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2015年1月 アーカイブ

2015年1月 1日

恭賀新年 『自分がヒツジ』

あけましておめでとうございます。
2015年が穏やかな良き年になりますように。

ヒツジ年にちなんでヒツジに関するロシア語の成句を探していたら、アンドレイ・マカレーヴィチが 『自分がヒツジ』 というタイトルの本を書いていることに気づいた。
マカレーヴィチは今、渦中の人だ。言わずと知れたミュージシャン(「タイムマシン」という人気ロックグループのリーダー)で、作詞・作曲はもちろんのこと、詩も書けば絵も描き、グルメとしてテレビの料理番組『味覚』の司会もするロシアの超有名人である。



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『自分がヒツジ』 は最初 2002年にザハロフ社から出版されたが、この表紙は2010年にエクスモ社から出た新装版。

タイトルは、"Молодец против овец, а против молодца сам овца." つまり「ヒツジと相対しているときは立派な(いばった)人なのに、立派な人と相対すると自分がヒツジになってしまう」という意味の俚諺から来ている。
自戒を込めてこうはなりたくないものだと思うが、それはさておき、マカレーヴィチはこの本でそうした「内弁慶」的な性格について云々しているわけではない。
幼い頃、父が彼を膝に載せて「ヒツジといると立派なのに、立派な人といると?」と問いかけるので、意味もわからないまま「自分がヒツジ!」と答えたら、大人たちにとても受けたという。
たわいなく、他の人には大した意味はないけれど、当人にとってはかけがえのない思い出。その象徴としてこの自伝的回想記の冒頭に挙げられているのがこのエピソードなのである。

先にマカレーヴィチは「渦中の人」だと書いた。
近年、当局との軋轢を深めてきたマカレーヴィチは、プッシイライオットを擁護する署名をしたり、モスクワ市長選でアレクセイ・ナヴァーリヌィを支持したりしていたが、2014年2月に始まったウクライナ騒乱に関連して、9月ロシア軍がウクライナ領に侵攻することに反対する平和行進に参加した。この頃から次第に猛烈な人身攻撃や謂れなき糾弾(ほぼヘイトスピーチ)を受けるようになり、ウクライナでコンサートをしたからという理由でその後のコンサートをキャンセルされるようになる。ロシア社会は狭隘な民族主義的傾向を急速に強めているのだ。議会では「人民功労芸術家」の称号をマカレーヴィチから剥奪すべきだとの提案まで出されている。「ファシストに手を貸す裏切り者」だからだという。まるで非国民扱いである。残念ながら、危険なナショナリズムがロシアを席巻していると言わざるを得ない。
マカレーヴィチはそうした勢力に果敢に立ち向かっている良心的知識人のひとりだ。

彼はもう 「ヒツジといると立派なのに、立派な人(権力者)といると?」と問われても「自分がヒツジ!」などと答えたりするまい、と心を決めているかのようだ。
2014年9月にマカレーヴィチは新しい曲を作った。
題して「僕の国は狂ってしまった」。

「生まれる国は選べない。
この糸を断ち切ることは絶対できない。
僕の国は戦争に行き
僕は止められなかった。

ある者には権力と飴
ある者には赤貧と牢獄。
でも僕はこの痛みに打ち勝てない。
僕の国は狂ってしまい
僕はどうすることもできない。

何をすればいい、どうすればいいんだ
すべてがひっくり返るとしたら。
光輪も翼も広げる必要はない
ただクソにだけはなってはいけない。

ひとつだけはっきりしている
それは選ぶときが来たということ。
でもクソにはならないって決めたんだから
生きるのも楽なら死ぬのも楽。
生きるのも楽なら死ぬのも楽。
生きるのも、死なないのも」

私は、息をひそめるようにしてマカレーヴィチの動向を見守っている。

2015年1月16日

『スラヴ文化研究』 第12号

本学ロシア語研究室の紀要 『スラヴ文化研究』 第12号が刊行の運びとなった。
装いも新たに登場だ。表紙デザインを担当してくれたのは博士前期課程の市川愛実さん。シンプルで洗練されたデザイン、ありがとう!
また、博士後期課程の笹山啓くんには全面的に編集・校正サポートをしてもらった。本当にありがとう!
内容は以下のとおり。

【論文】
前田和泉 「詩と音楽、詩の音楽―ボリス・パステルナーク≪Давай ронять слова≫分析」
阿出川修嘉 「動詞語形成における語彙的アスペクトの意味的役割に関する一考察―接頭辞по-の場合」
菅井健太 「ブルガリア語北東方言における人称代名詞クリティック形について―ブラネシュティ村、ヴァリャ・ドラグルイ村の方言を例に」
笹山啓 「神秘と個人主義―ペレーヴィンと1960年代以降のソ連神秘主義」
原真咲 「ブルガーコフの英雄ナイ=トゥルス:リトアニア・ウクライナ=ルーシの《解放者ツァーリ》」
佐山豪太 「派生接辞学習による語彙力増加の可能性―話し言葉で使用される語彙を念頭に」
光井明日香 「ロシア語におけるいわゆる総性名詞について」
後藤雄介 「один за другимへの格付与をめぐって」
【研究ノート】
原ダリア 「意味的な構成要素『人』を含む20世紀末~21世紀初めのロシア語における新語 テーマ別・派生別の類型」

2015年1月18日

ICCEES(イクシーズ) 幕張世界大会に向けて


旧ソ連・東欧圏の研究にたずさわる世界各国の学会を糾合した国際学術組織 「国際中欧・東欧研究協議会」 略して ICCEES (イクシーズ) の第9回世界大会が、本年8月3日~8月8日までの間、幕張で開催される。この大会がアジアで開かれるのは今回が初めてである。
すでに旧ソ連諸国、欧米、アジアなど世界約60ヵ国から2000人近くの研究者が参加を表明している。
ロシア、CIS諸国、中欧・東欧圏における政治、経済、歴史、社会、文学、芸術、言語、宗教、思想、教育、医療、ジェンダー、法律、メディア等々 さまざまな学術分野におけるパネルセッション(研究報告と討議)、ラウンドテーブル(討論)、シンポジウムが行われる。

この夏、幕張はICCEESで熱くなる!

現在、組織委員会を中心に幕張世界大会の準備が進められている。
私も組織委員のひとりとして微力ながら準備のお手伝いをしている。大会の開催中は報告者、ディスカッサントとしても参加する。

幕張大会の公式HPはこちら。
 ↓
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/makuhari2015/index.html

8月3日(月)の幕開けは幕張メッセ。オープニング企画として「元首相サミット」が予定され、福田康夫元首相(日本)、セルゲイ・ステパーシン元首相(ロシア)、李洪九元首相(韓国)らが中国の台頭を背景とした現代情勢について論じることになっている。

8月4日(火)から8月8日(土)までの5日間は、神田外語大学を会場に、4部構成×25会場で、250を越えるパネルセッション、ラウンドテーブルセッションが行われる。

その他、特別企画として、8月5日(水)には「変化する世界のユーラシア: 東西関係のなかの北極海と極東」、8月6日(木)には 「ウクライナ危機を考える」、8月7日(金)には 「文学は国境を越えて: ロシア、ウクライナ、ヨーロッパ」が行われる予定。

文学企画「文学は国境を越えて: ロシア、ウクライナ、ヨーロッパ」は、8月7日(金)18:30-20:00
パネリストは、ミハイル・シーシキン(ロシア出身スイス在住のロシア語ドイツ語作家)、アンドレイ・クルコフ(ウクライナのロシア語作家)、アダム・ザガイェフスキ(ポーランドの作家・詩人)、多和田葉子(日本出身ベルリン在住の日本語ドイツ語作家)。「越境」をキーワードに、文学の持つ力、文学と政治の関係、自らの創作などについて、それぞれの立場から語っていただく。
パネルやラウンドテーブルはほぼすべて英語かロシア語で行われるが、シンポジウムは日本語通訳付き。

2015年1月23日

卒論発表会


恒例の卒業論文・卒業研究発表会を2回に分けておこなう。
渾身の論文・研究の成果を聴きにいらしてください。どなたでも歓迎です。
上のポスターを作成してくれたのは4年ゼミ生の渡辺麻貴さん。あまりの美しさにうっとり...。ありがとう!

2月5日(木) 5限 (16:00~)422教室
渡辺麻貴 「水の都サンクト・ペテルブルグの光と影」
高橋祥 「サーカスと演劇の融合-ラザレンコとメイエルホリド-」
渡部壮太「未完の戯曲草稿から追跡する、アレクサンドル・ヴァンピーロフの三幕の戯曲 『鴨猟』 までの道のり」
長瀬啓充 「伊坂幸太郎のドストエフスキー-現代ミステリー作家が受け継いだもの-」

2月12日(木) 5限 (16:00~) 422教室
豊田宏 「さらば、ナボコフよ!-書物が蝶になるとき-」
加藤悠 「СИГУМО(邦題 『死蜘蛛』)全訳」
大口みのり 「ヴィクトル・ヴァスネツォフとロシア民話・ブィリーナ」
武良薫 「セルゲイ・エセーニンとイサドラ・ダンカン~黒い人はいかにして生まれたか~」
鶴田さおり 「永遠への希求-サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とアクショーノフの『星の切符』-」


2015年1月24日

シス・カンパニー公演 『三人姉妹』

2月7日(土)より、シス・カンパニーによるチェーホフ原作 『三人姉妹』 が渋谷の文化村シアターコクーンで上演される。
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http://www.siscompany.com/shimai/

演出はケラリーノ・サンドロヴィッチ
配役は、長女オーリガ=余貴美子、次女マーシャ=宮沢りえ、三女イリーナ=蒼井優、ヴェルシーニン=堤真一、チェブトゥイキン=段田安則ほか。

『三人姉妹』は、シス・カンパニー+ケラリーノ・サンドロヴィッチによるチェーホフ四大戯曲上演企画 【KERA meets CHEKHOV】 の第2弾だという(第1弾は2013年の 『かもめ』)。
素敵なお芝居になりそうで、とても楽しみ。
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公演プログラムに原稿を書かせていただいた。
題して 「渇望から祈りへ― あるいは三角形の力学」。
この作品に三角関係がいくつ出てくるか考え、三姉妹を三聖女(ヴェーラ、ナジェージダ、リュボーフィ)になぞらえてみた。

2015年1月31日

縦割り合同新年会

過日、卒論を提出した4年生のお祝い会を兼ねて、ゼミの「縦割り合同新年会」を開いた。学年の隔てなく交流するのが目的だ。
院生・元院生も参加し、4月からゼミに所属する予定の2年生も一部来てくれた。
みんなが少しずつ何か持ち寄るポットラック・パーティ。私もシャンペンとピザを差し入れる。

メインイベントは、ロシア文化に関するクイズ大会。
4年生の主導により、6つのグループに分かれて正解を競い合った(パワーポイントによるスライド・動画付き!)。

・ビールの消費量でロシアは世界で第何位?
・ウラジオストクの浦潮本願寺が建立されたのはいつ?
・ロシアの画家集団「移動派」のリーダーはイリヤ・レーピン?

など、マニアックで面白い問題が多かったが、10問中8問も正解を出したグループが優勝し、賞品の福袋をゲットする。


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