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ペレーヴィン2作



昨年(2014年)は、ロシアの人気作家ヴィクトル・ペレーヴィンの長編が2冊立て続けに翻訳出版された。

『ジェネレーション<P>』東海晃久訳、河出書房新社。
『汝はTなり―トルストイ異聞』 東海晃久訳、河出書房新社。

『ジェネレーション<P>』は、ソヴィエトが崩壊し資本主義ロシアに移行する1990年代を舞台に、コピーライターとして破格の「出世」をしていくヴァヴィレンがメソポタミア神話の女神イシュタルの夫になるという意表を突く展開。激動のロシアが神話の世界に接続し、アップテンポの語りが現実と幻想の境界を曖昧にする。ヴァヴィレンという名前も奇妙に示唆的である。雪どけ期にアメリカ文化を享受した世代の作家ヴァシーリイ・アクショーノフの「ヴァ」と、「ラジーミル・リイチ・レーニン」の太字部分を合体させたものなのだ。

『汝はTなり』 (原題は "Т") は、トルストイを思わせるT伯爵が自分でもなぜかわからないままある場所に向かっているが、実は、伯爵はアリエルという「作家集団」によって描き出された「登場人物」であり、しばしばアリエルと対話したりする。いわば、メタ文学的な実験的作品だ。偶然だろうが、アリエルの名は日本語の「あり得る」と音が同じで面白い。

ペレ―ヴィンは、自分はだれなのかという形而上的な問いに取りつかれ、この世の生はだれかに操られているのではないかという深刻な疑問に苛まれて、答えを必死に探し求め、その過程をポストモダン風に描こうとしているのではないかという気がする。

それにしても、訳者の東海晃久さんの最近の活躍ぶりはすごい。ペレーヴィンの他、サーシャ・ソコロフ、コンスタンチン・ヴァーギノフ、シギズムント・クルジジャノフスキィと、いずれも難解な作品に精緻な訳と詳細な注を施して日本の読者にプレゼントしてくれた。
脱帽といいうより他ない。

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2015年2月28日 19:57に投稿されたエントリーのページです。

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