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謎の作家 フィーグリ=ミーグリ

昨年、ロシアの文学賞のひとつ「国民ベストセラー賞」に輝いたのは、フィーグリ=ミーグリというペンネームで活躍している覆面作家の 『狼たちと熊たち』 (リムブス・プレス社、2013) だった。


遠い未来のサンクト・ペテルブルグとおぼしき町が舞台だ。
カタストロフィの後、町はいくつかの区域に分かれて互いに憎みあっている。警察は軍事集団と化し、役人や親衛隊がのさばっている。黙示録後を描いたアンチ・ユートピア小説と言っていいだろう。
ネヴァ川の向こうに広がるのは「東」。そこに住んでいるのは「狼たちと熊たち」だという場面があり、タイトルは明らかにそこから来ている。東に住む「中国人」が侵略を計画しているという。そこで官房長官が主人公ラズノグラーズィを東へと危険な遠征に遣る。

最近のロシアではアンチ・ユートピア作品が多いように思う。明るい未来は描きたくても描けないのだろう。
それにしても 『狼たちと熊たち』、ベールイとザミャーチンとトルスタヤとソローキンをミックスしたような既視感にとらわれてしまう。
ちなみにこの作品は、フィーグリ=ミーグリが2010年に書いた 『幸せ』 (普通の「幸せ」の綴りとはちがうが)と二部作を成しているという。

ロシア語らしく響かない「フィーグリ=ミーグリ」。私はどうしても「ゴーゴリ=モーゴリ」という卵の黄身と砂糖を泡立てたデザートを思い出してしまうのだが、音遊びになっているのは間違いない。
フィーグリ=ミーグリはずっと「謎の作家」だったが、国民ベストセラー賞の授賞式に大きなサングラスをして現れ、ついにエカテリーナ・チェボタリョワであることが判明した。
あるインタビューで(やはりサングラスをしていたが)、フィリップ・ディックが好きだと言っていた。

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2014年3月30日 17:26に投稿されたエントリーのページです。

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