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「過去はいつか未来だった。そして未来はいつか過去になる」

タジキスタン出身のロシア語作家アンドレイ・ヴォロスの長編 『パンジルードへの帰還』(オギ、モスクワ、2013年)。
「ペルシャ文学の父」「詩人のなかの帝王」と言われる詩人 ルーダキー (858-940頃?)を主人公にした歴史小説で、昨年のロシア・ブッカー賞受賞作である。
ルーダキーは、本名を アブー・アブドゥラー・ジャファル・ビン・ムハンマド といい、小説の中でも「ジャファル」と呼ばれているが、ふつうは出身地のルーダクにちなんで「ルーダキー」として知られる。

小説は、宮廷を追われ盲目にされた老ルーダキーが、ブハラから故郷の村まで300キロもの道のりを歩いて帰るよう命じられ、その「帰還」にシェラフカンという若者が付き添うことになる場面から始まる。
ふたりは、初めのうちはなかなかうまくいかないが、やがて馴染んでくると、シェラフカンがルーダキーを導いているのではなく、、経験豊かで賢明な詩人がシェラフカンの人生を導いていて、立場が逆転している。ふたつの人生が縒りあい影響しあって、1本のパンジルードへの道となるのだ。
長い道行の末パンジルードに着いたふたりが最後に別れる場面には、次のような印象深いフレーズが記されている。

「過去はいつか未来だった。そして未来はいつか過去になる」

ヴォロスは想像力を駆使して、詳細のわからない中世ペルシャの詩人の経歴に豊かな細部を与え、その晩年を生き生きと再現してみせた。
アンドレイ・ヴォロスは1955年タジキスタン共和国の首都 ドゥシャンベ生まれ。タジク語詩のロシア語への翻訳に携わり、自らも詩を書く。2000年に出版した小説 『フッラマバード』 で国家賞、アンチブッカー賞、「新世界」賞、「ズナーミャ」賞をのきなみ受賞。「フッラマバード」とはタジクやペルシャのお伽噺に出てくる「幸福の国」でドゥシャンベのことを指しているという。


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2014年3月16日 21:28に投稿されたエントリーのページです。

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