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亀山科研研究会

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昨日(土)学士会館で、亀山郁夫・元本学学長(現・名古屋外国語大学学長)を代表とする科研「ポスト・グローバル時代から見たソ連崩壊の文化史的意味に関する超域横断的研究」の研究会をおこなった。

今回は、ワシーリイ・グロスマン 『人生と運命』 齋藤紘一訳(みすず書房、2012年)の読解をテーマに、ソ連のユダヤ人問題を専門にしている長尾広視氏が書評参加してくださり、それを塩川伸明先生にご紹介いただいた。さらに、ユダヤ人問題とグロスマンに詳しい赤尾光春氏と訳者の齋藤紘一氏、みすず書房編集者の川崎万里さんの特別参加も得て、非常に充実した会になった。

私にとって最も印象的だったのは、第二次世界大戦までソ連では反ユダヤ主義はあまり見られなかったのに、戦争が勃発するや統制がきかなくなり民衆レベルでの反ユダヤ主義が席巻したということ、つまり「ソ連共産党は草の根の反ユダヤ主義に屈服した」という点だ。戦争が人々のどす黒い差別の本能を露わにしたのだろう。
少なくともこの点でソ連は、最初から反ユダヤを政策に掲げていたナチスとは異なると言える。しかしグロスマンがすごいのは、そうした違いはあるにせよ、ナチスの収容所とソ連の収容所は「本質的に同じ」なのではないかということを文学作品で提示したところだ。ソ連当局にとって、ファシズムのナチスとソ連の収容所が同じだなどと批判されることほど手痛い打撃はなかったはずだから。

『人生と運命』が完成したのは 1960年。時期的には「雪解け」が始まっていたし、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』は1962年に発表された。しかし、グロスマンのこの作品がロシアで出版されるのは1988年、四半世紀以上経ってからだった。

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2013年8月18日 14:36に投稿されたエントリーのページです。

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