単語リストをつくって握り締めているところは普段とおなじ。
ただ、今回は大きな不安要因が一つありました。大体、時間になってもピッタリにははじまりません。パン・ギムン事務総長の演説も予定を10分以上遅れてスタート。ちょっと面白かったのは、前日の気候変動の会合では英語で話していたというエジプト人議長が、今日は何の遠慮もなくアラビア語で話していたことです。
残念ながら、私たちの耳には英語への同時通訳回線は伝わってこないため、何を言っているのか、この部分は意味不明。
しかも、このあと驚くことがありました。パン・ギムン事務総長の演説の冒頭はなんと、、、
Mesdames, messieurs...
と、フランス語。しばらくフランス語の話が続いたところで今度は英語に。
と思って安心していたら、またそのあとスーダンやダルフールについて触れたあたりがフランス語になり、最後はまた英語になりました。
これはフランス語では(なんとなくは分かりますが)仕事になりませんから当然、英語部分の5分程度を、パートナーと二人で分けて用意にはいりました。
そこまではよかったのですが、事務総長のあとに演説をはじめたブラジルのルーラ大統領の話がなかなか、終わらない。しかも、オバマ大統領のほうは鳩山総理とウォルドーフ・アストリアホテルで日米首脳会談を日本時間10時から行っていて、早くても国連到着は11時10分前くらいだろうということ。演説の時間は20分程度ときいていたので、この予定どおりにいけば、オバマ国連演説を伝える特別番組が開始する11時10分までに、一回全体を聞くことができるのですが、どうなることやら。
淡い期待をよそに、すでにブースにはいってスタンバイをしていても、11時を過ぎてなお、終わる気配なし。ようやく11時5分をまわったところで、ルーラ大統領が終わりオバマ大統領が登場!しかし、すぐには話し始めない。順番が先発に決まっていたので、少しでも聴けたらいいのに、、、といらいらしながら待つ私。
しかたなく、最初の2分程度を聴いたところで、パンギムン事務総長の演説で用意してあったところに突入。ここからが大変でした。
オバマ演説、えんえんと終わるところを知らず。
5分交代でやっていて、20分という予定どおりであったら、2回ずつ交代すれば終わるはずが結局、番組の終了予定時間の12時近くになってようやく終わりました。
あと終わりまで10分足らずになったところで、ようやくホワイトハウスのサイトに原稿がアップされたので、ディレクターの方が届けてくださったのですが、練りに練ったスピーチの言葉、目で追うと返って情報が入ってきにくくなる感じもして、どうやってもうまくいかず。
悪戦苦闘の連続でした。あとで録音を聞くのが恐ろしい。
さらにこの特別番組では、最後の解説があと2分ではできないため、予定を5分延長して対応したのに、最後になってニューヨークとの衛星回線が一時中断したりして、臨場感たっぷりでした。
終わってからタクシーに乗るまでの間、パートナーとしみじみ、語り合いました。
最近のオバマ演説、ますます進化して言い回しが難しい。
例えば、とパートナーは前日の気候変動演説から次の箇所をあげました。
ちょっと検討してみましょう。
But I'm here today to say that difficulty is no excuse for complacency.
Unease is no excuse for inaction.
この二つの文章、聞いたところで意味が分かる感じはしますが、日本語に訳そうとすると一筋縄ではいかない、という典型のような例です。
試訳です。
「今日は、課題が困難を極めるのは現状逃避の言い訳にならないと言いたくて来ました。」
「不安だからといって、行動に踏み切るのを躊躇してはなりません。」
次がさらに難しいです。
そういえば、前にもこれに似たフレーズが別の演説でありました。
もしかして、誰か特定のスピーチライターのお気に入りのフレーズなのかもしれません。
And we must not allow the perfect to become the enemy of progress.
「完璧を期そうとして、前に進むのをを押しとどめてはならないのです。」
さて、上記の文章は本当に難しく正直にいうと「大和言葉」で訳したほうが耳で聴いて分かりやすいのですが、おそらく新聞のような活字メディアでしたら次のようにすると思います。
「完璧を期するあまり前進を阻んではならない。」
以上、我ながら考えても考えても、これで完璧といえることはないのですが、それこそ、「完璧を期すあまり一言も発しない」では仕事にならないので、次善の策を講じるしかない、と自らに言い聞かせながら毎日、仕事をしています。
パートナーと帰り際、「今日もよく仕事したね」「悪条件のなか、よく頑張ったね」とお互い、慰めあい励ましあいながら帰路についたのでした。
そうそう、帰路ならぬ岐路で、有名な野球選手ヨーギ・ベーラの次の格言を思い出しました。
When you come to a fork in the road, take it.
「分かれ道(岐路)に到達したら、どちらかを選びなさい。」
ということですが、これって結局こういうことでしょうか。
「決断を迫られた場合には、思い切りが必要」
あるいは
「進む方向に迷うことがあっても、毅然とした決断が必要」
通訳とは常に決断を迫られているといってもいいかもしれません。
知識集約型情報処理サービス業としては、常に自分の発している訳出は「一面の切り取った真実」でしかない、とは思いながらも、ベストを尽くそうとやっているのです。