2001年にロシア・ブッカー賞を受賞した作品が日本語に翻訳された!
リュドミラ・ウリツカヤ 『クコツキイの症例―ある医師の家族の物語』 日下部陽介訳(群像社、2013年)である。
この大作が日本の読者に届けられることになってとても嬉しい。
第二次世界大戦の最中、疎開先の病院で主人公のユダヤ人医師パーヴェル・クコツキイが、後に妻となるエレーナの手術をする。パーヴェルには患部が「透視」できてしまうという不思議な能力が備わっていた。
こうしてこの「家族年代記」は最初からかすかに神秘的な色調を帯びつつ、当時禁止されていた人工中絶の解禁のために奮闘するパーヴェルとその家族を中心に据え、ソ連社会の一局面をリアルに描いて雪解け時代に至る。
社会と人間、生と死、宗教といった大きなテーマに真正面から取り組むウリツカヤ。
彼女を「現代のトルストイ」と呼びたい誘惑に駆られる。