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2014年7月 アーカイブ

2014年7月 5日

「ロシア偉人伝」 プロジェクト

ロシア語2年生の授業で、グループごとに好きな「ロシアの偉人」を選びパワーポイントを用いてロシア語で発表するというグループ学習をおこなった。
ロシア語で何百冊と出ている ЖЗЛ = Жизнь замечательных людей (偉人伝)シリーズにあやかったものなので、私は勝手に「ЖЗЛプロジェクト」と名づけている。

学生たちは8つのグループに分かれ、それぞれニコライⅡ世、タルコフスキー、チャイコフスキー、プルシェンコ、クラムスコイ、トーン、ドストエフスキー、ガガーリンについてプレゼンした。
見事なまでに異なる分野の有名人を選び、工夫を凝らしたパワーポイントを作成してくれたのでいたく感心! 
中身も濃く、ロシア語作文もよく頑張りました。ご苦労様!


「ニコライⅡ世」グループ
「最も不幸なツァーリ」
ロシア帝国最後のツァーリ。大津事件にも触れ、まるでドキュメンタリー番組を見ているようだった。


「タルコフスキー」グループ
「タルコフスキー:抵抗の人生」
言わずと知れた現代ロシアの誇る映画監督。「彼の作品は詩情豊かで、観客に新鮮な感覚を与えた」という一文が非常に効いていた。


「チャイコフスキー」グループ
「ピョートル・イリイチと彼の白鳥」
作曲家チャイコフスキーの名前のチャイカ(かもめ)ではなくレーベジ(白鳥)というところが面白い。彼が『白鳥の湖』でバレエ音楽の位置づけを変えたという指摘もよかった。


「プルシェンコ」グループ
「エヴゲーニイ・プルシェンコ:人生と彼を支えた人」
天才的なスケート選手プルシェンコのコーチ・ミーシンとの出会い・栄光・怪我・引退までを追った。ロシア語原稿が優れていた。


「クラムスコイ」グループ
「見知らぬ人の謎」
画家クラムスコイの有名な絵画作品「見知らぬ人」のモデルはいったいだれかという謎に肉薄するエクサイティングな内容だった。


「トーン」グループ
「ロシアのシンボルを創った人」
コンスタンチン・トーンの名はあまり知られていないが、モスクワの「救世主ハリストス大聖堂」や「クレムリン大宮殿」を建てた建築家。紹介の構成(プロット)がよかった。


「ドストエフスキー」グループ
「ドストエフスキー:ドラマティックな人生」
文豪の逮捕・流刑・恋愛・結婚・創作活動を追った。代表的長編についても紹介があり面白かった。


「ガガーリン」グループ
「さあ出発だ!」
宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンの有名な言葉が「空はとてもとても暗かったが地球は青かった」。パワーポイントが芸術的で、ロシア語原稿の完成度も高かった。

2014年7月 7日

「面白い日本の私」


ロジャー・パルバース氏の講演 「面白い日本の私」 は、タイトルどおりユーモア溢れる「面白い」講演だった。
パルバースさんの機知とジョークで会場が何度も笑いに包まれた。
ご自身の経験を交え、外国語上達の「秘策」を惜しげもなく披露してくださりながら、人種・アイデンティティ・シティズンシップ・ナショナリティ・エスニシティといった私たちがふだん何気なく使ってしまう言葉について考察し、日本語の特徴を熱く語ってくださり、1時間ちょっとがあっというまに過ぎてしまった。



会場からの質問にも丁寧に答えてくださった。

レスポンスシートより一部抜粋して紹介しよう。
「今まで自分があたりまえだと感じていたことに新しい違う視点が入ってきて、たくさんの驚きがありました(...)こんなに飽きずに最後まで楽しめたお話は初めてです」
「言語を学ぶ者であるにもかかわらず1つ1つの言葉の意味や定義をよく知らずに使っていることを痛感した」
「言葉は氷山の一角のようなもので、下部にはその言葉を使用する人の生活・文化・情感が支えていることをあらためて感じることができました」
「世界の文化、言語に精通されていて巨人、大きな山みたいな方ですね」

うちわの懇親会ではさらに(!)パワー全開。
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ちょうど今日、7月7日、パルバースさんの新しい小説『ハーフ』(書誌パンセ)が刊行された。
詩集のような美しい体裁のお洒落な本だ。家族の愛と再生の物語だという。早く読みたい。

2014年7月12日

「バレエ・リュス」展


4年ゼミの課外授業として、国立新美術館で開催中の 「魅惑のコスチューム: バレエ・リュス展」 を見に行った。
約140点もの衣装が立体的に展示されるとともに、それらをデザインした画家たちのデザイン画や、実際にダンサーたちが衣装を着て踊ったときの写真なども置かれ、当時の雰囲気がよく伝わってきた。
衣裳の後ろ側まで見ることのできる配置だったのが嬉しい。衣装の色が少し褪せているのも、かつて実際に着られ演じられたものならではの「本物感」がある。
それにしても、オーストラリア国立美術館がこれほど貴重な衣装の数々をこれほど大量に所蔵しているとは驚いた。

『シエラザード』 でパリの聴衆を魅了したレオン・バクストのエキゾティシズム。
『金鶏』 のためにナターリヤ・ゴンチャローワがデザインしたロシアの農民風衣装の鮮やかな色合。
カラフルで前衛的な『道化師』 の衣装をデザインしたミハイル・ラリオーノフ...。
100年ほど前の熱狂を再現した祝祭空間に遊び、しばし時を忘れてうっとりする。

展覧会の入口で記念写真。
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2014年7月13日

『追憶のカンボジア』 - 「物語の島 アジア」 シリーズ 第2弾!


1940 年カンボジアに生まれた作家チュット・カイのカンボジア語による自伝的回想小説が翻訳出版された。

チュット・カイ 『追憶のカンボジア』 岡田知子訳 (東京外国語大学出版会、2014)である。

チュット・カイが生まれたのはメコン川に浮かぶコンポンチャム州ソムラオン島。
だから本学出版会のアジア文学シリーズ 「物語の島 アジア」 の名にこれ以上相応しい作家はいないだろう。

作者は1975年から約4年間続いたポル・ポト政権による残忍な殺戮地獄を生き抜き、1980年に難民としてフランスに渡った。その後20年間、パリでタクシー運転手をしながら執筆したという。
『追憶のカンボジア』 は三部構成になっている。寺に寄宿している少年の日常を描いた「寺の子ども」、フランス語教育を受けることになった主人公の成長を描いた「フランス語学校の子ども」、3人の娘の父となった主人公がポル・ポト政権末期の恐怖と貧困をどのように耐え忍んだかを描いた「かわいい水牛の子」という独立した3つの作品から成る。
とくに3作目は陰惨な社会背景であり、作者とおぼしき主人公自身も極限に近い経験をしているにもかかわらず、作品全体におおらかなユーモアが流れているのは驚異というしかない。

そのユーモアを悠揚たるメコンの流れにたとえてみたい衝動に駆られるが、それはさておき、ちょっととぼけたような柔らかいユーモラスな口調を、岡田知子さんの訳文がセンスよく伝えている。読みやすくこなれた翻訳が、故郷への愛情にあふれる叙情的で素朴で感動的なこのカンボジアの物語にじつにしっくり合っているのだ。

「カンボジアが懐かしい。熟していないタマリンドの葉を入れた小魚の酸っぱいスープ。田んぼ、さとうやし、そして川や沼」(p.66)
「(パン職人は)まるで犬が体を掻くような速さで小麦粉を練り、パン生地にぼとぼと滴る汗のことなどお構いなしだった。ときどき手鼻をちーん、とかんで、その手をズボンでごしごしっと拭いた。そのせいか彼の練ったパンはよくふくらんで、とてもおいしいと評判だった」(p.124)
「(コムさんは)しばらく漕ぐと、逆流の際に助太刀してくれる風神を思い出し、口笛で呼ぶ。コムさんが三、四回、口笛を吹くと、突然、水にはさざ波がたち、舟の縁にぶつかりだし、風がそよそよと吹いてくる。これは偶然なのか、それとも風神が無産階級の労働者を憐れんでくれたためなのか」(p.152)

カンボジアのダニロ・キシュではなかろうか!

なお、現代アジア文学の新たな息吹を伝える東京外国語大学出版会のシリーズ 「物語の島 アジア」は、第1弾がタイのポストモダン文学、プラープダー・ユン 『パンダ』 宇戸清治訳(東京外国語大学出版会、2011)だった。
そして今回の第2弾が、チュット・カイ 『追憶のカンボジア』 岡田知子訳 (東京外国語大学出版会、2014)。
第3弾は今年秋に刊行される予定のチベット文学だ。乞うご期待!


2014年7月23日

贅沢なひととき

先日、巽孝之・小谷真理ご夫妻のお宅にお邪魔し、楽しい時間をご一緒させていただいた。

グルメの集まりなので、シャンペン、ワイン、チーズ各種、プロシュート、ピクルス、牛タン(特別レシピ!)、マス寿司、ブリ寿司、ザクロ入りパン、デザートと美味しいものばかり。
話題はとりとめなく映画、ウクライナ問題、村岡花子、介護、子供、別荘...とあちこち飛びまわり、夜が更けるのも忘れて散文的な日常のなかのオアシスのように贅沢なひとときを満喫した。

左から、巽孝之(アメリカ文学者、SF評論家)、平野共余子(映画史研究家、このあいだ本学で旧ユーゴ映画について講演をしていただいた)、小谷真理(SF&ファンタジー評論家、毎年本学のリレー講義を担当していただいている)、ひとりおいて、松浦泉(編集者)、松浦寿輝(作家、詩人)の各氏。
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