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「ロシア文化の悲劇」

3月8日(土)名古屋ガーデンパレスにおいて名古屋外国語大学主催、亀山郁夫科研シンポジウム 「文化の悲劇―国家崩壊期の芸術」 が開催された。
午前、第1セクションの司会を務める。


3年前のちょうど今日(3月11日)発生した東日本大震災と福島第1原子力発電所事故。私たち亀山科研研究グループはこれを受け、2012年3月に 「にがよもぎの予言―チェルノブイリの悲劇とソ連崩壊20年」 と題するシンポジウムをおこなった。ロシア文化を研究する者として、チェルノブイリ原発事故という過去の教訓をフクシマにつなげて見据える必要があると考えたからである。

チェルノブイリはウクライナにある。
現在ウクライナとりわけクリミアではロシア軍の介入により非常に緊迫した情勢が続いている。チェルノブイリはキエフの北西方向なのでクリミアから離れているとはいえ、万が一武力衝突になりウクライナ全土に戦争が広がったら、とんでもない事態になるだろう。
ウクライナとロシアは戦争などをしている場合ではない。両国は、いまだにチェルノブイリ原発事故の後遺症に苦しむ人々を救済し、廃炉にした原発の整備と管理(老朽化して今にも壊れそうな石棺!)に向けて知恵と力を合わせるべきではないのか!

ロシアには、ただちに武力の行使および武力による威嚇をやめてほしい。
ウクライナ暫定政権には、ウクライナ在住のロシア語話者の安全を約束してもらいたい。
そして一刻も早く冷静に平和的解決に向けた努力をしてほしいと心から願う。これ以上歴史に悲劇を残さないために。

シンポジウムは活気に満ちたものになった。
コンスタンチン・ボグダーノフ氏(ロシア文学研究所上級研究員)の「ロシア・シャンソン」の話題が面白かった。「ロシア・シャンソン」とは、ふつうに思い浮かべるフランスの「シャンソン」とは異なり、もともとは「監獄ソング」のようなものだとのこと。最近ロシアで人気があるという。収容所経験者が多いこと、ロシア文化の伝統においては民族的な音楽に「真実」があると考えられていること、「哀愁」を表すことによる社会へのプロテスト形態であることが人気の要因だとボグダーノフ氏は分析していた。

ロシア・シャンソンの代名詞のような曲、ミハイル・クルークの「ウラジーミル中央監獄」
 ↓
http://www.tvigle.ru/category/music/mikhail-krug/?video=424765

世界的な記号学者であるヴャチェスラフ・イワーノフ氏(モスクワ大学世界文化研究所所長、UCLA教授)は、短時間だったがロサンゼルスからスカイプで参加してくださった。事前にいただいた原稿には、ソ連時代に弾圧された多くの学者や芸術家の例が挙げられ、その復権と新たな精神活動が始まっていることが力強く述べられており、当日はその一部が代読された。
しかし、最近のロシアでは日ましに言論統制が厳しくなっているように見受けられる。反対意見を力で封じ込める政策とそれに加担する民意が何よりも恐ろしいことをロシアの人たちは知っているはずなのに。ソ連時代に逆戻りしてしまうのではないかとすら思える風潮に憤りと不安を感じる。いったいロシアも日本も歴史から何を学んだのだろう。

今回のシンポジウムで企画からパネリスト招聘、会の進行、報告まで大活躍だったのは鴻野わか菜さんだ。鴻野さんの報告は、名古屋(白川公園)に展示されているイリヤ・カバコフの作品 『かれらはのぞきこんでいる』 を5つのキーワードから読み解くという趣旨で、カバコフのエッセンスを鮮やかにまとめ紹介しながらこの作品の鑑賞のし方を提示するという見事なものだった。カバコフという多面的な芸術家の魅力がびんびん伝わってくる(プレゼンテーションのお手本だ)。

同時通訳を務めてくださったのは、吉岡ゆき、中神美砂、川本かおるの三氏。もう神技としか思えない!
長時間ありがとうございました。


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2014年3月11日 10:11に投稿されたエントリーのページです。

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