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翻訳不可能性

9月にモスクワで国際研究会議を開いたが、そこにロシア(タンボフ)出身のドイツ在住詩人でアヴァンギャルド詩の研究者でもあるセルゲイ・ビリュコーフ氏が参加してくれた。そのときいただいたのがこの本(2003年ロシア人文大学より出版)。
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通常の詩の規範から外れたロシア語の詩(遊戯詩や超意味詩など)を集めて分類しその意義について論じた詩集・詩論である。ビリュコーフ自身の作品も含まれている。
"РОКУ УКОР" というタイトルそのものからしてパリンドローム(回文。前から読んでも後ろから読んでも同じ文)になっている。
意味だけ取るなら「運命への批判」となる。訳しても回文にならないかとあれこれ考えたが、意味はまあ無視して「運命の命運」くらいしか思い浮かばない。

それはさておき中味はまず「アクロスチフ(各行の最初の文字を上から読むと言葉や語句になっている詩)」が収められている。例えば、ビリュコーフの作品。

Аве распетое А
Йтом нелной дугоЙ
Глоссой золотом драГ
Истиной воль путИ

行の最初にも最後にも大文字の АЙГИ (アイギ)が読み込まれている。これは、彼の敬愛する詩人ゲンナジー・アイギのこと。しかし意味不明の語もあり翻訳不可能。

次に「パリンドローム」。ガヴリラ・デルジャーヴィン(1743-1816)もパリンドローム詩を作っていたとは驚き!

Я разуму уму заря,
Я иду с мечем судия

たしかに見事に回文になっている。

他に「タフトグラマ(各行が同じ文字で始まる詩)」。
「ヴィジュアル詩」。これは、詩行が三角形や星形などになっているもの、デザイン化されたもの、文字と絵のコラボ、手書きのものなどさまざまだ。
そして「ザーウミ詩(超意味詩)」。20世紀初頭に未来派詩人たちが試みたザーウミを現代に受け継いでいるのがビリュコーフである。

彼は11月3日(日)日本ロシア文学会と上智大学との共催でおこなわれたシンポジウム「世界のロシア・アヴァンギャルド研究の断面」にもパネリストとして参加した。
シンポジウムの最後に彼は「国際アヴァンギャルド・アカデミー」の会長として、日本支部を発足させ、冨山大学の武田昭文さん、上智大学の村田真一さんと井上幸義さんを「アカデミー会員」に「認定」した。どこまでも真面目な顔でパフォーマンスしているのが面白かった。

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2013年11月 5日 18:25に投稿されたエントリーのページです。

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