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2015年2月 アーカイブ

2015年2月 7日

祝! 山崎佳代子さん読売文学賞 受賞!

第66回読売文学賞(随筆・紀行賞)をわれらが山崎佳代子さんが受賞した!
受賞作品は 『ベオグラード日誌』(書肆山田、2014年)。

NATOの空爆(1999年)に晒された記憶を辿りつつ、2001年から12年間にわたる心模様や生活や出来事を綴った書である。
山崎さんは詩人として何冊も日本語で素敵な詩集を出しているほか、ダニロ・キシュの翻訳家でもあり、またセルビア語で博士論文を書き、現在ベオグラード大学で日本語・日本文学を教える教授でもある。
池澤夏樹さんの言葉を借りるなら、「詩を書き、詩を訳し、東欧圏と日本の詩人たちと会って心を通わせる。詩という言葉の道具に頼って、受難と希望の間に道を探」っている人だ。

2010年11月には本学で 「たゆたう国々」 と題する講演をしていただいたが、詩の朗読を交えたお話には圧倒的なパワーがあった。
2008年に本学がベオグラード大学と学術交流協定を結んだとき窓口になってくださったのが山崎さんだ。
いや、それ以前から本学は教科書や日本語教師派遣などでベオグラード大学日本語科とは密接な関係を保ってきたが、すべて山崎さんが仲介してくださっている。

何しろお人柄がチャーミングなので、だれもが山崎さんのファンになってしまう。
今回の受賞の知らせは自分のことのように嬉しかった。

2015年2月 9日

翻訳のろのろ進行中

現在、ロシア語2作品を同時並行で翻訳している。といっても、もどかしいほど、のろのろとしか進まないのだけれど。

1冊は、リュドミラ・ウリツカヤ作、ウラジーミル・リュバロフ挿画の 『1949年の子供時代』(仮題、新潮社)。
著者たちが実際に子供時代を送った1940年代後半つまり「戦後」ソ連の生活が匂い立つようなお話が6編集められており、大人のための絵本と呼びたい本である。
前からどうしても訳したかったもの。



もう1冊は、アンナ・スタロビネツ 『むずかしい年ごろ』(仮題、河出書房新社)。
こちらは打って変わってホラー小説集だ。スタロビネツは「超」注目の新進気鋭女性ホラー作家。
乞うご期待(と言う前に訳さなくちゃ)。



2015年2月11日

アヴァンギャルド研究会

本学の山口裕之さん(ドイツ文学)をリーダーとする科研の共同研究グループに参加させていただいている。「西欧アヴァンギャルド芸術における知覚のパラダイムと表象システムに関する総合的研究」(学術振興会科学研究費 基盤研究(B) 2014-2016)。

その第2回目の研究会が 2015年3月2日(月)14:00-17:00 総合文化研究所 422教室でおこなわれる。
今回の報告は、松浦寿夫さん(フランス文化)と横田さやかさん(イタリア文化)のおふたりだ。



この科研研究のため、私は3月半ばに中央アジアに出張する。
タシケントとヌクスに行き、ヌクスにあるサヴィツキー美術館を訪れる予定だ。
1966年に創設されたこの美術館は、ロシア・アヴァンギャルド作品のコレクションで有名である。創設者のイーゴリ・サヴィツキーが、1960年代から精力的に集めた作品から成る。

2015年2月12日

高橋ブランカさんと多言語パフォーマンスのこと

ひょんなことから(ピリニャークのある短編に出てくる日本人作家にモデルはいると思うかという日本語のメールをいただいてから)高橋ブランカさんとメールのやりとりが始まった。
しだいにわかってきたのは、ブランカさんがセルビア出身で、ベオグラード大学日本語学科を卒業したこと(山崎佳代子さんの教え子!)、ウラジオストクに数年住んでいたこと、今は日本でいろいろな創作活動をしているということ。
やがて日本語で書いた小説を見せていただくようになり、今回はパフォーマンスに誘っていただいた。関内の "Archiship Library & Cafe" というお洒落なカフェをユニークな舞台空間に見立てての多言語パフォーマンス 『女の平和』の翻案公演とあって、これは逃す手はないと観に行った。

Multilingual Performance Theater 「空(Utsubo)」による第7回公演 『リューシストラテ』
翻案・演出: 岸本桂子
出演: 高橋ブランカ、山本真理



予想に違わず、じつに面白かった!
白装束の女性ふたりが部屋の反対側に立ち、ときどき場所を交換しては、アリストパネスの 『女の平和』 のモチーフにもとづき、男たちに戦争をやめさせるべく「セックス・ストライキ」をおこなう現代の女たちを演じる。
戦争をする男とは寝ない―それが女に残された平和への方策であり「最後の手段」であることは、昔(古代ギリシャのリューシストラタテ)も今(現代のレイマ・ボウィ)も変わらない。レイマはリベリアでセックス・ストライキを呼びかけるなどして平和運動を展開し2011年にノーベル平和賞を受賞した実在の人物だ。「ドキュメンタリー・パフォーマンス」と銘打たれているのも、むべなるかな。

そこで飛び交うのは、日本語、英語、ロシア語、セルビア語、スペイン語。観客は、一部プロジェクタの助けを借りながら、文字通りマルチリンガルな場を体感することになる。女たちの語りが、英語→日本語、日本語→英語の順で、あるいはロシア語→英語→日本語の順で披露され、はたまたカノンのように少しずれて重ねて語られたり、セルビアの詩人ラドミア・ラジッチの詩がセルビア語→日本語訳で紹介されたり......。その構成・演出が独創的で興味深かった。

高橋ブランカさんはこれらすべての言語を巧みに操り、とても魅力的に演じていた。
帰りに、ブランカさんご自身の書いたロシア語の小説の載った文芸誌をいただく。
彼女のマルチタレントが日本でさらに輝き、大きく花開きますように!



 ブランカさんと和泉さん

2015年2月28日

ペレーヴィン2作



昨年(2014年)は、ロシアの人気作家ヴィクトル・ペレーヴィンの長編が2冊立て続けに翻訳出版された。

『ジェネレーション<P>』東海晃久訳、河出書房新社。
『汝はTなり―トルストイ異聞』 東海晃久訳、河出書房新社。

『ジェネレーション<P>』は、ソヴィエトが崩壊し資本主義ロシアに移行する1990年代を舞台に、コピーライターとして破格の「出世」をしていくヴァヴィレンがメソポタミア神話の女神イシュタルの夫になるという意表を突く展開。激動のロシアが神話の世界に接続し、アップテンポの語りが現実と幻想の境界を曖昧にする。ヴァヴィレンという名前も奇妙に示唆的である。雪どけ期にアメリカ文化を享受した世代の作家ヴァシーリイ・アクショーノフの「ヴァ」と、「ラジーミル・リイチ・レーニン」の太字部分を合体させたものなのだ。

『汝はTなり』 (原題は "Т") は、トルストイを思わせるT伯爵が自分でもなぜかわからないままある場所に向かっているが、実は、伯爵はアリエルという「作家集団」によって描き出された「登場人物」であり、しばしばアリエルと対話したりする。いわば、メタ文学的な実験的作品だ。偶然だろうが、アリエルの名は日本語の「あり得る」と音が同じで面白い。

ペレ―ヴィンは、自分はだれなのかという形而上的な問いに取りつかれ、この世の生はだれかに操られているのではないかという深刻な疑問に苛まれて、答えを必死に探し求め、その過程をポストモダン風に描こうとしているのではないかという気がする。

それにしても、訳者の東海晃久さんの最近の活躍ぶりはすごい。ペレーヴィンの他、サーシャ・ソコロフ、コンスタンチン・ヴァーギノフ、シギズムント・クルジジャノフスキィと、いずれも難解な作品に精緻な訳と詳細な注を施して日本の読者にプレゼントしてくれた。
脱帽といいうより他ない。

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