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2014年10月 アーカイブ

2014年10月 6日

ベトナム 「ドイモイ文学」 の代表的作家

『すばる』 2014年10月号にベトナムの女性作家 ファム・ティ・ホアイの短篇 「ハノイの文士、AK先生の物語」 が本学の野平宗弘先生の訳で紹介されている。


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ファム・ティ・ホアイは1960年生れ。
1977年、東ベルリンのフンボルト大学に留学。1983年に帰国してハノイで作家活動を始め、1980年代後半の改革開放政策によって興った 「ドイモイ文学」 を代表する作家となる。デビュー作 『天使』 のドイツ語訳がフランクフルト自由文学賞を受賞。ドイツ文学の翻訳も手がけ、カフカやブレヒトの作品をベトナム語に訳している。現在はベルリン在住のようだ。

今回紹介された「ハノイの文士~」、めっぽう面白い。
この作品は 「その日の朝、AK先生は目覚めて、ひどくがっかりした。昨晩、夢中になって読んだ話みたいに巨大な虫に変身していなかったからだ」 で始まる (この冒頭部分は、東南アジア文学会発行の会誌 『東南アジア文学』 2013年11号に訳出されている)。
つまり先生は、カフカの 『変身』 に夢中になっているのである。おぞましい虫になっていなくてがっかりするところからして可笑しいが、何しろ先生はものすごいロマンティストで高踏的な「勘違い人間」。だから弟子とともに「ズッコケ珍道中」を繰り広げる先生は、野平さんの指摘するとおり、「ベトナム版ドン・キホーテ」だ。

ロシア文学を思わせるところもあり、私は、ファム・ティ・ホアイは「ベトナム版ゴーゴリ」ではないか、とも思った。
作品全体から立ちのぼるユーモラスな雰囲気や、とぼけたような口調だけではない。あちこち訪ねて事件を引き起こしては次の場所に移るロード・ムービー的なところは 『死せる魂』に似ているし、先生と弟子が党中央からやってきた大物に間違えられるところはまるで 『検察官』 のようだ。
ベトナム現代文学が、ドイツ、スペイン、ロシアにつながっていくって面白い。
ファム・ティ・ホアイの他の作品も読んでみたくなる。

2014年10月 7日

ウリツカヤのエッセイ 『すばる』 11月号に掲載

以前このブログで一部ご紹介したウリツカヤのエッセイが全文 『すばる』 2014年11月号に掲載された。

リュドミラ・ウリツカヤ 「ヨーロッパよ、さようなら! ザルツブルクの印象」

ザルツブルク音楽祭の単なる印象記ではなく、現代ロシアの政治・社会状況を絡めた、ひとりのロシア文化人の厳粛な思索である。
ぜひお読みください。

「ヨーロッパ文学賞」 を受賞した直後のエッセイが、ヨーロッパに別れを告げるタイトルになったというのは逆説的でもあり、悲しくもある。
なお、以前紹介したときは、タイトルを 「さようなら、ヨーロッパ」としていたが、雑誌掲載にあたり、原文の語順どおり 「ヨーロッパよ、さようなら」 とした。

2014年10月19日

クラクフのマンガ館

現在、東京外国語大学 1階ロビーにおいて、素敵なポスター展が行われている。
展示されているのは、ポーランドの古都クラクフにある 「日本美術技術博物館」 通称 「マンガ館」 で過去20年間に開催された展覧会のポスターから厳選された40点だ。
「マンガ」というのは、フェリクス・ヤシェンスキ (1861-1929)のニックネーム。彼は日本美術の熱心なコレクターだった。



このマンガ館が設立されたいきさつがすごい!
現代ポーランドを代表する映画監督アンジェイ・ワイダ氏が浮世絵に惹かれ、ヤシェンスキのコレクションを展示する美術館を作りたいと思い立つ。1987年にワイダ監督は「京都賞」を受賞して得た賞金を元手に、美術館設立のための 「京都クラクフ基金」 を作る。日本とポーランド両国の多くの人々、政府、企業が趣旨に賛同して寄付し、1994年ついに美術館の開館に至ったという。建物の設計は磯崎新氏である。
以来、日本に関する展覧会、講座、コンサートなどさまざまな催しが盛んにおこなわれてきた。

約1世紀ほど前のポーランドのジャポニスムが現代に伝えられ、受け継がれている。
マンガ館は、文字通り、ポーランドの日本の文化の懸け橋となっているのである。


2014年10月23日

エレーナ・コスチュコヴィチ講演会 【第1弾】


来る 2014年11月11日(火) 17:40-19:10 東京外国語大学 研究講義棟 1F 102教室において、エレーナ・コスチュコヴィチ氏の講演会をおこなう。
タイトルがちょっと長い。

「ロシア文学を世界に普及させる者としての21世紀の文芸エージェント。ただし<ロシア世界>を世界に普及させる者としてではなく」

コスチュコヴィチ(愛称リャーリャ)は、いくつもの顔を持つハンサムウーマンである。まずミラノ在住のロシア人イタリア文学者。ウンベルト・エーコの全作品をロシア語に訳して賞を受賞した翻訳者でもある。作家にして、イタリア食文化の専門家。そして、リュドミラ・ウリツカヤやアレクサンドル・カバコフ、ミハイル・シーシキンらの作品を精力的にヨーロッパに紹介してきた文芸エージェントでもある。
多彩でエネルギッシュな活躍をしている彼女に、文芸エージェントの仕事、ロシアとイタリアの関係、ロシア文化の現状等について語っていただく。

講演はロシア語、通訳は中神美砂さん。
総合文化研究所主催、一般公開(無料)。
なお、上のポスターをデザインしてくれたのは、院生の市川愛実さん(ロシア児童文学)。素敵なポスターをありがとう!

2014年10月28日

高橋知伽江(ちかえ)氏講演会 【第2弾】


2014年11月は、第1弾のコスチュコヴィチ氏の講演に続き、第2弾は、以前このブログでもご紹介したわれらが先輩! 東京外国語大学ロシア語学科卒業の高橋知伽江さん(水戸芸術館演劇部門芸術監督)にご登場いただく。

講演 「語る言葉とうたう言葉 ― 戯曲翻訳と訳詞について」

2014年11月17日(月) 17:40-19:10 研究講義棟 1階 101教室
総合文化研究所主催
一般公開、無料

『アナと雪の女王』『ラプンツェル』 の一部上映も交え、アニメ翻訳や戯曲翻訳の特徴、ふつうの翻訳との違い、言葉へのこだわり等について語っていただく。
高橋さんは 『アナと雪の女王』 の主題歌の訳詞も手がけられ、その日本語訳が今、素晴らしいと絶賛されている。メロディにぴったり合った美しく響く言葉を探りあてるために、どのような努力、苦労をされているのか。ロシア語科を卒業してから戯曲翻訳家・劇作家になる道のりはどんなだったのか。ロシアの演劇についてのお考えは? 現在はどのような演劇を目指しているのか。翻訳の極意とは何か...。
興味は尽きない。

どうぞ奮ってご参加ください。
なお、このセンスのいいポスターを作成してくれたのは、院生の石井沙和(イタリア文学)さんだ。ありがとう!

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