ときどき、このABCの看板ニュース番組にはもっと前に知っていれば人生変わっていたのに、と思うような優れたリポートがあるのですが、今日担当した中にもそういうものがありました。
子どもがまだ胎児でお腹の中にいるときから、お母さんの声を聞いているだけではなくて、すでに記憶があるという最新研究結果が出た、と言うリポートです。
本当にびっくりのリポートでしたが、すでに妊娠32週を過ぎた頃の胎児はお母さんが好きなメロドラマが何かちゃんとわかるとか。お母さんがみているものをお腹のなかで聞いているので、メロドラマのテーマ曲がかかっただけで、安定する
のだそうです。しかも、その記憶は1ヶ月も残るのだとか。
あと、心理学的に言うとhabituation 馴化 というのだそうですが、音でこういってもわかりにくいと思ったので、レポートの通訳では「慣れ」としましたが、余計なブザー音を鳴らして胎児に聞かせても、そのブザー音のあと特に不都合がおきないとわかると、無視することを覚えるのだとか。
妊娠30週くらいからは、記憶は長期記憶に残るそうです。まるで「録音機のように」胎児は音を記憶するのだとか。
リポートの通訳を終えたあと、デスクやそのほか同僚通訳者とおしゃべりをして帰ることが多いですが、このときも同僚のやはり子どもがいる通訳者とは「これは面白いね」と言い合って帰りました。デスクは、「子どもを育てるときに、た
とえばクラシック音楽を聴いているような環境にいるとか、育てるうえでの環境がいかに影響するかを強調するリポートなのでは」という意見でした。
いつも思うのですが、何が記憶に残るのか、本当に記憶とは不思議。好きなものに対しては自然に身体が反応するという動きを巻き起こす。生理的な反応ほど正直なものはないでしょう。
それはどうも大人になってからも続くようです。いやなことでも、やらねばならないことはやらねば、と理屈で自分に言い聞かせることによって、表面上はとりつくろうことはできても、身体におきる生理的な反応を変えることはできない。
子どもはお腹のなかにいるときから、ストレスを受ければ気持ちが安定しない。
このリポートに出てきたおなかの大きな婦人は「この研究結果を聞いて、なるべくゆったりと過ごそうと決意した」と語っていました。
若かったあの頃、お腹の大きかったときも含めて、子育てにもっと真剣に取り組むべきだったと思ったときはもう遅いということなのでしょう。
苦い後悔とともにこのリポートの最後の締めの部分をどう訳そうか、いろいろと考えました。
Fonder memories found in the womb may lead to more secure babies after birth.
子宮の中で楽しい記憶をつくれた赤ちゃんは、生まれたあと精神的に安定しているのです。
この比較級、fonder more secure
を活かすかどうか。
このまま文字通りにするなら、こうなるでしょう。
子宮のなかで楽しい思い出をつくればつくれるほど、より生まれた後安定している赤ちゃんになるのです。
この訳出、何も間違ってはいません。
むしろ、正確にということだったらこのほうが正確でしょ う。
しかし、ぱっと耳で聞いてよりよく伝わるにはどうすればよいのか。
時間があったので考えましたが、結局上記のようにするのがよくわかると判断しました。
このリポートが出てきたのは時差通訳担当の最後の部分でしたので、「以上、ABCワールドニュースをチャーリー・ギブソンがお伝えしました」という最後の文章を読みながら、さらにしんみりと思いにふけりました。