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パンツ考

ある言語社会に、あたらしいモノ・コトなどが入ってきたときに、
通常その言語社会は名付けをします。

ちょっと言語学的に言うと、言語記号の
新しい所記(記号内容、範疇とも)に対応した
能記(記号表現、音声言語では音[素]の並び)を
設定します。

青木晴夫先生は、ご著書『滅びゆくことばを追って』の中で、
(その青木先生の名付けた「型」の名前は失念しましたが、)
新しい所記に対して、関連のある記号の古い能記をあてがって、
その古い記号の所記に対しては、例えば「古い○○」というような
呼び方をする、「古い名称利用型」があると。
(例えば、弓と矢の後に、銃と銃弾が入ってきたときに、
 「弓」という能記は銃を表わし、
 「矢」という能記すは銃弾を表わし、
 弓のことは、「古い弓」と呼び、
 矢のことは、「古い矢」と呼ぶようなパターンです。)

またその一方で、新しい所記は、古い能記になんらかの
加工をして使う「古い意味保存型」があると仰っていました。
(例えば、銃は、「新しい銃」と呼び、
 銃弾は、「新しい矢」と呼び、
 弓、矢に関しては、能記、所記ともに変わらないようなパターンです。)

日本語の「パンツ」に関しては、両方のパターンが
併存しています。

「古い名称利用型」は、
「パンツ」(ズボンなどのこと)、
「おパンツ」(下着のパンツのこと)。

「古い意味保存型」は、
「パンツ(高低低)」(下着のパンツのこと)、
「パンツ(低高高)」(ズボンなどのこと)。

両方が混在しているので、「パンツ(高低低)」と
言われたときには、その時の状況、話者の年齢、
ファッション、その他様々な事柄を勘案して、
推測するか、さりげなく確認の質問をして
(そのものズバリでなくてもよい)
確かめる必要があります。

まあ、古い名称も古い意味も利用・保存しない、
「パンツ(低高高)」(ズボンなどのこと)。
「おパンツ」(下着のパンツのこと)
と言ってもらえれば、曖昧さはなくなります。

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新しいモノ・コトが入ってきた時の
名称(能記)の選び方は、もちろん
上記の2種だけではなく、
他にもいろいろあると思われます。

まず、その言語内の材料を使った
複合語を作ったり、
外来語(借用語)を取り入れたり。

面白い例は、エストニア語で、
何も既存の要素を使わずに
新しい単語を作るということも
なされたようです。
relv (コンピューター)。

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2010年3月18日 09:47に投稿されたエントリーのページです。

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