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コンツェルト公演 『タレルキンの死』

12月28日(土)早稲田大学学生会館でロシア語劇団「コンツェルト」の第43回公演を観てきた。
アレクサンドル・スホヴォ=コブイリンの 『タレルキンの死』。

いろいろな意味で驚きに満ちた公演だった。
第1に、モスクワに演劇留学した本学4年生の守山真利恵さんによる素晴らしい演出に感心した。スピード感、場面転換の鮮やかさ、舞台空間の巧みな使い方、音楽のセンスのよさ。これまでも彼女の舞台は何度か観てそのたびに豊かな才能を感じてきたが、今日の公演であらためて輝かしい才気と素質を確認した。

第2に、その個性的な演出を支える俳優たちの演技とロシア語の発音のよさにも脱帽だ。コンセプトがどれほど優れていても、実際にひとつひとつの身体の動き、表情、セリフがそれを体現していなければ、芝居は成り立たない。その意味で、コンツェルトの公演は芸術監督ナターリヤ・イワーノワ先生の指導に非常に多くを負っている。
コンツェルトがこんなにレベルの高い学生演劇集団に成長したのは、創始者で私の恩師であるタチヤーナ・ボリーソヴナ・野村先生の遺志をイワーノワ先生がしっかりと引き継いでくださったおかげなのだ。


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第3に、本学の笹原秋くん、工藤真唯さん、早大の西川裕起くんら1年生の活躍である。
今年の4月にロシア語を勉強し始めたばかりなのに、こんなにたくさんのセリフを覚えられたなんてすごいことだ。主役のタレルキンを演じた笹原くんのネルギッシュな体当たりの演技に心底感動した。

第4に、戯曲の選択にも驚いた。
『タレルキンの死』はスホヴォ=コブイリン(1817-1903)の数少ない戯曲のひとつで1869年に書かれたものだが、作品そのものよりむしろ1922年にフセヴォロド・メイエルホリドの演出した芝居として知られる。アヴァンギャルド芸術家ワルワーラ・ステパーノワが装置・衣裳を担当し、機能を最優先させた構成主義的な舞台を作りあげたため(今回のコンツェルト公演はこのステパーノワの舞台とはまったく異なる独特なものだった)、ロシア・アヴァンギャルドの文脈で言及されることが多い。
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『タレルキンの死』は風刺的要素の強いグロテスクな作品で、人間的・肯定的な登場人物がひとりもいない残酷なダーク・コメディだ。怖ろしい逮捕・尋問の場面はスターリン時代の粛清を彷彿させ、メイエルホリド自身が逮捕され拷問を受けたあげく銃殺されたことを想起すると背筋が凍りつく思いがした。


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2013年12月28日 22:07に投稿されたエントリーのページです。

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