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『現代思想』 特集ロシア・ウクライナ・クリミア

月刊誌 『現代思想』 が、最新号 2014年7月号で特集 「ロシア―帝政からソ連崩壊、そしてウクライナ危機の向う側」 を組んだ。
特集の内容からすると、「ロシア」というより 「ロシア・ウクライナ・クリミア」 といったほうが相応しいと思うが、それはおき、現在のウクライナ情勢の背景を探るための時宜を得た、恰好の企画である。



ミハイル・シーシキン、リュドミラ・ウリツカヤ、ボリス・アクーニンという現代ロシアの実力作家3人の他、「クリミア地詩学(ゲオポエチカ)クラブ」を主導するクリミア出身のロシア語作家イーゴリ・シッド、モスクワ出身の才能あるロシア語詩人キリル・メドヴェージェフら「外国勢」の論考も多数掲載されている(私はウリツカヤとアクーニンの翻訳をお手伝いをした)。

ウクライナとロシアの一筋縄ではいかない複雑な関係を概観したければ、塩川伸明・沼野充義の対談 「ウクライナ危機の深層を読む」 がいいだろう。日本のメディア情報からだけではなかなか見えてこない政治的・歴史的・社会的・文化的な背景がわかりやすく整理されている。
ついでながら、塩川氏の次の言葉を(自戒の意味も込めて)引いておきたい。

「明治以来の日本国家が一貫して施してきた均質的な言語政策あるいは教育を初めとする諸制度によって、いかに流動的な多民族社会に対する想像力を育むことが困難となったか、私たちは改めて考える必要があります」(p.63)

そう、多民族・多文化・多言語地域への「想像力」をもっと働かせなければ。

私自身の関心からしてとくに面白かったのは、奈倉有里 「島になったクリミア」 と赤尾光春 「水面下の代理戦争」。
前者は、1980年に亡命したロシア語作家ワシーリイ・アクショーノフの長編 『クリミア島』について。「半島」ではなく「島」であるところが架空の設定なのだがここが大事! 1970年代に書かれたこの作品の「未来予測」が現実といかに重なっているか。作家の洞察力のすごさを今さらながら痛感することになる。
後者は、ユダヤ問題という切り口でウクライナとロシアの関係を論じたもの。ここでもやはりさまざまな思惑と駆け引きが錯綜し絡み合って、単純な図式化を許さない。ロシアの大統領がなぜ「反ユダヤ主義者」と批判されないのか前から不思議に思っていたが、丁寧に解説されていてありがたかった。

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2014年6月30日 17:27に投稿されたエントリーのページです。

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