冬時間になり、同時通訳と時差通訳の両方でこの番組を通訳したのは今日がはじめてでした。
そうなって、いちばん難しいのは固有名詞です。
ニュースは正確性が第一、そのためには固有名詞(発音も含めて)を間違えないでしかも、わかりやすく伝えるのが大事なことですが、冬時間になると時差通訳までの時間が短くなり調べる時間があまり持てません。
最初のほうは日ごろ追っているニュースなので、それほど訳語の選択に迷うこともないのですが、医学ものや「今週の人」のような話題でいままでの歴史から題材をとったものの場合には、日ごろ話題にあがっていないような固有名詞や日本の新聞で出ていないようなことがあがってくることがあって、むしろそういう場合は同時だったら正確に訳出できない、と立ち往生ではないだろうか、と思う場面があります。
たとえばTARP
Troubled Asset Rescue Program
これは、金融安定化法のことです。
訳し方は、「金融安定化法」「金融支援法」など、いくつか報道機関によってバリエーションがあるようですが、いずれにしても7000億ドル規模の支援策パッケージのことをさします。
不良資産を政府が買い取って、銀行に資本を注入するのが柱ですね。
これは「タープ」とニュースで発音されていることが多いですが、このように日ごろ追っているものは、わかりますのであまり問題はありません。
今日は2番目でしたが、時差になってどう訳すのかというので、時間がないなかでも調べた単語が二つありました。こういうときにはインターネットが便利だなあ、インターネットがなかった時代はどうやって通訳をしていたのだろうと思わず考えます。
アメリカ最近、病院で病原菌に感染して死亡する例も増えているとのニュース。
c-difficile
これは、主として腸の感染症をひきおこす「スーパーバッグ」とも言われる耐性のある病原菌の名前。
発音を聞いていると シーディフィシール、であってフランス語だったら、「si difficile」 とっても難しい、という意味と同じになってしまうなあ、などとぼんやりと思いましたが、日本でそういっているのか?この同じ発音で大丈夫なのか、ネットで調べました。
専門誌の記述でも、c-difficile になっていましたが、やはり最初は c のもとの単語を一度はいったほうがよいか、と判断して、Clostridium difficile
クロストリディウム・ディフィシル
と、最初は言いました。
そして今週の話題の人としてとりあげられたホロコーストを生き延びた人の話。
ホロコーストを生き延びてあらためて強制収容所を訪れたこの人。
he became free
自由を見出した
というのが、ニュースの前の説明部分にでてきました。
そういえば、確かアウシュビッツ強制収容所の門には
「労働は精神を自由にする」
という文句が書いてあった、というのを思い出しました。
といっても、毎日たくさん働いていてもちっとも私の精神は自由になったとは思いませんが、、、
このfree は「自由」ではなく、「開放」という訳語のほうがよかったのだろうか、とあとで考えました。
どちらだったのでしょう。
出だしにでてきたのがこの言い方。
Cristal Nacht
これはどうやらドイツ語らしい響き。
英語でさらにチャーリー・ギブソンがNight of the broken glass
と、続けています。
インターネットでひくと「水晶の夜」とでていてちょうど、ナチスがドイツ全土のユダヤ人の住宅などを襲撃、放火した10日未明のことから70年たった、ということでこの生存者が話題にとりあげられたのでしょう。
砕け散った窓ガラスが月のあかりに照らされて水晶のように輝いたからこう呼ばれたというのです。
さて、問題は、チャーリー・ギブソンがいっている
Cristal Nacht, the night of the broken glass
これをどう、時間におさまる程度の訳出にするか。
考えた末、
「水晶の夜、割れた窓ガラスが月明かりに輝いたあの晩から」
としました。説明はいれたいものの入れすぎると、どうしても時間内にはいりません。
さて、この日はもう一つ、こんなちょっとしたニュースがありこれは楽しみながらどう訳すかを考えました。
今度は発音、読みの問題です。
Laughter is the best medicine.
このリードではじまりました。
「笑いは最高のくすり」といいます。
心臓学会で、音楽を聴くことも笑うのと同じく健康によいという論文が出されたという話題でした。
Music increases blood flow, which is a key indicator of he heart's
health.
このblood flow
これを何と訳すか、考えました。
血流 けつりゅう
血行 けっこう
血の流れ ちのながれ
視聴者が耳で聞いてわかりやすいのはどれだろうか。
医学用語だったらおそらく、最初に思いついた「血流」だろう。それに耳で聞いても多分、これで大丈夫では、と思い最初に思いついたこれを使いました。
あと、さらに問題は訳出のしかたとして考えられる次の2パターンです。
1.音楽は血流を増大させますが、血流は心臓の健康状態をよくあらわす指標です。
2.音楽は心臓の健康状態の主要な指標である血流を増大させます。
そして、実際に血流が音楽を聴くことで増加しているというのが論文の趣旨だったそうなのです。
迷った末、1を採用しました。耳で聴いた場合出された情報の提示順になっているほうがわかりやすいのではないでしょうか。
最後の締めの文句はこうでした。
So kick back, turn up the volume and stay healthy.
ゆったりと、音楽の音量をあげ健康でいましょう。
と、ここは「音楽の」をあえて足しました。
そう、こんなふうにゆったりと音楽を楽しむ余裕を持ちたいものです。