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2013年8月 アーカイブ

2013年8月 4日

砂の美術館

鳥取県の国際交流財団主催の「とっとり国際塾~ロシアを知ろう」で講演をした後「砂の美術館」に立ち寄り、砂と水だけで作られているとはとても思えない素晴らしい砂像の数々に圧倒された。


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展示は、日本人の茶圓勝彦さんが総合プロデューサーで、オランダ、カナダ、インド、中国、イタリア、アメリカなど世界の一流アーティストたちが参加した国際的なイベントだった。ロシアからも、イリヤ・フィリモンツェフとアレクセイ・シチトフという2人のアーティストが参加したようだ。

毎年テーマが決められ、それに沿って砂像がつくられるというが、今年のテーマは「東南アジア」。
アンコールワット、ボロブドゥール遺跡、宮廷の舞踊、影絵芝居など幻影のような歴史の数コマを、砂という脆く儚い素材で再現すること。限りある生命、永遠には続かない栄華は、本質的に砂の彫刻に適していると言えるかもしない。

2013年8月11日

プーシキン、マティス、ニシン

猛暑の中、3年ゼミの課外授業+春学期の打ち上げ+留学組の壮行会を兼ねて、横浜美術館のプーシキン美術館展と横浜長者町のロシア料理店 「ミーフバー Миф бар」に行く。
研究留学生のカーチャさんとコースチャさんも参加してくれた。


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見事なフランス絵画コレクション。ロシアの宮廷の財力とコレクターたち(シチューキンやモロゾフ)の鑑識眼の高さにあらためて驚かざるをえない。

今回とくに気に入ったのは、マティスの「カラー、アイリス、ミモザ」。
構図といい色彩といい非常にユニークで、まるで作品自体から一種独特の芳香が漂ってくるかのようだった。
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ミーフバーの「ミーフ」とは「神話」の意味。
シェフがロシア人というだけあって、とても美味しかった。とくにここの「сельдь под шубой (毛皮コートをまとったニシン)」はお勧めだ。このオシャレな名前のサラダ、ビーツとジャガイモとニシンの塩漬けを層状に重ねたもので、じつは私の大好物!
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2013年8月12日

『美しい子ども』 まもなく刊行!

作品の質の高さと装丁のセンスの良さで評判の外国文学シリーズ「新潮クレスト・ブックス」が、今年で創刊15周年を迎えたそうだ。
おめでとうございます!

15周年を記念して、このたび松家仁之編 『新潮クレスト・ブックス短編小説ベスト・コレクション 美しい子ども』 が刊行されることになり、拙訳ウリツカヤの 『女が嘘をつくとき』 からも1編収録されることになった。


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創刊10周年の2008年に堀江敏幸編 『新潮クレスト・ブックス短篇小説ベスト・コレクション 記憶に残っていること』 が出ているので、今回のアンソロジーは第2弾ということになる。

クレスト・ブックス創刊時の編集長で現在作家として活躍中の松家仁之さんが「厳選」したのは次の11人の作品。どうぞお楽しみに。

(1) アンソニー・ドーア 「非武装地帯」 岩本正恵訳
(2) ジュンパ・ラヒリ 「地獄/天国」 小川高義訳
(3) ナム・リー 「エリーゼに会う」 小川高義訳
(4) リュドミラ・ウリツカヤ 「自然現象」 沼野恭子訳
(5) ミランダ・ジュライ 「水泳チーム」「階段の男」 岸本佐知子訳
(6) クレメンス・マイヤー 「老人が動物たちを葬る」 杵淵博樹訳
(7) ディミトリ・フェルフルスト 「美しい子ども」 長山さき訳
(8) ウェルズ・タワー 「ヒョウ」 藤井光訳
(9) ネイサン・イングランダー 「若い寡婦たちに果物をただで」 小竹由美子訳
(10) ベルンハルト・シュリンク 「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」
松永美穂訳
(11) アリス・マンロー 「女たち 」小竹由美子訳

2013年8月15日

モスクワで国際研究集会 「文化の変容・パースペクティヴの変容」

現在、本学大学院では、和田忠彦教授を代表とする共同研究グループで 「20世紀以降の文化横断的現象としての表象変容に関する日欧共同研究」 を進めている。
学術振興会「頭脳循環プログラム」の助成を得て、若手研究者をイタリアに3名(ボローニャ大学)、ドイツ語圏スイスに1名(チューリヒ大学)、ロシアに2名(国立芸術学研究所、ロシア国立人文大学)派遣している。優れた若手研究者の育成をめざすとともに、イタリア語圏、ロシア語圏、ドイツ語圏研究機関との協力関係を強化して国際的なネットワークの構築を図るのが目的である。


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3月にボローニャ大学でキックオフミーティングをしたときの写真


この共同研究の一環として、来月モスクワで国際研究集会 「文化の変容・パースペクティヴの変容」 をおこなう。モスクワ留学中の院生、鈴木裕也くん、佐藤貴之くんとともに今その準備に追われている。

プログラムは4つのセクションに分かれ、約40名の報告者がロシア語、イタリア語、英語で研究報告をおこなう。
この時期たまたまモスクワにいるという方、よかったら聴きに来てください。

日時: 2013年9月13日(金)11:00-18:30 14日(土)12:00-18:00
場所: モスクワ・イタリア文化会館

文学セクション
イリーナ・シャートワ(古典私立大学)「儀式、フォークロア、文学の形式に見られるカーニバル的グロテスク」
オリガ・ブトコワ(芸術学研究所)「1920-30年代のソヴィエト芸術におけるお伽噺的プロットの解釈法」
佐藤貴之(東京外国語大学・ロシア人文大学)「ピリニャークの敗北、あるいは革命の終焉:『マホガニー』の改作をめぐる問題」
エヴゲーニイ・ニキーチン(世界文学研究所)「ゴーリキイと『偉大なる転換』」
原真咲(東京外国語大学)「V・P・ピドモヘィーリネィイ『町』における都市の変容」

1920-30年代文化セクション
セルゲイ・ビリュコフ(マルティン・ルター大学)「アヴァンギャルドと全体主義」
ヴィクトリヤ・ヴォスクレセンスカヤ(芸術学研究所)「1930年代におけるソヴィエト芸術界における世界観の変容」
山口裕之(東京外国語大学)「ベンヤミンとロシア・アヴァンギャルド:技術性と神学」
タチヤナ・ベンベリ(シチェメリョフ芸術ギャラリー[ベラルーシ])「1920-30年代のベラルーシにおけるアヴァンギャルド」
オリガ・フルマン(トレチャコフ美術館)「1920-30年代のソヴィエト絵画におけるスプレマチズム的祖型」
リュボーフィ・プツェルキナ(トレチャコフ美術館)「ニクリーチンの投影主義あるいは『権力』のない未来」
レフ・マシエリ=サンチェス(建築理論・都市計画学術研究所)「1910-40年代におけるシチューセの地方都市建造物は民族的か植民地的か」
鈴木佑也(東京外国語大学・芸術学研究所)「全体主義下におけるソヴィエト建築家同盟と現代建築国際会議」
アンナ・グーセワ(建築理論・都市計画学術研究所)「ダーチャの文化とソヴィエト権力」

日露文化比較セクション
ゲンナジイ・クリュコフ(モスクワ第一医科大学)「日露文化の相互影響関係に関する複合的研究:ブルリューク、パリモフ、ブブノワの日本滞在」
ユーリイ・ギーリン(世界文学研究所)「アヴァンギャルドの変容性:村山知義、レオナール・フジタ」
ユリヤ・エゴーロワ(世界文学研究所)「往復書簡から見た日本とゴーリキイ」
ヴィクトリヤ・クラフチェンコ(モスクワ教育アカデミー)「『銀の時代』のロシア文学に見る日本の表象」
沼野恭子(東京外国語大学)「ジャポニスムの逆説:20世紀初頭ロシアにおけるキモノの受容」
ヴェーラ・フレーブニコワ(画家)「マイ・ミトゥーリチの作品に見る日本、日本における作品の受容」
タチヤーナ・アルパートワ(モスクワ州立大学)「ウラジーミル・シンカリョフの『マクシムとフョードル』に見られる日本文化表象の遊戯的変容」
オリガ・シュガーン(世界文学研究所)「世界文学出版所と日本文学翻訳の問題:1920年代を中心に」
オリガ・ザベレジナヤ(ペテルブルク大学)「志賀直哉の翻訳と西欧における受容の困難」
笹山啓(東京外国語大学)「ペレーヴィンと自殺:短編「盆の客」における三島由紀夫作品の影響」
キリル・ロプコフ(モスクワ教育アカデミー)「現代ロシア文化に見る禅の思想」

イタリア文化セクション
アンナ・ヤンポリスカヤ(世界文学研究所)「アルド・パラッツェスキの作品における身体の表象と認識」
石田聖子(東京外国語大学・ボローニャ大学)「ポリドールの《ピノッキオ》:ある身体の冒険」
横田さやか(東京外国語大学・ボローニャ大学)「ジャコモ・バッラにみられる身体性の変容:地上の動きから空の動きへ」
ミハイル・フェイギン(ロシア舞台芸術大学)「ピランデッロの『ヘンリー四世』とシェークスピアの『ヘンリー四世』:比較分析」
アンナ・アキーモワ(世界文学研究所)「イタリアとロシアにおける操り人形(ピノキオ)の物語」
ヴィクトリヤ・セニナ(ペテルブルク市基本計画学術研究設計センター)「アルマンド・ブラジーニとボリス・イオファン:全体主義建築の巨匠」
エカテリーナ・フェイギナ(モスクワ大学])「モンターレの詩集『機会』におけるエルメティズモの詩学」
小久保真理江(東京外国語大学・ボローニャ大学)「チェーザレ・パヴェーゼとウォルト・ホイットマンの詩における身体の表象」
ユリヤ・ガラチェンコ(高等経済院)「ボリス・パステルナーク、イタリアとロシア:二つの文化の交差」
リュドミラ・サブロワ(ロシア人文大学)「トマーゾ・ランドルフィの日記と短編小説の比較分析」
アレクサンドラ・ビビコワ(モスクワ大学)「ルイジ・ピランデッロの作品における身体の表象」
ダリヤ・ベロクリーロワ、トマーゾ・ワルセーリ(ジェノバ大学)「イタリアの現代詩人の作品における日本的要素:エドアルド・サングイネーティ、ペルラ・カッチャグエッラ、エドアルド・ガルラスキなど」
和田忠彦(東京外国語大学)「声、意味ではなく:『アメリカ豹日和』におけるカルヴィーノの認識様態」

2013年8月18日

亀山科研研究会

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昨日(土)学士会館で、亀山郁夫・元本学学長(現・名古屋外国語大学学長)を代表とする科研「ポスト・グローバル時代から見たソ連崩壊の文化史的意味に関する超域横断的研究」の研究会をおこなった。

今回は、ワシーリイ・グロスマン 『人生と運命』 齋藤紘一訳(みすず書房、2012年)の読解をテーマに、ソ連のユダヤ人問題を専門にしている長尾広視氏が書評参加してくださり、それを塩川伸明先生にご紹介いただいた。さらに、ユダヤ人問題とグロスマンに詳しい赤尾光春氏と訳者の齋藤紘一氏、みすず書房編集者の川崎万里さんの特別参加も得て、非常に充実した会になった。

私にとって最も印象的だったのは、第二次世界大戦までソ連では反ユダヤ主義はあまり見られなかったのに、戦争が勃発するや統制がきかなくなり民衆レベルでの反ユダヤ主義が席巻したということ、つまり「ソ連共産党は草の根の反ユダヤ主義に屈服した」という点だ。戦争が人々のどす黒い差別の本能を露わにしたのだろう。
少なくともこの点でソ連は、最初から反ユダヤを政策に掲げていたナチスとは異なると言える。しかしグロスマンがすごいのは、そうした違いはあるにせよ、ナチスの収容所とソ連の収容所は「本質的に同じ」なのではないかということを文学作品で提示したところだ。ソ連当局にとって、ファシズムのナチスとソ連の収容所が同じだなどと批判されることほど手痛い打撃はなかったはずだから。

『人生と運命』が完成したのは 1960年。時期的には「雪解け」が始まっていたし、ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』は1962年に発表された。しかし、グロスマンのこの作品がロシアで出版されるのは1988年、四半世紀以上経ってからだった。

2013年8月20日

『私のいた場所』 まもなく刊行!

ペトルシェフスカヤの幻想小説集がまもなく刊行される。
リュドミラ・ペトルシェフスカヤ 『私のいた場所』 沼野恭子編訳(河出書房新社、2013年)。


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全部で18編から成る短編アンソロジーだ。
独特な後味の残る不思議な物語、ちょっと怖い怪談のようなピリ辛の掌編、甘い隠し味のお伽噺...。現実と幻想がさまざまな比率で調合されていて、どれひとつ同じ味わいのものはない。リアリストとして紹介されてきたペトルシェフスカヤの幻想作家としての新たな魅力をぜひ堪能していただきたい。

「あとがき」の拙文から一部抜粋しよう。

「総じてペトルシェフスカヤの幻想小説は、愛を求め、あるいは愛にもがき苦しむ魂が、ふと現世を突き抜けて死者の世界に近づき、生と死の境界領域をわけもわからずにさすらったり死者と出会ったりすることによって、生の意味や愛の本質を感得する。『人生にはほんのときたま、生と死の間にはわずかな距離しかないということがわかる瞬間がある』(『三つの旅―メニッペアの可能性』)。このことを作家はいろいろな形で繰り返し物語っているかのようだ」


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2013年8月25日

岩手旅行

岩手を旅した。
花巻では宮沢賢治ゆかりの地を訪ね(宮沢賢治記念館、イーハトーブ館、童話村)、遠野では 柳田國男『遠野物語』の原風景を求めてまわる(かっぱ淵、ふるさと村、デンデラ野)。ふるさと村に保存されている茅葺屋根の「南部曲り家」が面白かった。人の住む空間と厩がL字型でつながったもの。人と馬が文字どおり「一つ屋根の下で」一緒に住んでいた様を知ることができた。


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人と馬が一体だったというのは、この地方に伝わる「オシラ様」伝説とよく符号する。
言い伝えによると、ある娘が飼い馬と夫婦になり、父親の怒りを買う。父がその馬の首をはねると、娘は馬の首に飛び乗り昇天してオシラ様になったという。オシラ様は農業の神、蚕の神として信仰されてきたそうだ。

ロシアのラジオ局 「Голос России (ロシアの声)」の東京特派員でロシアに関するさまざまな情報を発信している いちのへ友里さんに教えていただいた雫石の御所湖畔にある川村美術館にも足を伸ばす。館長自ら集めたというロシアや東欧のアートを展示している私設美術館で、折からスタシス展が開かれていた!


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スタシス・エイドリゲヴィチュス(1947年生れ)はリトアニア出身、ポーランドに移住したアーティストだ。スタシスというのはファーストネームだがこの名で知られ、国際的に非常に高い評価を受けている。一度見たら忘れることのできない彼の特異な作品にはどれも、人間存在のいたたまれなさ、神秘、不気味さを一瞬のうちに呼び起こす不思議な力がある。
岩手でスタシスに会えるとは思ってもいなかった。

これは、スタシスのイラストによる絵本。クルト・バウマン『ペロー童話 ながぐつをはいたねこ』斉藤洋訳(ほるぷ出版、1991年)
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