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2018年7月 アーカイブ

2018年7月25日

レビ記18:22の件

English speakers, please, refer to the following article.

The Secret History of Leviticus
https://www.nytimes.com/2018/07/21/opinion/sunday/bible-prohibit-gay-sex.html

レビ記18章には、あの「あなたは女と寝るように男と寝てはならない」
があるが、その前後には、様々なインセスト・タブー(近親相姦の禁忌)
とその他の性行為の禁忌が並べられている。

ところで、上の英語の記事の筆者、Idan Dershowitz氏によって
気付かされることがある。

まずは、旧約聖書の各書は、1人の筆者によって書かれたものでは
ないものがある可能性があるということがある。
複数の人の手が入って、論理的におかしくなっているところがある
のでそれはわかる。
Dershowitz氏は、例えばレビ記は、最初の筆者から、最後に
大幅に書き加えた人までには、およそ1世紀の時間の流れがあると
考えている。

口語訳で、「〜を犯してはならない」と訳されている箇所は、
欽定訳では、「the nakedness of 誰々, shalt thou not uncover」
となっている。「誰々の裸を、あなたは暴いてはならない
(カバーを取って見てはならない??)」となっている。

「性行為をする」というのが、欽定訳では「裸を暴く」と
いう婉曲話法になっている。口語訳では「犯す」で
身も蓋も無い。

それから、父との性行為の禁忌、おじとの性行為の禁忌と
読める箇所が欽定訳にはあるが、口語訳では、
改訳されていて、意味が変わってしまっている。
(日本語訳されたときにも内容に手が加えられたということ
である。)

まず、レビ18:7、

The nakedness of thy father, or the nakedness of thy mother,
shalt thou not uncover : she is thy mother ; thou shalt not uncover
her nakedness.

「(私訳)あなたの父親の裸も、貴方の母親の裸も、あなたは
暴いてはならない。彼女はあなたの母親である。あなたは
彼女の裸を暴いてはならない。」

しかし口語訳では、

「あなたの母を犯してはならない。それはあなたの父を
はずかしめることだからである。」

なんだか、かなり「編集」が入っちゃってますね。

「あなたの父親の裸も〜あなたは暴いてはならない」

っていうのは、あなたが父親と性行為をしては
いけないというインセスト・タブーを示唆している。

Dershowitz氏によると、もし同性間の性行為が
全カテゴリー的に禁忌とされているのならば、
その下位カテゴリーである、「父親との性行為の
禁忌」は話題にもならないはずである。
それが、「残ってしまって」いるというのは、
少なくともレビ記が書かれた当初には、
男性間の性行為が行われていて、その中で、
父親との性行為はインセスト・タブーと
されていたと読めるとのことである。

ちなみに「あなたの父親」というときのヘブライ語の
「あなたの」は2人称単数男性形であって、「娘と父親」と
読み替えることはできず、これは「息子と父親」と
しか読めない。

また、18:7は、前半で「あなたの父親、あなたの母親」と
始まっているのに、後半は「あなたの母親」の話だけに
なっている。ここに、最初の筆者ではなく、後の書き手によって
改変があるのではないかと、Dershowitz氏は見る。

更にもう1箇所。

レビ18:14

「Thou shalt not uncover the nakedness of thy father's
brother, thou shalt not approach to his wife : she is thine aunt.」

「(私訳)あなたは、あなたの父親の兄弟の裸を暴いては
ならない、あなたは彼の妻にアプローチしてはならない。
彼女はあなたのおばである。」

やはり、もし同性間の性行為が
全カテゴリー的に禁忌とされているのならば、
その下位カテゴリーである、「おじとの性行為の
禁忌」は話題にもならないはずである。

またこの18:14では、前半では、おじの話であったのが、
後半はおばの話にすり替わっている。
ここも、当初の筆者の書いたものに、後世の
手が加わったことによって、論理がねじれたものに
なっているとDershowitz氏は見る。

さて、口語訳はというと、

「あなたの父の兄弟の妻を犯し、父の兄弟を
はずかしめてはならない。彼女はあなたのおばだから
である。」

欽定訳では、おじとの禁忌であったのが、すっかり
おばとの禁忌になっていて、ただ「おじをはずかしめて
はならない」という話に変わってしまっている。

18:7も18:14も、日本人が読んで意味が通るように、
かなり和訳の際に改変されてしまっているのが
わかる。

となると、反同性愛のキ教の運動家が錦の御旗の
ように扱っている、レビ18:22

「あなたは女と寝るように男と寝てはならない。
これは憎むべきことである」

というのは、Dershowitz氏によると、全体の構成から
みると最初の筆者の書いたものとは考えられず、
後世の書き手によって書き加えられたものと
考えないとおかしい、とのことである。

パターンとしても、「裸を暴く」ではなく、
「寝る」になっているのが、何か異質なものを
感じさせる。

結論としては、Dershowitz氏は、レビ記はおよそ
1世紀の幅を持って、複数の人に書かれたものであり、
性行為に関する規範も、時代時代で違ったり、
筆者によって違った可能性が高いということである。

それが、レビ18:22だけがパンチラインのようになって
一人歩きしているのが現状である。

また、Dershowitz氏によると、18章は、異性間の
性行為の禁忌の方が多く書かれており、
同性間の性行為のカテゴリカルな禁忌は
後付のものであって、当初のものは、「父」と
「おじ」であったとの見解である。

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