放送の生同時通訳でしかも原稿なし、となると、リポート終わりなど画像がここで切り替わってしまう、という場合は何とか、予測をきかせて映像とあわせて音声を発しなくてはならない。
などと、後から考えてもっともらしく理屈を言うことはできるけれど実際に通訳をするときに、そう考えているかというと、「何とか辻褄をあわせよう」の一点だけのような気がする。そうなると、これは確か米原万里さんの言ったセリフだったと思うけれど「嘘つきは通訳の始まり」であるのだ、、、と今日も反省。
事前に主な項目のランダウンだけは来ているし、放送開始前にちょっとだけリポートの一部が試しに流されることがあるので、今日はハチ公の話が来ると言うのはわかっていた。だけど、ハチ公の話のどんな部分がくるのかはわからない。
うちに帰ってCBSイブニングニュースのHPを開けると、果たしてハチ公のリポートが9月2日(現地時間では2日のニュース)のところのトップに載っていた。
Hachiko: A Tail of Loyalty in Tokyo
東京の忠犬ハチ公の物語
最初の出だしもよく覚えていた。
At a crossroad of busy 24/7 Tokyo, half a million people a day hurry by.
四六時中一日50万人もがせわしなく行きかう東京の交差点。
出だしは、タイトルを聞いていたし何と言っても行き慣れている渋谷の話なのですんなり出来て、ここは大丈夫。
そのあと、こんなセリフが出てくる。
"His gaze looks lonesome," says 11-year-old Shinsaku, "like he knows his owner may not come back."
「寂しそうなまなざしだね」と11歳のしんさく君。「まるで飼い主が決して戻らないのを知っているみたいだね。」
うん、これも11歳の子の口調を思い浮かべながら画面をみながら訳出できていたと思う。
私が特に気にしていたのは、リポートの最後の部分。
あらためてアップされていたスクリプトを読むとこうある。
A dog who was forever lonely for one more pat on the head, one last moment of his master's love.
ですが、レポートの最後であること、確かに最初のしんさく君のセリフと呼応する部分であるということまでは、頭のなかで思い描いたのだけど、口をついてでた私の訳出はこんなものだった、、、
「ハチ公は最も忠実な犬と言えるでしょう」
うーん、「当たらずと言えども遠からず」かもしれないけど、全然「忠実な」訳出でないのは確か。
放送の同時通訳のときは「もとの放送で声が流れているのに声が出てない」状態をなるべく避けるため、そして先ほど言ったように「画面との整合性」を大事にするあまり、特にリポート終わりはなんとかリポート終わりらしくしめようという、さらなる圧力が働くらしい。
事実関係で大事な点、たとえば1925年に飼い主の大学教授が急死したのに、その後10年近くも駅に通い続けた、とか、1934年にハチ公の銅像が作られた、とか、冒頭の50万人とか、数字は同時通訳しながらメモして確認しているので正確にとれていたけど、最後のところはこれではいかにも大雑把。
忠実に訳すとしたら?
「せめてあと一回、ご主人様に頭を撫でてほしい、声が聞きたいと心から願ったハチ公でした。」
ということでしょうか。
最も忠実な犬、あるいは忠犬ということは英語には出てきていません。
通訳していた自分がどうしてそういう訳にしたのか。
理由は二つあったと思います。
一つは、いちばん最初のランダウンのところで、Meet Hachiko, he must be the most loyal dog in the world
ハチ公に会いたい、世界一の忠犬に違いありません。
というのがあって、それが記憶にひっかかっていたこと。
そういえば、
ハチ公に会いましょう。
とせずに、こう訳出したのは「マリリンに会いたい」という映画のタイトルがなぜか、脈絡もなくこのときに頭に浮かんだのでそれにひっぱられたせい。
話がそれましたが、もう一つ忠実な犬という訳出になった理由。
「ご主人様にもう一度会いたい」と切望している描写を聞いてとっさに口から出まかせを、しかも時間以内に何とかピッタリ終わらそう、とプレッシャーで記憶に飛びついた、というのが偽らざる実態でした。
ため息をつきつつ。
ほか今日のニュースで面白かった表現をいくつか紹介します。
SEC(証券取引委員会)が証券詐欺のマドフ被告の犯罪の証拠をもっと早くつかんだはずなのに、見抜けなかったとのリポートの中で出た表現。
jaw-dropping incompetence
あごが落ちそうな無能ぶり
と、文字通りに言ってしまいましたが「驚くほどの」あるいはせめて「口をあんぐり」させられるような無能さ加減、というのが適当だったでしょう。
思わずここまでするか、と言いそうになったリポートは、失業率が高いなかなか就職できない状況のなかで、学歴など経歴を偽ってでも就職をしたいという人が増えていると言うものだった。
英語の表現が、lie their way to jobs
嘘をついて職を手にする
ということでしょうか。
リポートに登場した高卒の女性、高卒では職につけないとあって、架空の大学名の卒業証書を偽造したけどその後10年間、就職はできて、やがて6 figure salary 6桁、つまり100,000ドル以上、日本風にいえば1000万円以上の収入、をとるようになったけど、嘘をついて自分を偽って生きているのが嫌になり、「絶対に嘘をついて生活するなどやめよう」とその経験をもとに本を書いた、という人だった。
stretch the truth
事実を引き伸ばして、とは言わないから「事実を拡大解釈して」とでも言おうか、そういう履歴書を出す応募者も多いから、企業の側もしっかりと確認を怠らないことが大事、とリポートは結んでいた。
もう一つ、世相を表していると思ったリポートは、新型インフルエンザが流行の兆しをみせるなか、学校に配備されている看護士の数が不足しているという話題だった。